時評『新型コロナウイルス感染症が医療に与えた影響』

島田 勇作

2019年12月、原因となる病原体が特定されていない肺炎の患者が確認され、2020年1月に世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」と宣言してから、早くも2年半が経過しました。「緊急事態宣言」等による行動の制限や「3密」回避に代表される感染防止策の徹底、リモートワークの導入・普及によるワークスタイルの変化など、新型コロナウイルス感染症は、私たちの暮らしに多大な影響を及ぼし、これまでの生活様式を一変させました。

医療の分野でも、「オンライン診療」が急速に普及しました。オンライン診療については、新型コロナウイルス感染症流行下で、診療報酬上の特例的・時限的な対応(「コロナ特例」)がとられてきましたが、今年度の診療報酬改定により、施設基準等を満たせば初診からのオンライン診療が認められるようになりました。また、今年度の診療報酬改定では「リフィル処方箋」も導入されました。「リフィル処方箋」とは、一定期間内に繰り返し使用できる処方箋で、患者はその期間中、医師の再診を受けずに薬局で薬を受け取ることができます。政府は、通院回数削減による患者負担の減少、医療費の適正化などを掲げて導入しましたが、コロナ禍で見られた受診回数の減少も影響していると思われます。

新型コロナウイルス感染症の予防の分野でも、ワクチンが予想以上に早く開発されました。従来の不活化ワクチン等であれば開発に数年が必要とされていましたが、mRNAワクチンが1年以内に開発されました。通常は、開発に数年かかるワクチンが、わずか1年足らずで開発され、さらにヒトに実用化されるのは今回が初めてであったことから、当初、ワクチン接種に不安を持つ方も多くいました。しかし、mRNAワクチンの技術は、十年以上前からすでに研究されてきた技術であり、今回のパンデミックにより実用化が急速に進んだものになります。mRNAワクチンの技術は、遺伝情報さえ分かれば、他の病気にも対応可能な仕組みであり、すでに HIV 感染症や各種がんに対するワクチンなどの臨床試験が行われています。今回の新型コロナウイルス感染症ワクチンの実用化により、今後の創薬・ワクチン製造の仕方に大きな影響を与えるものと思われます。

新型コロナウイルス感染症の治療の分野でも、大きな動きがあります。現在、国内で承認されているコロナの抗ウイルス内服薬は、海外製のものが2種類ありますが、現在、国産初の抗ウイルス内服薬の開発が進んでいます。今年7月の審議では緊急承認には至りませんでしたが、11月以降に再度審査が行われる予定です。国産の抗ウイルス内服薬が承認されれば、国内での大量かつ安定的な供給が見込めるため、現在議論の始まった感染症法上の2類相当から5類相当への分類変更と合わせて、今後、新型コロナウイルス感染症をインフルエンザ並みの対応とすることで医療の逼迫、崩壊を防ぐことができるかもしれません。

今年の2月にピークを迎えた第6波は、その後落ち着きをみせていましたが、7月に入り、感染力の強いオミクロン株の新系統「BA.5」の拡大により、第7波に突入しました。更に、7月に入って、「BA.5」のおよそ3倍の感染力を持つとされるオミクロン株の新たな変異種「BA.2.75」(別名「ケンタウロス」)が日本でも確認されており、現在の第7波が収束しきれないうちにケンタウロスに置き換わると次の大きな波(第8波)が起こる可能性もあります。

新型コロナウイルス感染症は、私たちの生活様式を大きく変えました。一方で、医療の分野では、それに対抗するため革新的なワクチン、治療薬を生み出し、「オンライン診療」の急速な普及などをもたらしました。まだまだ、先が見えない状況ですが、人類は、必ずや新型コロナウイルス感染症に打ち勝ってくれるものと信じています。

島田 勇作


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