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ここが知りたい『食料自給率~コロナ禍で高まる産地応援意識と健康志向の影響~』

髙宮 咲妃

目次

農林水産省は今年8月、2020年度の供給熱量(カロリー)ベースの食料自給率が前年度から1ポイント減少し、37%になったと発表した。これは1965年度以降過去最低を記録したということで大きな話題となった。 本稿では、国内の食料自給率の現状を把握したうえで、コロナ禍で変化しつつある人々の食に関する意識の変化についてまとめた。

食料自給率とは

そもそも食料自給率とはどのように計算されるのか。食料自給率には総合食料自給率と品目別自給率の2種類があるが、一般的に「食料自給率」というと総合食料自給率のことを指す。総合食料自給率とは、食料全体について単位を揃えて計算した自給率だ。農林水産省は熱量で換算する供給熱量(カロリー)ベース総合食料自給率(※1)と金額で換算する生産額ベース総合食料自給率(※2)の2種類を算出している。日本では食料自給率というと、前者の供給熱量(カロリー)ベース総合食料自給率を指すことが殆どである。

日本の食料自給率は、両者ともに長期的に低下傾向であり(資料1)、農林水産省はその要因として「自給率の高い米の消費が減少し、飼料や原料を海外に依存している畜産物や油脂類の消費量が増えた」ことを挙げている。

資料1 食料自給率の推移
資料1 食料自給率の推移

食料安保の視点からも求められる自給率向上

日本の食料自給率は先進国と比較しても供給熱量(カロリー)ベースで低い現状にある(資料2)。

資料2 日本と諸外国の食料自給率(2018年)
資料2 日本と諸外国の食料自給率(2018年)

同じく食料自給率が約50%と欧州の中でも下位のスイスは、山岳地域が多く、農業生産条件に適しているとはいい難い。人件費が高いこともあって、安い農産物の輸入が増加している。この危機感からスイスでは2017年に主要国で初めて「食料安全保障を憲法に明記する」ことが国民投票で可決された。

日本でも1999年7月に公布・施行された「食料・農業・農村基本法」において食料安全保障に関する規定を設け、不測時において国が必要な施策を講ずることを明らかにしている。平時の安定供給については、国内の農業生産の増大を図ることを基本としており、2020年3月に閣議決定された「食料・農業・農村基本計画」では、2030年度までに供給熱量(カロリー)ベース総合食料自給率を45%、生産額ベースを75%に高める目標を掲げている。 農林水産省は目標達成に向けて、生産者に対しては多くを輸入する小麦や大豆などの国産代替を増やす活動を、国民に対しては「食育」「地産地消」等を推進している。

高まる産地応援意識と健康志向は食料自給率向上に結び付くか

冒頭にも記載のとおり、2020年度の供給熱量(カロリー)ベースの食料自給率は過去最低となった。これは、小麦の生産量が前年に比べて減少したことや食の欧米化等によるコメ需要の減少に歯止めがかからなかったことを受けたものである。一方、生産額ベースの食料自給率については、コロナ禍による外食需要の減少等の影響で、魚介類や牛肉、鶏肉、豚肉等の輸入額が減り、前年度の66%から1ポイント上昇している。

2021年度は、コロナ禍による外食需要の減少が続き、コメの在庫が増加し、米価が大幅に下落した。以前から続く「コメ離れ」にコロナ禍が追い打ちをかける形で産地へ大きな影響を与えている。

そのような中、コロナ禍を機に人々の産地応援の意識は高くなっている。2021年1月に日本政策金融公庫が実施した消費者動向調査によると、産地の応援を「大いに気にかけている」と「やや気にかけている」を合わせた割合は56.2%となった。コロナ禍以前(2020年1月以前を振り返ったときの回答)の45.2%と比べ11.0 ポイント高くなっている(資料3)。

資料3 国内の農林水産業・産地を応援する意識の変化
資料3 国内の農林水産業・産地を応援する意識の変化

また、同調査では、食に関する志向も調査しており、低下傾向にあった食の「健康志向」は41.4%と前年より1.7 ポイント上昇している(資料4)。これは、昨今の国民の健康意識の高まりに加え、コロナ禍で自分自身の生活を見直す人々が増加したためとみられる。健康志向に伴い、栄養バランスを考えた食生活の浸透が進み、輸入飼料に頼っている畜産物や、原材料の多くを輸入に頼る油脂類の代わりに、多くを国内で賄える野菜等の消費が増える可能性がある。農林水産省は、供給熱量(カロリー)ベースの食料自給率を1%向上させるために必要な消費の拡大量として、国民1人当たり、ごはんであれば、一食につきもう一口の消費をふやせば良いと試算している。このように国民一人一人の消費の変化が食料自給率に与える影響は大きい。コロナ禍で高まる産地応援意識と健康志向が、政府の目指す食料自給率向上に結び付くか、今後の動向を注視していきたい。

資料4 食に関する志向(健康志向、2008年12月調査か らの推移)
資料4 食に関する志向(健康志向、2008年12月調査か らの推移)


※1 基礎的な栄養価であるエネルギー(カロリー)に着目して、国民に供給される熱量に対する国内生産の割合を示す指標。飼料の多くを輸入に依存している畜産物については、飼料が欠けては生産が成り立たないことから、飼料自給率を乗じて計算されている。(農林水産省HPより)

※2 経済的価値に着目して、国民に供給される食料の生産額に対する国内生産(食料の国内消費仕向額)の割合を示す指標。畜産物の計算方法は※1と同様。(農林水産省HPよ

髙宮 咲妃


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