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- 注目のキーワード『デジタル・シティズンシップ』/編集後記(2022年6月号)
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今年4月下旬、政府の統合イノベーション戦略推進会議にて「Society5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ」が公表されました。本パッケージは、社会構造と子供たちを取り巻く環境が変化する中、今後5年程度で整えるべき子供たちの学習環境や求められる政策を整理しています。その政策の一つとして、自分たちの意思で自律的にデジタル社会と関わっていくための「デジタル・シティズンシップ教育」の推進が挙げられました。
デジタル・シティズンシップは様々に定義されていますが、簡単に言うと、デジタル社会の一員として必要な「デジタル技術を活用し、積極的かつ責任を持って社会に参画する能力・資質」といえます。日本では、類似の概念として「情報モラル」があります。これまで主に学校で進められてきた「情報モラル教育」は、SNSやインターネットの危険性などを教えていますが、その対処法が使用の抑制やルールの順守に偏っていることが指摘されてきました。「危険だから使わない」という結論に陥るのではなく、デジタル技術を正しく理解した上で、もっと積極的に活用し、社会に役立てていく視点も必要です。その点、デジタル・シティズンシップ教育は、子供たち自身が善し悪しを考え、ICTのよき使い手になることを目指しています。
デジタル・シティズンシップは、2000年代後半に米国で発展し、その後欧州に広がっていきました。近年日本で注目が高まっている背景には、2019年に文科省が打ち出したGIGAスクール構想により、学校における一人一台端末が実現したことがあります。さらに、今年4月には成人年齢が引き下げられました。デジタルが社会インフラとなっている現代において、契約の締結や選挙権の行使などの社会参加には、オンライン空間での情報収集やコミュニケーション、合意形成は必須です。SNS詐欺やフェイクニュースが広がる中で責任ある行動をとるために、デジタル・シティズンシップの必要性はますます高まっています。
デジタル・シティズンシップを育むべきは子供たちだけではありません。リモートワークが進み、ICTを介したコミュニケーションは増加しました。メタバースが急拡大するなど、オンラインのつながりはさらに広がっていくと考えられます。まずは、大人がデジタル・シティズンシップを身に付け、ICTのよき使い手として、子供たちに模範を示すべきでしょう。
編集後記
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が既に2カ月以上続いている。今回の紛争ではロシアのエネルギー資源の輸出入に大きな関心が向けられてきた。ロシアは石油、天然ガス、石炭、いずれも生産、輸出大国だが軍事侵攻に伴う金融、経済制裁による輸出入停止や供給懸念から価格は上昇している。エネルギー資源をロシアからの輸入に頼っていた国は大変だ。急に輸入停止と言われても代替調達は簡単ではない。
加えて、我々が忘れてはならないのはウクライナが「欧州のパンかご」と呼ばれるほどの小麦の生産、輸出大国であり、ロシアも農業大国という事実だろう。小麦の輸出シェアはロシアが18.8%(1位)、ウクライナが9.1%(5位)で合わせて27.9%(2020年輸出量、FAO、以下同)。トウモロコシはウクライナが14.5%(4位)。ひまわり油はウクライナが44%(1位)、ロシアが20.5%(2位)で合わせて64.5%。小麦、コメ、トウモロコシが世界の3大穀物(主食)と言われるがウクライナ、ロシアの存在感は大きい。この紛争によって生産、輸出に大きな制限がかかることが懸念され穀物、植物油の価格もエネルギーと同じ、モノによってはそれ以上に上がっている。またロシアから輸入しないと言っても穀物はエネルギー以上に代替調達は難しい。
穀物輸入はアフリカ、中東、南アジア諸国でも多い。エジプト始め2010年のジャスミン革命から始まるアラブの春と言われる中東、北アフリカの民主化の動きも穀物価格の上昇が一因とされている。エネルギー高、食糧高、インフレ懸念でなくインフレによるFRBの金融引締め。事実だけ並べても市場から「強く警戒しろ」と言われているような気がしてならない。(H.S)
鄭 美沙


- 鄭 美沙
てい みさ
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総合調査部 政策調査G 課長補佐
専⾨分野: 教育、ダイバーシティ、金融リテラシー
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