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2026.01.29
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家事支援サービスの国家資格化と経済的支援への期待と課題
~求められる家事労働の再評価と「家事を任せる」という意識~
鄭 美沙
- 要旨
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政府の「日本成長戦略会議」において、家事支援サービス利用に対する経済的支援と、担い手の国家資格化が打ち出された。本稿では、家事支援サービスを取り巻く現状を整理したうえで、支援策に対する期待と課題を考察する。
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当研究所が行った調査によると、家事代行等を積極的に利用した経験のある人は、共働き世帯においても20.9%にとどまっている。利用しない理由としては、費用面に加え、他人が家の中に入ること等への抵抗感が指摘されている。
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国家資格化により、一定の専門性が可視化されれば、家事支援サービスの提供者およびサービスの質に対する信頼のシグナルとして機能し、心理的抵抗感を緩和させる可能性がある。経済的支援も、費用面の制約への対応策になりえる。また、提供者にとっても、国家資格化は職業としての社会的地位の向上等につながることが期待される
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一方で課題もある。一定の自己負担が残ることなどから、中高所得層の方が相対的に経済的支援の恩恵を受けやすい。また、家事労働の価値を低く評価し、家事に対価を支払うこと自体への抵抗感がある場合も利用は進みづらい。
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提供者にとって、国家資格化は受験費用等の新たなコストが発生する可能性がある。負担に見合った賃金や処遇が確保されなければ、提供者が不足する懸念がある。既に市場は人手不足である。経済的支援が有資格者のサービスに限定された場合、需給のミスマッチはより深刻になるだろう。
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家事支援サービスの利用は、高齢者世帯はじめ幅広い層にメリットがある。また、家事の外部化は中長期的な経済成長の要因にもなりうる。政府には、所得等にかかわらず利用しやすい制度設計が求められる。加えて、社会全体としても、家事労働の価値を改めて評価し、家事を外部サービスに任せることが一般的な選択肢として社会に定着していくことが期待される。
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- 目次
1. 家事支援サービスの国家資格化と経済的支援
政府は、家事等の負担軽減に向けた支援策の検討を進めている。2025年末に開催された政府の「日本成長戦略会議」において、家事支援サービスおよびベビーシッターの利用促進策が打ち出された。家事等の負担軽減は、高市首相が公約でも掲げてきた政策課題であり、離職防止等の効果が期待されている。
具体的な支援策としては、利用に対する経済的支援のほか、家事支援サービスの担い手の国家資格化等が挙げられている。国家資格化の対象として想定されているのは「家政士」である。家政士検定は、日本看護家政紹介事業協会が2016年より実施している。
今後、政府において、家事支援サービスやベビーシッターを巡る利用実態やニーズの調査をはじめ、人材確保に向けた検討、支援策の在り方等について検討が進められる見込みである。拙稿「人口減少時代の生活者のマインド~『5つの変化』に生活者は対応できるのか~」で指摘したように、こうしたサービスは共働き家庭の負担を軽減させ、少子化対策にもつながる。本稿では、家事支援サービスを取り巻く現状を整理したうえで、支援策に対する期待と課題を考察する。
2. 家事・育児支援サービスの利用実態
家事支援サービスとは、事業者のスタッフが利用者宅を訪問し、主に利用者宅において、家事に関する業務(掃除、洗濯、炊事等)の全部又は一部を利用者に代わって行うサービスである(注1)。家事代行とも表現される。
当研究所では、家事代行サービスやベビーシッターなどの育児支援サービスの利用状況について調査した。その結果、「積極的に利用している、もしくは積極的に利用していた人」の割合は17.4%であり、共働き世帯においても20.9%にとどまる。
性別・年代別にみると、18~20代の男性が最も高く29.0%であった(資料1)。育児や介護と仕事との両立を考えると、より高い年代においても利用のメリットは大きいと考えられるが、利用者は依然として少数派である。本調査はベビーシッターなども含まれるため、家事代行サービスに限ると、利用経験者はより少ないとみられる。
日本成長戦略会議の資料によると(注2)、家事支援サービスを利用しない理由の上位は、「所得に対して価格が高い」という費用面の課題のほか、「他人に家の中に入られることに抵抗がある」「他人に家事等を任せることに抵抗がある」「セキュリティに不安がある」という心理的抵抗感や、「サービスを利用する必要性を感じない」といったことが挙げられていた。

3. 国家資格化・経済的支援に期待される効果
家事支援サービスの国家資格化と経済的支援は、こうした課題を解消し、利用を促進できるのか考えていく。まず、国家資格化によって期待されるのは、「他人に家の中に入られることに抵抗がある」や「セキュリティに不安がある」といった心理的抵抗感の緩和である。現状、家事支援サービスの提供者に対する事前評価は、マッチングサイト上などの口コミや、派遣元の企業に対する信頼感に依存している。国家資格化によって、一定の専門性や基準が可視化されれば、提供者およびサービスの質に対する信頼のシグナルとして機能し、他人を家に入れることやセキュリティへの不安が軽減する可能性がある。
なお、「セキュリティに不安がある」という点については、テレビドラマの影響もあってか、他人に家の中を見られることへの不安もあると考えられる。既に、家政士検定試験には「倫理とコンプライアンス」の項目が設けられており、その専門性には、家事スキルだけでなく、守秘義務をはじめコンプライアンス意識も含まれる。また、家事支援サービス事業者の多くは、スタッフに対するプライバシー管理を徹底しており、その方針をHP等で明示している。そうした職業倫理が、国家資格化を契機に利用者にもより広く認知され、不安軽減につながることが期待される。
次に、経済的支援は、「所得に対して価格が高い」という費用面の制約への対応策になりえる。支援方法(税額控除・補助金等)や支援水準については、現時点ではあきらかになっていない。たとえば、既に家事支援税制が導入されているフランスでは、基本的には年間控除額6,000ユーロを上限として(2026年1月時点)(注3)、利用額の50%が税額控除される。
現在の日本における家事支援サービスの相場は、概ね1時間3,000~4,000円程度である。プラットフォームを通じて、利用者とサービス提供者が直接契約を結ぶマッチング型サービスを利用すれば、これより低廉なケースもある。仮にフランスと同程度の支援水準が導入された場合、実質的な自己負担は約半分に低下することになり、家事支援サービスの利用しやすさは向上すると考えられる。
また、こうした支援策は、家事支援サービス提供者にとっても一定のメリットが見込まれる。家政士の国家資格化は、職業としての社会的地位の向上や、専門性・信頼性の可視化につながることが期待される。経済的支援の導入と合わせると、利用者のすそ野が広がり、需要の拡大を通じて雇用の増加や安定化に寄与する可能性がある。
4. 支援制度導入にあたっての課題
こうした効果が期待される一方で、利用促進に向けては利用者と提供者双方に課題が残されている。
(1)利用者視点の課題
まず、利用者については、相対的に中高所得層の方が利用が多くなり、経済的支援の恩恵を受けやすい点が課題となる。OECDの“Bringing Household Services Out of the Shadows”(2021年)は、家事支援サービス支援に対する政策支援の主な受益者は、中所得層から高所得層であると指摘している。経済的支援が講じられたとしても、一定の自己負担は残るため、所得水準が高いほど利用しやすい。また、仮に支援手法が税額控除となった場合、十分な課税所得を有しない家計は恩恵を受けにくい。加えて、税額控除は基本的に利用後に適用されるため、利用時点の自己負担は変わらず、価格面での利用障壁が残る可能性がある。
さらに、利用しない理由に「他人に家事等を任せることに抵抗がある」「サービスを利用する必要性を感じない」といった回答が挙げられているように、費用や提供者の条件にかかわらず、家事を外注すること自体への抵抗感が利用を抑制している場合もある。この背景の一つには、男女双方に根強く残る「家事は妻がやるもの」といった性別役割分担意識や、家事労働の価値を低く評価し、家事に対価を支払うこと自体への抵抗感があると考えられる。
先述のOECDの報告書でも同様の指摘がある。スウェーデンでは、家事支援サービスに対する税額控除のほか、住宅修繕に対する控除も設けられている。前者に対しては、高所得者のニーズに応えるものだとの批判はあるが、主に男性が担っていた後者については同様の消費傾向にもかかわらず批判は少ない。この点について、女性が多く従事してきた家事・ケア関連の労働が過小評価されていることが示唆されると述べられている。
従って、家事を外部化すること自体への抵抗感に対しては、費用面や制度設計の改善では不十分であるため、家事労働に対する社会的認識の変化を促す視点が不可欠となる。
(2)提供者視点の課題
提供者にとっては、国家資格化により新たなコストが発生する可能性がある。成長戦略会議の資料では、「新設を目指す国家資格保有者など質の高いサービスの利用に対する税制措置を含む支援策の検討」と示されており、有資格者によるサービスのみが経済的支援の対象となる可能性が示唆されている。全てのサービスを一律に支援した場合、質が十分に担保されないおそれがあるため、一定の基準を設けることは必要だろう。ただ、仮にそうした制度設計となった場合、無資格の提供者への需要は相対的に減少し、家事支援サービスに従事するには国家資格の取得が必須となる可能性がある。その結果、資格受験費用や学習時間の確保、場合によっては関連団体への登録料などの負担が新たに生じることになる。そうした負担に見合った賃金や処遇が確保されなければ、サービス提供者が不足する懸念がある。
家事支援サービス市場は、既に人手不足に陥っていると指摘されている(注4)。政府の支援策によって需要の増加が見込まれる一方で、労働市場全体では人手不足が進行しており、家事支援サービス分野における担い手の確保は一層困難になる。上述のとおり、経済的支援が有資格者のサービスに限定された場合、需給のミスマッチはより深刻になるだろう。利用促進策と同様に、家事労働に対する社会的認識を高め、家事支援サービスの担い手に対する処遇改善が不可欠である。
加えて、安全確保も重要な課題となる。家事支援サービスは、主に家という閉じられた空間で提供されるため、利用者の裾野が広がるにつれて、カスタマーハラスメントなどトラブル発生のリスクも高まる。被害から身を守るための具体的な対処方法の周知や、被害発生時に迅速に相談・対応できる体制の整備が求められる。
5. 「家事を任せる」ことの社会的定着
以上、現時点での政府の検討状況を踏まえ、家事支援サービスへの期待と課題を整理した。家事支援サービスは、育児や介護と仕事との両立を支援するための制度と捉えられる側面もあるが、幅広い層に利用のメリットがある。たとえば、高齢者世帯にとっては、買い物や掃除など日常生活上の負担が軽減されるうえ、定期的に外部の人材が訪問することで、離れて暮らす子どもにとっての見守り機能としての役割も果たせる。人口構造の変化により、単身高齢者世帯の増加が見込まれる中、高齢者の需要も拡大の余地があるだろう。
単身世帯にとっても、仕事や勉強などに集中したい場面で活用すれば、時間や心理的余裕を確保し、より効率的に専念できる。さらに、家事のプロフェッショナルによって住環境が整えられることは、生活の質向上や気分転換の効果も期待される。
また、前述のOECDのレポートによると、家事支援サービスに対する経済支援は、政府支出の増加を伴うものの、税収増の効果もあるとされる。具体的には、家事支援サービスの需要拡大や雇用創出による所得税・社会保険料収入等の増加に加え、市場の活性化や、利用者の就業継続・社会進出による税収増、消費構造の変化などが考えられる。つまり、家事の外部化は中長期的な経済成長の要因にもなりうる。
そのためにも、今後、政府には、所得等にかかわらず利用しやすい制度設計が求められる。加えて、社会全体としても、家事労働の価値を改めて評価し、家事を外部サービスに任せることが一般的な選択肢として社会に定着していくことが期待される。
【注釈】
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家政婦は、家政婦紹介所などの紹介により、各家庭と家政婦が直接的な雇用契約を結ぶもので、一般的には家事支援サービスと区別される。(経済産業省「家事支援サービスの活用にかかる取組について」2024年)
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内閣官房日本成長戦略会議(2025年12月24日)「分野横断的課題への対応の方向性」
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税額控除額は、実際に負担した支出の50%であり、基本的に年間支出額の上限は12,000ユーロとなる。ただし、扶養する子どもや65歳超の世帯員の数等によって上限額が上がる。(フランス公共財政総局HP)
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経済産業省受託調査「令和6年度商取引・サービス環境の適正化に係る事業(家事支援サービス業の実態把握・活用推進に係る調査)報告書」デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社(2025年)
【参考文献】
- 鄭美沙「人口減少時代の生活者のマインド~『5つの変化』に生活者は対応できるのか~」(2025年)
鄭 美沙
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

