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内外経済ウォッチ『欧州~高まるECBの年内利上げ観測~』(2022年3月号)

田中 理

目次

欧州でも多くの中銀が政策正常化に着手

欧州各国では新型コロナウイルスの感染拡大が続いているものの、ワクチン接種の進展や過去の感染拡大時と比べて重症化率が低いことから、コロナとの共生を模索する動きが広がりつつある。同時に、経済活動再開による世界のエネルギー需要回復、世界的な脱炭素化の取り組み加速、ウクライナ情勢の緊迫化などを背景に、原油や天然ガス価格の高騰が続いている。エネルギー価格の上昇を背景に、欧州でも各国・各地域の消費者物価の上昇率が軒並み大幅に加速している。

各国中銀は過去数年、コロナ禍による経済的な打撃や金融市場の動揺に対処するため、大規模な金融緩和を実施してきた。だが、景気回復とインフレ圧力の高まりを受け、段階的な緩和縮小に舵を切っている。欧州ではハンガリー、チェコ、ポーランドなどの中東欧諸国、産油国のノルウェーが先行して利上げを開始した。主要先進国中銀の間でも、英イングランド銀行(BOE)が昨年12月に利上げを開始し、米連邦準備理事会(FRB)は3月の利上げ開始を強く示唆している。ユーロ圏の金融政策を一元的に担う欧州中央銀行(ECB)も昨年12月、コロナ危機対応で開始したパンデミック緊急資産買い入れプログラム(PEPP)を3月末に打ち切る方針を発表した。このように、多くの中銀が政策正常化に着手している。

欧州中央銀行の資産買い入れの月額推移
欧州中央銀行の資産買い入れの月額推移

今のところ慎重姿勢を維持するECB

ウクライナ情勢の緊迫化が続くなか、年明け以降、原油や天然ガス価格が一段と高騰している。エネルギー価格の上昇を受け、ユーロ圏の1月の消費者物価は前年比+5.1%と統計開始以来の過去最高を更新し、英国でも昨年12月値が同+5.4%と1990年代初頭以来の水準に加速した。

物価の上振れが続くなか、BOEは2月の金融政策委員会(MPC)で追加の利上げを決定した一方、ECBは同月の理事会で従来の方針通り、慎重な緩和縮小姿勢を堅持した。すなわち、3月末にPEPPを打ち切ると同時に、コロナ危機以前から実施していた通常の資産買い入れプログラム(APP)の月額買い入れ規模を一時的に増額し、金融環境の急激な引き締まりを回避する。その後、APPの買い入れ額を段階的に縮小し、10月以降も必要な限り、利上げ開始の直前まで新規の買い入れを継続する方針を示唆している。

ECBの慎重姿勢には、インフレ加速を引き起こしている要因の多くが、エネルギー価格や特殊要因による一時的なものであるうえ、価格転嫁や賃上げの動きが今のところ限定的で、中期的な物価の基調が依然として弱いとの判断がある。だが、今後も物価の高止まりが予想されるなか、ECBが資産買い入れの縮小を前倒しし、年内に利上げを開始する可能性が高まっている。

ユーロ圏の消費者物価の推移
ユーロ圏の消費者物価の推移

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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