内外経済ウォッチ『日本~外国人労働者受け入れ議論の課題~』(2022年1月号)

星野 卓也

目次

外国人労働者の受け入れ拡大が俎上に

今年議論される政策において、注目の一つが外国人労働者の受け入れだ。昨年政府は外国人の新たな在留資格である「特定技能2号」の業種拡大を検討していることを明らかにした。特定技能は人手不足職種において認められた在留資格で、2019年4月に創設された。2号資格は1号資格より要件が厳しく、1号資格者が技能・日本語等の試験を経て得られる。2号資格は建設、造船・舶用工業の2業種においてのみ認められていたが、これを介護や清掃等の職種にも拡大することが検討されている。

日本における外国人労働者数は年々増加しており、2020年時点で172万人を超えた。5年で2倍近くに増えたことになる。更なる外国人労働者の受け入れ議論が高まっているのは、人手不足の深刻な業態の要請が発端だ。今後調整が進められていくが、移民政策の性格が強まるといった反対論などもあり、議論は難航しそうだ。

資料1.外国人労働者数の推移(各年10月末時点)
資料1.外国人労働者数の推移(各年10月末時点)

日本の「出稼ぎ魅力度」は低下傾向

人手不足は企業にとっては課題だが、企業の生産性上昇や人材獲得競争の活性化を通じた労働移動促進、それによる労働者の待遇改善等の効果も生むと考えられる。外国人労働者の受け入れは岸田首相の掲げる「賃上げ」にも逆行する側面があり、これらの要素とのバランスが求められる。

また、現在は外国人労働者を「受け入れるか・受け入れないか」という点が主要論点だが、より長期的には「外国人労働者が日本を選ぶのか?」という点も課題になっていく。資料2は日本への外国人労働者が増えている国について、日本最低賃金/各国最低賃金の比率を「出稼ぎ魅力度指数」としてその推移をみたものだ。日本での労働によって自国の何倍の賃金が得られるかを最低賃金ベースでみている。長期的な低下トレンドが見て取れるが、これは新興国の経済成長が進むにつれて、日本との賃金格差が縮小するためだ。出稼ぎのメリットは時間が経つごとに薄れていくことになる可能性が高い。 外国人労働者は企業の人手不足を緩和することにはなる。しかし、企業はこれを既存ビジネスモデルの延命策とせずに、生産性改善、低い賃金を前提としたビジネスモデルからの脱却を進めていくことが肝要だ。外国人労働者はいつまでも「呼べば来てくれる」わけではない。

資料2.出稼ぎ魅力度指数の推移
資料2.出稼ぎ魅力度指数の推移

星野 卓也


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星野 卓也

ほしの たくや

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 日本経済、財政、社会保障、労働諸制度の分析、予測

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