内外経済ウォッチ『日本~年金改革議論に欠けているただ一つの視点~』(2021年12月号)

星野 卓也

目次

自民党総裁選で「年金」がキーワードに

少々前の話にはなるが、先の自民党総裁選では年金改革が論点となった。河野氏が最低保障年金の創設を訴え、岸田首相が厚生年金の加入対象を拡大する適用拡大を訴えた。河野氏の案の大枠は、消費税などの税財源を用いて、すべての年金受給者に一定額の公的年金を支給するものだ。現行制度では保険料納付実績をもとに給付水準が決まる仕組みとなっており、納付実績次第で低年金者が生じる。岸田氏の案は現在厚生年金の適用対象外となっている短時間労働者などを対象に組み入れるものだ。基礎年金と厚生年金の両方を受け取れる人を増やすことで、高齢者の年金充実を目指す。方法は違えど、どちらも目的は、公的年金の給付水準向上、低年金者を減らすという点にある。

今後、公的年金の財政調整はマクロ経済スライドを軸に行われ、一人当たりの支給水準を経済状況等に応じて削減する。2019年の財政検証では、一定の経済前提のもとで公的年金の財政バランスは維持可能との結論が得られている。しかし、年金財政の安心と年金生活の安心は別問題である。昨今では、マクロ経済スライドが進むことで、基礎年金のみの世帯など、年金が過少となる高齢者が増加することが問題視されている。現行制度は高齢者の「防貧」に対する目線が足りていなかったのである。

The Pension Paradoxを解消するには?

2011年のOECD「Pensions at a Glance」は、年金財政のバランスを保つことと十分な年金水準を確保することとの間には矛盾が生じると指摘した(the Pension Paradox)。そのうえで、この解決策として①就労期間の長期化、②年金支給の低年金者への再分配、③私的年金の奨励を挙げた。第一に掲げられている就労期間の長期化は、年金を受け取る期間を短くする、つまり支給開始年齢の引き上げに相当する。現行の繰り下げ受給率に照らし合わせれば、5年支給開始を遅らせることができれば年金水準は42%増える。財政検証の見込む将来的な年金水準低下は約2割程度であり、これを相殺するインパクトがある。先進国全般をみても、支給開始年齢の引き上げを目指す国は多い(資料)。

しかし、この「長く働けばいい」というシンプルすぎる解決策は、「何歳まで働かせるんだ!」といった趣旨の猛反発を招くので、政治的に積極的に選択されることはない。自民党総裁選でも論点にはならなかった。

根底にある「働く」に対する意識

実際に日本は多くの調査で労働者の仕事に対する満足度が低いことが知られている。米ギャラップ社調査(2017年)では、熱意のある従業員の割合が139か国中132位、Linkedinのレポート(Talent Trends、2014年)によれば、仕事に満足感を得ている人の割合が26か国中25位となっている。

人材流出の少ない日本型雇用慣行のもとで、企業は労働者の働く環境、意識の改善をそれほど強く意識してこなかったのかもしれない。結果としてそれが仕事に対する低い満足度につながり「長く働く」という政策への強い反発を招いているのかもしれない。働くことに対する意識を変えることができれば、それは超高齢社会の景色を大きく変え得るのではないかと思う。

資料.各国年金制度における現行制度の支給開始年齢と将来計画されている支給開始年齢
資料.各国年金制度における現行制度の支給開始年齢と将来計画されている支給開始年齢

星野 卓也

星野 卓也

ほしの たくや

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 日本経済、財政、社会保障、労働諸制度の分析、予測

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