株高不況 株高不況

日銀と為替はニワトリと卵 クリスマス介入はあるか

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均株価は先行き12ヶ月54,000円程度で推移するだろう

  • USD/JPYは先行き12ヶ月160円程度で推移するだろう

  • 日銀は利上げを続け、2026年後半に政策金利は1.0%に到達しよう

  • FEDはFF金利を26年前半までに3.5%へと引き下げ、その後は様子見に転じるだろう

目次

金融市場

  • 前営業日の米国市場は、S&P500が+0.1%、NASDAQが+0.2%で引け。VIXは15.8へと低下。

  • 米金利はカーブ全般で金利上昇。予想インフレ率(10年BEI)は2.272%(+1.9bp)へと上昇。
    実質金利は1.807%(+1.7bp)へと上昇。長短金利差(2年10年)は+57.3bpへとプラス幅縮小。

  • 為替(G10通貨)はUSDが堅調。USD/JPYは155前半へと下落。コモディティはWTI原油が59.7㌦(+0.7㌦)へ上昇。銅は11450.0㌦(▲37.5㌦)へ低下。金は4211.8㌦(+12.5㌦)へ上昇。

経済指標・注目点

  • 日銀の金融政策そして為替を検討する上で重要な情報を整理する。

  • まず12月に利上げが決定され、政策金利が0.5%から0.75%になることは既定路線となりつつある。植田総裁は12月1日の講演で利上げが俎上に上がっていることを示している。重大な不測の事態が発生しない限り、議論が急展開するとは考えにくい。

  • その点、11月のロイター短観は12月15日発表の日銀短観が堅調な仕上がりになることを示唆しており、日銀の利上げを正当化している。12月データは9日の発表を待つ必要があるものの、10‐11月平均値は製造業が+12.5と前期比改善、非製造業が+27.0と前期比横ばいとなっており、それぞれ堅調な領域にある。12月の政策判断にあたって重要な材料である、日銀短観が大崩れするとは考えにくい。

  • 現時点で市場参加者の関心は、12月以降の利上げ経路に移行している。その点、中立金利とターミナルレートの関係を整理する必要があろう。

  • まず中立金利は最低1%との見方が多い。自然利子率の推計値である▲1.0%~1.5%に、中長期的な物価目標である2%を足したもので、+1.0%~+2.5%というレンジが広く知られている。この数値は2024年に日銀スタッフがペーパーで示したもので、植田総裁を含む日銀政策委員がよく参照している。もっとも、約30年間にわたって政策金利が0%近辺にあった日本では、過去のデータ不足から中立金利の推計が特に困難であることもよく知られており、推計値は参考値程度でしかない。ゆえに、まずはレンジ下限である1%が中立金利の目安として意識されている。

  • 12月に0.75%への利上げが決定された場合、政策金利は中立金利推計値の下限とされる1%まであと25bpに迫る。この点、植田総裁の記者会見等では中立金利との「距離感」を巡る認識が注目される。12月4日時点で植田総裁は現在の金融政策を「様々な観点からみて緩和的な状態が続いている」と評価しており、これは「中立金利>政策金利」の状態にあることを認めていると理解される。政策金利が0.75%に上昇した際、こうした表現にどういった変化がみられるのか注目される。もし、植田総裁が中立金利を1%と推定しているなら、「金融政策は中立的になりつつある」などといった表現に変化するはずである。万が一、次回の会合でそのような認識が示されれば、利上げ打ち止め感が一気に広がるだろう。

  • ターミナルレート(利上げの最終到達点)は1.0%~1.5%であるとの見方が現時点で支配的。市場参加者が予想するターミナルレートの代理指標である2年先1年金利は、1.5%程度まで水準を切り上げている。11月以降、財政支出拡大観測などから予想インフレ率が上昇し、それに伴って政策金利の予想水準が切り上がっている格好。また市場参加者のアンケート調査によると、例えばQUICK月次調査レポート<債券>では、2027年3月末時点の政策金利(予想中央値)が1.0%と予想されている。同調査は、予測期間がやや短いことからターミナルレート水準はもう少し高いと考えられ、やはり1.25%ないしは1.5%程度であると推測できる。その水準が「中立」なのか「引き締め領域」であるかはまた別の議論になるが、現時点において1.5%程度までの利上げは、市場参加者に想定されていると考えられる。

  • 日銀の利上げ判断は、表向きには「賃金」が最重要事項であるされているが、現実には「為替」と言われており、筆者もそう感じている。事実、これまでの3回の利上げはUSD/JPYが急速な円安を遂げた後に決定されてきた経緯がある。12月の利上げが既定路線となったのも、USD/JPYの160円到達が現実味を帯びたタイミングであった。今後、USD/JPYが160円を超えて急激な円安進行となれば、賃金・物価動向などマクロファンダメンタルズに関係なく利上げが進む可能性があろう。なお市場関係者の間では、日本において物価目標の達成は、為替レート次第であるという視点から「中立為替」という造語も誕生している。日銀は、為替を(経済・物価に対して)中立的な方向に誘導するために、政策金利を上げている、という理解になる。

  • 為替と日銀の金融政策を巡っては、ニワトリと卵のような関係にあり、どちらの立場(順序)から説明するか、難しいところがある。例えば「円安になれば日銀は利上げをする」、「日銀が利上げをすれば円高になる」、「円高になれば日銀は利上げをしない」といった具合に話が空転してしまう。また、最近のように「日銀が利上げをすると、為替市場で利上げ回数のカウントダウンが始まり円安になる」という議論もあり複雑極まりない。

  • 最後に12月金融政策決定会合後の植田総裁の記者会見について考察してみたい。その直前の金融市場次第であるが、円安を食い止める点においては、今後の利上げ継続を示唆するなど、タカ派寄りにならざるを得ない。一方で2024年7月会合のように、利上げの理由を様々な角度から説明することによってタカ派色が過度に強くなり、株価下落のきっかけとされてしまうリスクもあることから、過度なタカ派傾斜は避ける必要がある。日銀にとって当時の経験はトラウマになったとみられる。総裁会見は、微タカ或いは中立的と受け止められるのではないか。

  • その場合、為替市場では、いわゆる材料出尽くし状態となり円売りが加速する可能性があろう。また米国がクリスマス休暇に入ることも重要。為替介入の実施にあたっては不測の事態に備えて、米国(財務省)へ事前に通知・協議することが通例であるため、カレンダー要因で為替介入ができないとの見方も浮上しよう。

藤代 宏一


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