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2025.09.18
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米国経済マンスリー:2025年9月
~雇用は急減速、消費は堅調、インフレは想定より上がらず~
前田 和馬
- 要旨
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- 8月雇用統計では雇用者数の伸びが市場予想を大幅に下回ったほか、7月の有効求人倍率は1倍を割り込むなど、雇用鈍化が鮮明となっている。失業率は労働供給鈍化を背景に緩やかな上昇に留まっているものの、先行きの雇用情勢を巡る下振れリスクが高まっている。
- この間、8月小売売上高は3か月連続で増加するなど、消費者マインドが軟化するなかでも底堅さを示している。アトランタ連銀によるGDPナウキャスト(9/17時点)では7~9月期実質GDPが前期比年率+3.3%と高い伸びを見込むなど、現時点において消費や設備投資は堅調さを保っている。
- 9月FOMC(9/16~17開催)においてFRBは6会合振りに0.25%ptの利下げに踏み切った。同時に公表された四半期経済見通しでは成長率とインフレ率の見通しが小幅に上方修正される一方、ドットチャートでは年内残り2回のFOMCにおける連続的な利下げが示唆された。

【経済指標】
8月全米供給管理協会(ISM)景況感指数
8月ISM製造業PMIは48.7(7月:48.0)と2か月振りに上昇したものの、6か月連続で好不況の節目となる50を下回った。企業コメントでは「引き続き関税が計画やスケジュールの策定に混乱をもたらしている。(対インドへの50%関税など)予期せぬ関税が発表されるたびに、新製品の開発コストが上昇し続けている(コンピュータ・電子製品)」、「多くの部品に対する関税により、メイド・イン・USAの維持は益々困難になっている(電気機器・部品)」などと引き続き関税への懸念が目立つ。内訳をみると、雇用は43.8(43.4)、在庫は49.4(48.9)、生産活動に先行する新規受注が51.4(47.1)とそれぞれ上昇した一方、生産は47.8(51.4)と大幅に低下した。
他方、8月ISM非製造業PMIは52.0(50.1)と上昇するなど、サービス業活動は底堅く推移している。内訳をみると、事業活動が55.0(52.6)、新規受注が56.0(50.3)とそれぞれ上昇し全体を押し上げた。企業のコメントでは「売上原価における関税の影響は10月までに完全に現れると見込まれる(宿泊・飲食サービス)」や「現在の意思決定は関税を考慮することに支配されている(小売り)」と関税への懸念が散見される一方、「米国の事業拡大に伴うコストが理解されるなか、事業成長は引き続き堅調(専門・技術サービス)」との前向きな言及もみられる(詳細は「米国トランプ関税上乗せも8月ISM製造業指数は上昇」及び「関税引き上げも8月ISM非製造業は拡大ペースを加速」)。
8月雇用統計
8月雇用統計における非農業部門雇用者数は前月差+2.2万人(7月:+7.9万人)と、市場予想(+7.5万人)を大幅に下回った。また、同時に公表された6月実績は-2.7万人と下方修正され、前月差-1.3万人と、2020年12月以来となる前月からの減少を記録した(7月実績は+0.6万人の上方修正)。この結果、3か月移動平均では+2.9万人(+2.8万人)の増加に留まったほか、広範な業種で前月からの減少がみられるなど、雇用者数の伸びの減速感が鮮明となっている。なお、足下の雇用減速を巡っては、先行き不透明感による新規採用の抑制に加えて、移民を中心とした労働供給鈍化の影響を大きく受けており、失業率の上昇は依然緩やかに留まっている。
8月の雇用者数を業種別にみると、医療・社会福祉は+4.7万人(+7.2万人)と人手不足を背景に43か月連続で増加し全体を押し上げた。また、娯楽・宿泊が+2.8万人(+0.6万人)、小売業が+1.05万人(+0.72万人)とそれぞれ2か月連続で増加した。一方、景気に敏感とみられる専門・企業サービスは-1.7万人(-1.0万人)、製造業が-1.2万人(-0.2万人)と、共に4か月連続で減少するなど停滞が持続している。加えて、卸売は-1.17万人(-0.83万人)、金融も-0.3万人(+0.9万人)と前月水準を下回った。他方、政府部門は-1.6万人(+0.2万人)と減少した。また、連邦政府部門(米国郵政公社を除く)に限ってみれば-1.13万人(-1.34万人)と、政府効率化省(DOGE)が主導する職員削減を背景に年初来で-8.76万人の雇用減に達している。なお、トランプ政権が1月に募集した早期退職プログラムの応募者(約7.5万人)は9月末まで給与が支払われるため、現在まで雇用者数に計上されているとみられる一方、10月以降はこれらが雇用者から除外されることで連邦政府の雇用者数が大幅に減少する可能性が高い(連邦政府職員のリストラと雇用市場への影響は2025/3/26付け「DOGEの連邦職員カットによる雇用市場への影響」を参照)。
この間、8月の労働参加率は62.3%(62.2%)と4か月振りに上昇した一方、失業率は4.3%(4.2%)と小幅ながら2か月連続で上昇した。また、広義失業率を示すU6(過去12か月に求職経験があるものの直近4週間は求職をしなかった者、及び経済的理由によるパートタイム労働者を失業者とカウント)も8.1%(7.9%)と2か月連続で上昇した。この間、週平均労働時間は前年比-0.3%(0.0%)と2か月振りに減少した一方、平均時給は+3.7%(+3.9%)と高水準で推移した。この結果、労働所得(=民間雇用者数×平均労働時間×平均時給)は+4.4%(+4.9%)と、賃金上昇を背景に増加基調で推移している。他方、CPI上昇率を控除した実質賃金は時間当たりで+0.7%(+1.2%)と28か月連続、週当たりでは+0.4%(+1.1%)と19か月連続でそれぞれ増加したものの、インフレ高進を背景に減速傾向となっている(詳細は「雇用鈍化、失業率上昇し労働市場は更に軟化(8月米雇用統計)」)。
8月消費者物価指数(CPI)
8月消費者物価指数(CPI)は前月比+0.4%(7月:+0.2%)と前月から加速した。また、足下のトレンドを示す3か月前比年率でみると、総合指数が+3.5%(+2.3%)、コア指数は+3.6%(+2.8%)と共に加速した。当初想定されていたほどではないものの、足下のインフレ率は関税引き上げを背景に+2%を大幅に上回る推移となっている。8月の内訳を見ると、食品は前月比+0.5%(0.0%)と大幅に加速した。牛肉価格が牛の飼育頭数の減少を背景に上昇したほか、高関税等を背景にコーヒーやバナナの上昇が加速した。一方、エネルギーは+0.7%(-1.1%)と前月の反動もあり上昇した。この間、食品・エネルギーを除くコアベース指数は+0.3%(+0.3%)と前月から上昇率に変化はなかった。コアCPIの内訳を見ると、住居費は+0.4%(+0.2%)と帰属家賃や宿泊費の上昇にけん引され加速した一方、住居費を除くコアCPIは+0.3%(+0.4%)と減速した。コア財は+0.3%(+0.2%)と、高関税による影響が新車や衣服などに部分的に波及した。他方、サービスでは航空運賃が2か月連続で上昇したほか、自動車修理費が高い伸びを示した。この間前年比でみると、CPI総合は前年比+2.9%(+2.7%)と前月から加速した一方、食品・エネルギーを除くコアCPIは+3.1%(+3.1%)と横ばい圏で推移した。
先行きのCPIを巡っては、サービス価格は労働需給緩和による賃金上昇率の安定や家賃の鈍化を背景に減速が続く可能性が高い。一方、財価格は追加関税による輸入物価上昇の影響が時間をかけて波及するとみられ、特にCPI上のウェイトが大きい新車やアパレルへの価格転嫁動向が注目される(詳細は「米国 トランプ関税の影響は徐々に顕在化(8月CPI)」)。
8月小売売上高
8月小売売上高は前月比+0.6%(7月:+0.6%)と3か月連続で増加した。内訳をみると、無店舗小売が+2.0%(+0.6%)と7か月連続で前月水準を上回ったほか、衣料品は+1.0%(+1.4%)と関税の価格転嫁が緩やかに留まっていることを背景に堅調さを保った。また、家電は+0.3%(+1.2%)、自動車が+0.5%(+1.7%)と耐久財が堅調に推移したほか、食料品は+0.3%(+0.5%)、飲食は+0.7%(-0.1%)と非耐久財やサービスなどの幅広い項目で前月水準を上回った。この結果、GDP算出に用いられるコア小売売上高(自動車・ガソリン・建設材・飲食サービスを除くコントロール・グループ)は+0.7%(+0.5%)と4か月連続で増加するなど、堅調に推移した。先行きに関して、関税分の小売価格への転嫁が徐々に進行するに伴い、足下の駆け込み需要による反動減が小売売上を下押しする可能性がある(詳細は「米国 8月小売が予想を上振れ、基調は力強さを増した」)。
8月鉱工業生産
8月鉱工業生産は前月比+0.1%(7月:+0.4%)と2か月振りに上昇した。8月の内訳を見ると、鉱業は+0.9%(-1.5%)と2か月振りに上昇した一方、公益は-2.0%(-0.7%)と同月の気温が穏やかであったこともあり2か月連続で低下した。一方、製造業は+0.2%(-0.1%)と小幅ながら2か月振りに上昇した。製造業の内訳を見ると、自動車・同部品が+2.6%(-0.7%)と3か月振りに上昇し全体を押し上げた一方、コンピュータ・電子機器は+0.5%(+1.0%)と9か月連続で前月水準を上回った。他方、航空機・その他輸送機器は-0.6%(+1.5%)と9か月振り、電気機器・部品は-1.5%(+0.6%)と2か月振りにそれぞれ低下した。先行きに関して、追加関税によるサプライチェーンの混乱、及び価格上昇を背景とした需要減少による生産下押しに警戒が必要だろう(詳細は「米国 関税発動も製造業生産は拡大継続(8月鉱工業生産)」)。
8月住宅着工件数
8月住宅着工件数は年率130.7万戸(7月:142.9戸)と3か月振りに減少し、市場予想(136.5万戸)を大幅に下回った(前月比-8.5%;7月:同+3.4%)。住宅着工は高金利政策を背景に依然低調に推移している点に変化はない。8月の内訳を見ると、戸建住宅が前月比-7.0%(7月:+3.5%)、集合住宅は-11.7%(+3.3%)と共に前月水準を下回った。地域別にみると、最大市場の南部の減少が全体を押し下げた一方、西部や北東部では増加した。先行きに関して、住宅ローン金利の高止まりが需要を下押しするほか、追加関税による資材価格の上昇や移民抑制による労働力不足が供給を抑制する懸念がある。この間、住宅着工に先行する住宅建設許可件数は年率131.2万戸(136.2万戸)と5か月連続で減少するなど、依然停滞の域を脱していない(詳細は「米国 8月住宅着工件数は一戸建ての停滞で下振れ」)。
【経済見通し】
2025年7~9月期実質GDP成長率は前期から減速する可能性があるものの、引き続き底堅く推移することが見込まれる。アトランタ連銀によるGDPナウキャスト(9月17日時点)に基づくと、同四半期の実質GDP成長率は前期比年率+3.3%(4~6月期実績:+3.3%)と、トランプ関税による下押しがありながらも堅調な成長を維持する可能性が高い。
一方、足下では雇用者数の拡大ペースの減速感が鮮明となっている。移民抑制による労働供給の影響は割り引いてみる必要があるものの、新規の求人や採用が鈍化するなか、今後企業による人員削減の動きが積極化する際には失業率が急騰するリスクがある。7月の有効求人倍率(=求人数÷失業者数)は0.99(6月:1.05)と2021年4月以来となる1倍割れに陥ったほか、NY連銀による8月の消費者調査では「失業した場合に3か月以内に職がみつかる可能性」は44.9%(7月:50.7%)と、設問が開始された2013年以来の最低水準に陥った。
この間、8月のコンファレンスボード消費者信頼感指数は97.4(7月:98.7)、9月のミシガン大学消費者信頼感指数は61.2(8月:61.7)と共に低下するなど、消費者マインドの軟化が続いている。こうした消費の減速懸念が2025年後半の景気後退へと転じるか否かは、関税の価格転嫁の度合いとそのスピードに大きく依存するだろう。貿易相手国の輸出業者や米国の輸入業者が関税負担を従来以上に吸収する場合、個人消費への影響は限定的に留まり、景気後退は回避されると見込まれる。
【金融政策】
9月FOMC(9/16~17開催)
9月FOMCにおいてFRBは6会合振りに0.25%ptの利下げに踏み切り、FF金利の誘導目標を4.00~4.25%へと切り下げた(従来:4.25~4.50%)。今回のFOMCから参加したミラン新理事は0.5%ptの利下げを主張し反対票を投じた。声明文においては、雇用判断が「雇用の伸びは鈍化しており、失業率は僅かに上昇したものの、依然として低水準(7月FOMC時点:失業率は低水準にあり、労働市場は堅調)」と下方修正された一方、物価判断は「インフレ率は上昇し、幾分高止まり(同、インフレ率は幾分高止まり)」と上方修正された。また、先行きのリスク要因を巡っては「委員会は雇用の下振れリスクが高まっていると判断した」との文言が追加された。
同時に公表された四半期経済見通し(SEP)において、GDP成長率の見通しは2025年:+1.6%(6月時点:+1.4%)、2026年:+1.8%(同、+1.6%)、2027年:+1.9%(+1.8%)と足下の堅調な消費動向や7月に成立した減税法案等を勘案し上方修正された。一方、コアPCEデフレーターの見通しは2025年:+3.1%(+3.1%)と変更がなかったものの、2026年:+2.6%(+2.4%)と上方修正され、関税による価格転嫁が後ずれするとの見方が示された。他方、ドットチャートの示す政策金利見通しは2025年:3.50~3.75%(3.75~4.00%)、2026年:3.25~3.50%(3.50~3.75%)、2027年:3.00~3.25%(3.25~3.50%)、長期見通し:3.0%(3.0%)と、総じて金利見通しが切り下がり今後の利下げペースの加速が示された。なお、年内2回(10月と12月)のFOMCにおける追加的な利下げ回数を巡っては、19人中9名が2回の連続的な利下げを主張した一方、2名が1回、6名が0回と一部のFOMCメンバーは利下げに慎重な考えを示すなど、メンバー間の見解の相違が鮮明となっている。また、ミラン理事と思われる1名のメンバーが年内累積で1.5%ptの利下げを主張したほか、タカ派の1名は4.25~4.50%の政策金利を予想するなど今回の利下げ決定に否定的な見方を示した。
パウエル議長は記者会見において、労働市場は関税よりも移民政策の影響を受けていると指摘したものの、「雇用創出のペースは失業率を一定に保つブレークイーブンを下回っているようにみえる」と労働市場の軟化を強調した。また、雇用の下振れリスクが強まる一方、インフレリスクは低下しており、「リスク管理のため」に金利水準をより中立的(FOMCメンバーの長期の金利見通しは3.0%)な方向へシフトする姿勢を示した。一方、今回のFOMCに出席したクック理事の解任騒動(トランプ大統領が解任を通知したものの、巡回控訴裁判所は15日に解雇の差し止めを決定)に関して、パウエル議長はコメントを避けた(詳細は「FRBは労働市場の軟化等を受け6会合ぶりの利下げ (25年9月16、17日FOMC)」)。
【トランプ新政権】
関税政策
トランプ米政権による通商政策は膠着した状態が続いている。現時点で対米交渉が合意に達していない主要国をみると、9月14~15日の米中貿易協議では中国企業が運営する動画投稿アプリの米国事業売却に関して大筋合意に達した一方、11月10日まで停止中の関税措置(米→中:30%、中→米:10%)に関しては協議が継続している。他方、スイス(関税率:39%)、ブラジル(同、50%)、インド(50%[8月27日に25%から引き上げ])などに対する高関税は維持されている一方、トランプ政権は9月5日の大統領令において、スイスからの輸入シェアが大きい金地金を相互関税の対象から除外したほか、ブラジルに依存するコーヒーを将来的に関税対象から除外する方針を示すなど、関税措置の緩和を図っている。今後のトランプ政権の関税政策を巡っては、これらの国々の交渉進展のほか、発動が見込まれる半導体及び医薬品関税の動向が注目される(詳細は「トランプ関税ウォッチング」)。
また、日米貿易合意を巡っては、9月4日に両国政府が合意に関する了解覚書に署名したほか、共同声明を公表した。日本は米国から年間80億ドルの農産品(日本における2024年の食料品輸入: 652億ドル、うち米国:120億ドル)、年間70億ドルのLNG等エネルギー(エネルギー輸入:1,692億ドル、うち米国:129億ドル)、年間数十億ドルの防衛装備品や半導体の購入を約束した。また、対米投資5,500億ドルを巡る了解覚書では「(主な対象は)半導体、医薬品、金属、重要鉱物、造船、エネルギー、人工知能・量子コンピューティング」、「米・投資委員会が案件を検討・推薦し、トランプ大統領が最終判断(選定)を行う」、「大統領への推薦に先立つ日米協議委員会において、日本は資金提供を拒否できるものの、その際には米国が対日関税を引き上げる可能性がある」、「日本は資金提供を行い(筆者注:国際協力銀行による出資・融資、民間資金の拠出、及びそれに対する日本貿易保険の融資保証)、米国は土地のリースやプロジェクトに必要な電力などのアレンジ、規制プロセスの迅速化を行う」、「投資から生じるキャッシュフローの分配は、みなし配分額(出資相当額及びみなし金利等)に達するまでは日米で50:50、それ以降は10:90」などが明記された。また、こうした日米合意文書に基づき、9月16日に米国の対日自動車関税が15%(従来:27.5%)へと引き下げられた。



前田 和馬
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 前田 和馬
まえだ かずま
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経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析
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