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建国250周年と米国経済の構造変化(前編)

~経済成長、産業構造、格差、人口の長期推移~

前田 和馬

要旨
  • 1929年以降の世界恐慌期を除き、米国経済は200年以上にわたって長期の成長トレンドを保ってきた。また、米国の経済水準は20世紀初頭の工業化を背景に英国を上回り、その後100年以上に及ぶ世界的な経済覇権を握っている。

  • 米国は20世紀前半までGDPに占める製造業のシェアが拡大し続けた一方、その後はグローバル化や東アジア諸国の台頭もあり、工業大国としての存在感は縮小した。一方、経済のサービス化が進むなか、過去50年間は金融業や専門・サービス業が大きく成長した。

  • 上位1%が占める所得・資産シェアは第二次世界大戦期から1970年代にかけて低下した。一方、その後は労働組合の組織率低下や最高所得税率の引き下げ等を背景に、米国の格差は拡大傾向へと転じている。

  • 米国の人口は拡大が続いているものの、2000年以降は人口動態における移民流入の存在感が増している。20世紀前半には抑制的な移民政策が採られた一方、人口に占める移民比率は1965年移民法を契機に上昇し、足下では歴史的な高水準に達する。

2026年7月4日、米国は建国250周年を迎える。本シリーズでは米国経済の構造変化を「成長率」、「産業構造」、「格差」、「人口」の4つの観点で概観する。前編である本稿ではこれまでの長期推移を整理し、後編では今後50年を見据えた長期トレンドの行方を考察する。

① 経済成長率

米国における1800年以降の一人当たり実質GDP成長率を示したのが図表1である。米国は過去200年以上にわたって長期の成長トレンドを保ってきた。例えば1837年や1893年の恐慌時には長期にわたり経済成長率が落ち込んだものの、19世紀半ばは鉄道網の整備や重工業の発展、20世紀初頭には自動車・電力・電機産業の拡大を通じて景気回復が進んだ。また、1929年の世界恐慌は米国経済に深刻な打撃を及ぼした一方、ニューディール政策による財政出動や第二次世界大戦期の軍事生産が表面上の成長率を押し上げた。また、世界大戦以降は移民を含む人口拡大、IT化、金融市場の発展、グローバル化、マクロ経済政策の改善など、様々な要因を背景に成長率は相対的に安定した。一方、2008年の世界金融危機(リーマン・ショック)以降は「長期停滞」と呼ばれる低成長の時代を経て現在に至る。

国際的にみると(図表2)、米国は100年以上にわたり世界的な経済覇権を握っている。一人当たりの実質GDPを見ると、19世紀の覇権国は英国であった一方、20世紀初頭には米国の経済水準が工業化を背景に飛躍的に拡大した。日本は1990年頃に米国のGDP水準に接近したものの、バブル崩壊を契機に成長ペースが失速した。また、中国は2000年以降に目覚ましい成長を遂げているものの、一人当たりの経済水準でみれば依然米国を大きく下回っている。

図表1
図表1

図表2
図表2

② 産業構造

図表3は米国の産業別GDPシェアを示したものである。19世紀前半の米国は南部の綿花プランテーションを中心に農業が基幹産業であった。一方、19世紀後半には鉄道網の発達や国内市場の拡大を背景に鉄鋼業を中心とした重工業が発達したほか、20世紀初頭にはフォードが自動車の大量生産モデルを確立し機械産業等が普及した。この結果、1920年代にはGDPに占める製造業のシェアが2割を超えた。米国は第二次世界大戦から1960年代まで「工業大国」としての地位を保ったものの、その後は経済のサービス化が進展する。この背景には日本や中国などの東アジア諸国の台頭と自由貿易体制の進展によるグローバル化が指摘できる。また、製造業の産業シェアが低下するなか、基軸通貨ドルを有する金融市場の優位性や高水準な研究開発能力等を背景に、金融業や専門・技術サービスがその存在感を強めた。

図表3
図表3

③ 格差

上位1%の所得・資産シェアを示したのが図表4だ。米国の経済格差は第二次世界大戦中から70年代にかけて低下した。Goldin and Margo(1992)はこうした格差縮小を「大圧縮(The Great Compression)」と呼び、戦時経済化における非熟練労働者の需要拡大や賃金統制が契機となったと指摘した。また、戦中の格差縮小はその後も高等教育の普及等によって維持された。

一方、こうした格差の縮小傾向は1980年以降に反転し、足下まで格差の拡大が続いている。サービス業の存在感が増すなかで労働組合の組織率は低下し、労働者の賃金交渉力は相対的に弱まった。また、1980年代のレーガン政権はサプライサイド経済学(レーガノミクス)を掲げ、所得税の最高税率を含む広範な減税を推進した。なお、図表4は税引き前所得に基づく格差を示す一方、所得税率の引き下げは経営者が高額報酬を求めるインセンティブを強め、経営者層と労働者層の賃金格差を拡大させる作用があると考えられる。

④ 人口

米国の人口は1850年以降に一貫して拡大している。人口の自然増減に重要な合計特殊出生率は、第二次世界大戦後の1950~60年代に大幅に上昇した後(ベビーブーム)、70年代に急低下、その後は緩やかな持ち直しを示した。一方、世界金融危機後の2010年代には人種を問わず出生率が低下傾向にある。こうした出生率の長期的な低下を巡って、Kearney et al.(2022)は特定の政策や経済環境で説明することは難しく、米国社会における子供を持つことへの「優先順位の変化」が影響している可能性を指摘している。

こうしたなか、近年では人口増に対する移民流入の存在感が増している。実際、2024年時点の移民比率(外国生まれ人口の割合)は15.0%と、1850年以降で最も高い水準に達する。移民の長期動向をみると、1930年以降の移民数は水準・割合ともに減少が続いた。この背景として、1924年移民法による国籍別割当制度のほか、世界恐慌時における雇用難やメキシコ系移民の強制送還などを指摘できる。一方、1965年移民法では国籍別割当を撤廃し、米国在住者の家族と特定技能保有者を優先的に受け入れたため、移民水準と人口に占める移民比率は上昇へと転じた。近年ではバイデン政権下における不法移民の大量流入に対する社会的不満が強まった一方、トランプ現政権は移民受入の厳格化に踏み切っている。

図表5
図表5

【参考文献】

  • Goldin, Claudia and Robert Margo (1992), ”The Great Compression: The Wage Structure in the United States at Mid- Century,“ The Quarterly Journal of Economics: Vol.107(1).

  • Kearney, Melissa, Phillip Levine, and Luke Pardue (2022), “The Puzzle of Falling US Birth Rates since the Great Recession,” Journal of Economic Perspectives: Vol.36(1).

以 上

前田 和馬


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

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