米国:強弱入り混じる内容、FF金利据え置き観測を正当化(4月雇用統計)

~平均時給が鈍化したが、雇用者数は上振れ、失業率は低位安定を継続~

桂畑 誠治

目次

1. 非農業部門雇用者数は2カ月連続で市場予想を大幅超過

26年4月の非農業部門雇用者数(事業所調査)は、前月差+11.5万人(前月:同+18.5万人)を記録した。これは、市場予想中央値(ブルームバーグ集計)の同+6.5万人(筆者予想:同+8.6万人)を大きく上回る数字であり、高い伸びを維持している。非農業部門雇用者数が2カ月連続で増加したのは、労働市場が低迷していた昨年から数えておよそ1年ぶりである。

内訳をみると、政府部門が前月差▲0.8万人(前月:同▲0.5万人)と減少ペースを加速させた。その一方で、民間部門は同+12.3万人(前月:同+19.0万人)と力強い増加を維持し、市場予想中央値の同+7.5万人(筆者予想:同+9.8万人)を上振れた。

雇用の基調を示す移動平均をみると、非農業部門雇用者数の3カ月移動平均は前月差+4.8万人(前月:同+6.3万人)に減速したが、6カ月移動平均では同+5.5万人(前月:同+1.2万人)と加速した。民間部門に限っても、6カ月移動平均で同+6.8万人(前月:同+5.0万人)となるなど、足元で増加ペースが持ち直している。

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2. 医療・社会支援が牽引役となったほか、建設業、飲食店、輸送・倉庫も拡大

詳細な内訳では、政府部門において連邦政府が前月差▲0.9万人(前月:同▲1.5万人)と減少幅を縮小した一方、州・地方政府が同+0.1万人(前月:同+1.0万人)と大きく鈍化したことが、政府全体の減少ペース加速につながった。

民間部門では、需要が強く人手不足の続く医療・社会支援(+5.39万人)が最大の牽引役となったほか、輸送・倉庫(+3.03万人)、小売業(+2.18万人)、飲食店(+1.72万人)、芸術・エンターテイメント・余暇(+1.21万人)、専門・技術サービス(+1.19万人)、その他サービス(+1.0万人)などサービス業が高い伸びとなった。建設業(+0.9万人)、派遣業(同+0.79万人)も増加した。これらに加え、卸売業(+0.6万人)、鉱業(+0.2万人)、公益(+0.19万人)、商業銀行(+0.02万人)など幅広い業種で雇用が拡大した。

対照的に、宿泊(▲1.5万人)、情報産業(▲1.3万人)が減少した。また、保険(▲0.91万人)、教育サービス(▲0.78万人)、不動産・リース(▲0.54万人)、製造業(▲0.2万人)なども減少した。

業種別の動きからは、労働市場の二極化が鮮明に読み取れる。医療・社会支援、芸術・エンターテイメント・余暇、対人サービス、建設などが雇用を吸収する一方、生成AIによる構造変化が急速に進んでいる情報や、政策不確実性にさらされる製造業では調整が続いている。

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3. 金融市場では賃金鈍化も利下げ期待は限定的

金融市場では、賃金の伸びが市場予想を下回ったことで、インフレ圧力の減退期待が高まり、利下げ期待が若干強まったものの、予想を上回る雇用者数の増加で、限定的なものにとどまった。FF金利先物が示す6月FOMCでの据え置きの可能性は、わずかに利下げの可能性を織り込んだことで、前日の約96%から約94%へと低下したが、高いままである。9月の据え置きの可能性も約84%(前日:約88%)へと低下したが、高い。26年末のFF金利水準の着地予想は3.64%(前日:3.67%)へと小幅低下にとどまった。

それでも、10年国債利回り、2年国債利回りは低下したほか、主要株価指数では、S&P500種株価指数、NASDAQ総合指数が最高値を更新した(P7)。為替市場では、労働市場の堅調さが示されたことで、中東情勢の緊迫化に伴うエネルギーショックにもかかわらず、米経済は底堅さを維持しているとの見方が強まり、ドルが主要通貨に対して強含んだ。

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4. 労働市場はトランプ2.0の影響を受けるなかで需給がバランス

こうした労働市場の背景には、トランプ2.0の影響が色濃い。多数の大統領令による制度・政策の早期実行が混乱を招き、25年以降、米労働市場は軟化傾向にある。特に通商政策における関税の賦課・撤回・上乗せの実行、あるいはそれらを示唆する発言の繰り返しが不確実性を高め、企業の採用抑制や人員削減を誘発している。また、移民規制や不法移民の取り締まり強化が労働供給の抑制に繋がったことも無視できない。現在の米労働市場は、低雇用、低解雇が持続する、ある種の均衡状況にあると言える。

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5. 賃金はインフレ率を上回る上昇持続

平均時給は前月比+0.2%(前月:+0.2%)と市場予想(+0.3%)を下回った。前年同月比でも+3.6%(前月:+3.4%)となり、市場予想(+3.8%)を下振れ、22年3月のピーク(+5.9%)から低下傾向にある。もっとも、依然としてインフレ率を上回り続けていることで、実質賃金がプラス圏を維持している。これが、トランプ関税やイラン攻撃によるガソリン価格急騰の影響を相殺し、個人消費を支えている。

労働投入量は、前月比+0.3%(前月:▲0.1%)と拡大に転じた。3カ月移動平均(3カ月前対比年率)では+0.3%(前月:+0.9%)と鈍化したものの、労働需要の拡大基調が示唆されている。

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6. 失業率は歴史的な低水準を維持

家計調査では、4月の失業率(U3)は4.3%(前月:4.3%)と横ばいとなり、市場予想中央値と一致した(筆者予想:4.2%)。労働参加率が61.8%(前月:61.9%)と低下するなか、失業率は依然として低い水準を維持している。一方、“「現在は職探しをしていないが過去1年間に求職活動を行った人“と”正規雇用を探しているが経済的理由によりパートタイムで働いている人“を含む「広義の失業率(U6)」は、8.2%(前月:8.0%)へと上昇した。U3、U6ともに緩やかな軟化傾向を示しているものの、歴史的には依然として低い水準にある。労働環境の良好さを示す自発的失業率が11.4%(同:12.4%)へと低下したが、水準は高く労働者が雇用環境に対して楽観的な見方を維持していることが示された。

労働参加率の低下は、トランプ2.0による移民規制強化に加え、団塊世代の引退加速が影響しているとみられる。今後についても、労働供給が制約される中で、雇用者数の緩やかな伸びが続いても失業率が上昇し難い労働市場の均衡が続く見通しだ。

7. 雇用悪化リスクをインフレリスクが上回る状況

4月の雇用統計は、トランプ政権の政策による供給制約と、根強い労働需要が拮抗する綱渡りの均衡の継続を示した。労働市場の安定が保たれている一方、インフレ率は上振れの動きが顕在化している。雇用悪化とインフレ上振れの双方のリスクが残存するなかで、インフレ上振れのリスクがより強まっていることが確認された。

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桂畑 誠治


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

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