トランプ関税ウォッチング トランプ関税ウォッチング

米国経済マンスリー:2024年11月

~堅調な経済と利下げペースへの暗雲~

前田 和馬

要旨
  • 10月の雇用者数はストライキやハリケーン上陸を背景に市場予想を大幅に下回ったものの、こうした一時的な影響を受けにくい失業率は横ばい圏で推移した。また、小売売上高は市場予想を上回る強さを示すなど、消費を中心とした米国経済の堅調さは維持されている。

  • 10月の消費者物価指数ではトレンドを示す3か月前比年率のコア指数が+3.6%(+3.1%)と、前月から加速した。家賃やサービスの鈍化ペースが緩慢に留まるなど、インフレ再燃への懸念は依然払しょくされていない。

  • 11月の大統領選ではトランプ氏が勝利したほか、上下院選挙も共和党が制する「トリプル・レッド」となった。減税による消費刺激、高関税による輸入物価の上昇、移民抑制による人手不足の深刻化を背景にインフレ懸念が強まるなか、FRBの利下げペースに暗雲が立ち込めている。

経済指標

  • 7~9月期実質GDP成長率

2024年7~9月期の実質GDP成長率は前期比+2.8%(4~6月期:+3.0%)と前期から小幅に減速した。とはいえ、潜在成長率とみられる2%弱を上回る推移が続くなど、米国経済は堅調に推移している。内訳をみると、個人消費が+3.7%(同、+2.8%)とインフレ減速による実質賃金の改善を背景に増加し全体を押し上げた。一方、設備投資は+3.3%(+3.9%)と12四半期連続で前期水準を上回るなど、機械設備中心に底堅く推移した。他方、住宅投資は-5.1%(-2.8%)と高金利政策による需要抑制やハリケーン上陸による供給制約等を背景に低調に推移した。この間、コアPCEデフレーターは+2.2%(+2.8%)と2四半期連続で減速するなど、振れを伴いながらもインフレ鈍化の動きが続いている(詳細は「米国経済の堅調とインフレ鈍化が継続(24年3QGDP)」)。

  • 10月全米供給管理協会(ISM)景況感指数

10月ISM製造業PMIは46.5(9月:47.2)と前月から小幅に低下した。好不況の節目となる50を7か月連続で下回るなど、製造業活動は高金利政策による需要抑制を背景に停滞が持続している。10月の内訳をみると、生産が46.2(49.8)とストライキやハリケーンの影響を背景に低下し、全体を押し下げた。また、在庫は42.6(43.9)、入荷遅延も52.0(52.2)と共に前月水準を下回った。一方、雇用は44.4(43.9)、生産活動に先行する新規受注は47.1(46.1)と共に前月から上昇したものの、依然50を下回るなど停滞感が目立つ。他方、10月ISM非製造業PMIは56.0(54.9)と4か月連続で上昇するなど、足下のサービス業活動は底堅く推移している。内訳をみると、雇用が53.0(48.1)と前月から大幅に上昇した一方、事業活動が57.2(59.9)、新規受注が57.4(59.4)と共に低下した(詳細は「米大統領選を控え製造業部門調整(10月ISM製造業)」及び「10月ISM非製造業景気指数はハリケーン襲来の影響で上昇」)。

  • 10月雇用統計

10月雇用統計における非農業部門雇用者数は前月差+1.2万人(9月:+22.3万人)と前月から小幅な増加に留まり、市場予想(+10.6万人)を大幅に下回った。同時に公表された8月実績は-8.1万人、9月実績は-3.1万人と共に下方修正された結果、3か月移動平均でみても+10.4万人(9月:+14.8万人)と前月から減速した。とはいえ、同月の雇用者数は米航空機大手のストライキ、及び南東部に上陸したハリケーンの影響によって下押しされている可能性があり、11月分と合わせて評価する必要があろう。

10月の雇用者数を業種別にみると、医療・社会福祉が+5.13万人(+8.04万人)と人手不足を背景に33か月連続で増加し全体を押し上げた。また、卸売業が+1.04万人(+0.61万人)と前月水準を上回ったほか、政府部門も+4.0万人(+3.1万人)と地方政府の教育部門を中心に雇用拡大が続いている。一方、専門・ビジネスサービスは-4.7万人(-0.9万人)、小売業は-0.64万人(+1.54万人)、娯楽・飲食・宿泊は-0.4万人(+4.0万人)と減少した。他方、製造業は-4.6万人(-0.6万人)とストライキの影響を背景に3か月連続で減少した(産業別の雇用動向に関しては6/19付け「米国の雇用増は持続可能か?(需要編)」を参照)。

一方、10月の労働参加率は62.6%(62.7%)と小幅に低下した一方、失業率は4.1%(4.1%)と横ばい圏で推移するなど、失業率の上昇傾向に一服感がみられている。なお、ストライキの参加者やハリケーン等の天候不順で働けなかった労働者は原則的に失業者にカウントされないため、上述の事業所調査における雇用者数と比べると、失業率の算出はこうした一時的な影響を受けにくい。

この間、週平均労働時間は前年比0.0%(-0.3%)と横ばい圏で推移した一方、平均時給は+4.0%(+3.9%)と僅かながら前月から加速した。この結果、労働所得(=民間雇用者数×平均労働時間×平均時給)は+5.3%(+5.0%)と、賃金上昇を背景に増加基調で推移している。他方、CPI上昇率を控除した実質賃金は時間当たりで+1.4%(+1.4%)と18か月連続、週当たりでは+1.4%(+1.1%)と17か月連続でそれぞれ増加するなど、インフレの鈍化傾向を背景に堅調な雇用所得環境が持続している(詳細は「ハリケーンとストライキを考慮も労働市場軟化(米10月雇用統計)」)。

  • 10月消費者物価指数(CPI)

10月消費者物価指数(CPI)は前月比+0.2%(9月:0.2%)と4か月連続で上昇した。足下のトレンドを示す3か月前比年率では総合指数が+2.5%(+2.1%)、コア指数が+3.6%(+3.1%)と共に前月から加速するなど、インフレ率は依然目標の+2%を上回る推移となっている。10月の内訳を見ると、食品が前月比+0.2%(+0.4%)と外食を中心に上昇した一方、エネルギーは+0.0%(-1.9%)と横ばい圏で推移した。この間、食品・エネルギーを除くコアベース指数は+0.3%(+0.3%)と前月から上昇率に変化はなかった。コアCPIの内訳を見ると、住居費が+0.4%(+0.2%)と、新規契約家賃が低迷するなかにおいても、その減速ペースは緩やかに留まっている。他方、住居費を除くコアCPIは+0.2%(0.4%)と前月から騰勢を鈍化した。財コアは+0.0%(+0.2%)と、中古車の価格上昇を、衣服や医療用品等の低下が相殺した。一方、サービス品目では医療サービスやペットサービス、各種会員費などが上昇した。この間前年比でみると、CPI総合は前年比+2.6%(+2.4%)と前月から騰勢を加速した一方、食品・エネルギーを除くコアCPIは+3.3%(+3.3%)と横ばい圏で推移した。先行きのCPIを巡っては、財価格の下落や労働需給緩和による賃金鈍化を背景にインフレ減速が続く可能性が高いものの、堅調な消費需要を背景にサービス価格や家賃が再加速するリスクに警戒が必要だろう(詳細は「米国 予想通りコアCPIは下げ渋り(10月CPI)」)。

・10月小売売上高  10月小売売上高は前月比+0.4%(9月:+0.8%)と2か月連続で増加した。同時に公表された8-9月分も上方修正されるなど、米国の消費は堅調さを維持している。10月の内訳をみると、家電は+2.3%(-2.9%)と3か月振りに増加したほか、飲食が+0.7%(+1.2%)、ネット通販などの無店舗小売は+0.3%(+1.7%)と共に前月水準を上回った。一方、家具は-1.3%(+0.7%)、衣料品は-0.2%(+0.9%)と減少した。この間、GDP算出に用いられるコア小売売上高(自動車・ガソリン・建設材・飲食サービスを除くベース[コントロール・グループ])は-0.1%(+1.2%)と、前月の反動もあり小幅に前月水準を下回った(詳細は「米国 10月小売売上のヘッドライン上振れも基調は鈍化」)。

  • 10月鉱工業生産

10月鉱工業生産は前月比-0.3%(9月:-0.5%)と2か月連続で低下した。FRBの試算に基づくと、同月の生産水準は航空機大手のストライキにより-0.2%(ストライキの詳細は9/26付け「米航空機メーカーのストライキによる各国経済への影響」)、2つのハリケーン(9/26に「へリーン」、10/9に「ミルトン」が共にフロリダ州へ上陸)の影響により-0.1%それぞれ下押しされており、9・10月と2か月連続でこうした一時的な影響が生産を下押ししている点は割り引く必要がある。10月の内訳を見ると、鉱業が+0.3%(-1.9%)とハリケーンの影響で原油生産が減少した前月から小幅な反発を示した。一方、公益は+0.7%(+0.3%)と2か月連続で上昇した。他方、製造業は-0.5%(-0.3%)と2か月連続で低下した。10月の内訳を見ると、航空機・その他輸送機器が-5.8%(-8.0%)と、前月と同様、ストライキを背景に大幅に減少し全体を押し下げた。一方、自動車・同部品は-3.1%(-0.4%)、一般機械は-0.2%(+0.2%)、一次金属は-3.3%(-0.2%)と低下するなど、高金利政策による需要抑制を背景に総じて低調に推移した(詳細は「10月米鉱工業生産は航空機メーカーストとハリケーン襲来で縮小」。

  • 10月住宅着工件数

10月住宅着工件数は年率131.1万戸(9月:135.3万戸)と2か月連続で減少した(前月比-3.1%;9月:同-1.9%)。中古住宅の在庫が低水準に留まる状況においても、住宅着工は住宅ローン金利上昇による需要抑制を主因に総じて低調に推移している。内訳を見ると、戸建住宅が前月比-6.9%(9月:+3.6%)と、ハリケーン上陸を背景に南部を中心に減少した。一方、集合住宅は+9.6%(-16.6%)と3か月振りに増加したものの、依然低水準で推移している状況に変化はない。この間、住宅着工に先行する住宅建設許可件数は年率141.6万戸(142.5万戸)と2か月連続で減少するなど、その水準は依然停滞の域を脱していない(詳細は「米国 10月住宅着工・許可は減少も底打ちの兆しも」)。

経済見通し

10~12月期実質GDP成長率(2024/1/30公表)を巡っては、11/19時点のアトランタ連銀によるGDPナウキャストが前期比年率+2.6%(7~9月期実績:+2.8%)のプラス成長を見込んでいる。個人消費は実質賃金の上昇を背景に底堅さを示す一方、設備投資に関しても機械設備や無形資産投資を中心に堅調さを維持する可能性が高い。大統領選後に実施された11月のNY連銀製造業指数(調査日:11/4~12)は31.2(10月:-11.9)と大幅に上昇するなど、政策不透明感の部分的な解消が企業センチメントの改善に繋がったと考えられる。また、FRBは10・11月のFOMCで連続的な利下げに踏み切っており、金融政策の転換はこれまで抑制されていた住宅投資や設備投資をけん引するすると期待される。この間、11月のミシガン消費者信頼感指数は73.0(10月:70.5)、10月のコンファレンスボード消費者信頼感指数は108.7(9月:99.2)と、依然低水準に留まるものの、持ち直しの動きを示しつつある。

先行きの米国景気を巡る懸念要因としては、長引くインフレやローン金利高止まりによる家計購買力の侵食、トランプ新政権における高関税政策や移民抑制策によるインフレ再燃、これに伴う高金利政策の長期化などが挙げられる。これまでの高金利政策の影響を巡っては、2024年7~9月期におけるクレジットカードローンの90日以上延滞率が11.1%(2024年4~6月期:10.9%)と5四半期連続で上昇し2012年1~3月期以来の水準へ達するなど、低所得家計を中心とした債務膨張が個人消費を押下げるリスクがある。

また、トランプ新政権が公約通りの関税引き上げや移民の強制送還へと踏み切る場合、人口流入の鈍化などは成長率を押し下げる要因となる一方、インフレ率は輸入物価上昇や労働力不足を背景に再加速することが懸念される。FRBは10月FOMC以降にようやく利下げサイクルへと転じたものの、当面の政策金利は中立水準(10月SEPにおけるLonger run金利:2.9%)を上回り続けるほか、インフレ再燃懸念から利下げペースがより緩慢に留まるリスクが浮上するなど、金融政策がより長期にわたって引締め的な水準に留まる可能性がある。金利が高止まりする場合、住宅投資や設備投資の回復も後ずれする形となるだろう。

ちなみにコロナ以前の過去3回の景気後退において、利上げ打ち止めから景気後退に陥るまでの期間は11~19か月であり、景気悪化時には失業率が急速に悪化する傾向にある(詳細は「米国経済マンスリー:2023 年12月」)。今次利上げ局面の終了は2023年10月であるため、2025年初までに累積的な利上げによる設備投資や新規雇用への影響が急速に発現し、景気後退へと陥る可能性は否定できない。足下では、振れを伴いながらも、賃金の減速と共に求人倍率(=求人数/失業者数)の低下がみられるなど、雇用市場の過熱感が解消しつつあるなかで、失業率が急上昇するリスクに警戒が必要だろう。

図表:求人率と失業率(ベバリッジ曲線)
図表:求人率と失業率(ベバリッジ曲線)

金融政策

  • 11月FOMC(11/6~7開催)

FRBは11月FOMC(11/6~7開催)において、事前の予想通り、政策金利を-0.25%pt引き下げた(政策金利の誘導目標:4.50~4.75%)。声明文においては「年初来、労働市場は総じて緩和している(10月時点:雇用の伸びは鈍化している)と労働市場の判断が微修正された一方、「FOMCはインフレ率が2%に向かうとの確信を深めている」との言及が削除されるなど、インフレ再燃への懸念が示唆された。パウエル議長は会合後の記者会見において、米国経済が堅調なペースで拡大していると述べたうえで、上記のインフレに対する表現の削除は「(何らかの)シグナルを送るものではない」と指摘し、今後も会合ごとに政策判断を行う姿勢を維持した。また、金利水準を「慎重に」中立金利へと移行すると言及し、25年中に再び利上げへ転じる可能性に対しては「(現時点で)計画にない」と否定した。他方、大統領選でトランプ氏が勝利したことを巡っては、大統領の要請があっても「辞任はしない」と述べたうえで、各種政策の影響に関しては実現性が高まった際に反映する方針を示し、財政政策が金融政策に与える影響に関する具体的な言及を避けた(詳細は「米大統領選の影響は短期的になくFRBは利下げ継続へ (24年11月6、7日FOMC)」)。

FF金利先物に基づくFedWatch(11/19時点)によると、12月FOMC(12/17~18開催)における0.25%ptの利下げ確率は57.3%に留まるほか、2025年末の金利予想の中央値は3.75~4.00%となるなど、トランプ新政権下における減税期待、及び高関税や移民抑制によるインフレ再燃懸念を背景に、利下げペースが緩やかになるとの見方が強まっている。

  • FRB高官発言

大統領選

  • 米国大統領選

11月5日に投開票を迎えた2024年米大統領選において、共和党候補のトランプ前大統領が民主党候補のハリス副大統領に勝利した(獲得選挙人:トランプ氏:312人、ハリス氏226人)。激戦州7州の全てでトランプ氏が勝利したほか、全米得票率においてもトランプ氏が50.0%(AP通信による11/19時点集計;ハリス氏:48.3%)に達するなど、事前の想定以上の強さを示した。CNN実施の出口調査に基づくと、トランプ氏は低中所得層、ヒスパニック、若年層などの支持を前回2020年選挙よりも伸ばしており、バイデン・ハリス政権下における物価高や不法移民流入への強い不満が影響したとみられる。

また、同時に実施された議会選においても、共和党が上院は49→53議席(民主党:51→47議席)、下院では220→218議席(同、213→212;5議席は依然未定)と第一党となった。共和党が上下院を制したこと、トランプ氏が1期目よりも共和党内の影響力を増していることは議会運営にプラスと見込まれる一方、その議席数の差は僅かであり、少数の党内急進派の動向によって政策の実現性が大きく揺れ動く可能性には留意が必要だ。

以上

前田 和馬


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ