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FRB議長候補ウォーシュ氏の公聴会発言

~利下げの下準備と穏当なBS縮小~

前田 和馬

要旨
  • ウォーシュ氏は公聴会で積極的な利下げ姿勢を控えた。一方、「FRBによるAI生産性革命の分析」や「(足下でコアPCEインフレを下回る)トリム平均の重視」といった発言は、将来的な利下げに向けた下準備の印象。
  • バランスシート政策を見直す姿勢は示したものの、「綿密な計画」や「財務長官とも協力」と述べるなど、長期金利の急騰を避けるように慎重な実施を示唆。
  • FRB高官の発言機会減少やフォワードガイダンス撤廃の可能性を示すなど、2008年のリーマン・ショック以降に本格化したコミュニケーション手法の見直しにも言及。

4月21日、ウォーシュ氏は上院銀行委員会でFRB議長承認のための公聴会に出席した。主な発言と筆者の所感は以下の通りである。

利下げへの下準備

景気・物価認識を巡って、「経済は概ね完全雇用にある」や「インフレの軌道は改善しているが、まだやるべきことがある」と述べるなど、積極的な利下げ姿勢は示さなかった。また、「AIによる生産性向上で企業は値上げしないと考えるか?」との質問に対して、同氏は「(米国経済はAIによる)最も破壊的な瞬間」と述べるに留めるなど、AI普及と利下げを直接的に結びつけることも避けた。ややタカ派的な印象をみせた背景には、原油高によるインフレ高止まり懸念と、大統領の意向に沿って利下げを行う「操り人形」との批判を避ける狙いがあったのかもしれない。

ただ、幾つかの利下げに向けた準備はみられる。例えば、AIによる経済への影響を巡って「FRBは生産性向上の可能性を掘り下げるべき」と述べた。一部のFOMCメンバーはAIによる供給力の向上よりも旺盛な需要がインフレや中立金利を押し上げる可能性に言及している。FRBスタッフが各種論点を整理したうえで、ウォーシュ氏が自身の意向に沿った総括を行うと、「AI普及=利下げ」との理論武装が可能となる。また、同氏は(食品・エネルギーを除く)コアPCEインフレ率よりもトリム平均や中央値を重視する姿勢を示した。直近2月時点において、ダラス連銀のトリム平均は前年比+2.3%、クリーブランド連銀の中央値は+2.8%と、共にコアPCEインフレ率(+3.0%)を下回っており、FRBは同指標の重視によって利下げに向かいやすくなる。

緩やかなBS縮小

バランスシート(BS)政策を巡っては、FRBの国債保有が「金融資産を持つ層に恩恵をもたらす」と否定的な見解を示し、危機時以外にこうした手段を用いる必要性を否定した。そのうえで、より公平で多くの国民に影響する「短期政策金利に重点を置いた」金融政策への回帰を掲げた。とはいえ、「(リーマン・ショック以降の)18年間かけて生じたバランスシートの問題を、18分間では解決できない」と拙速な政策変更には慎重姿勢を示した。また、実際の規模縮小は「綿密に計画され」行われるべきと強調したほか、財務長官と調整する必要性にも言及した。トランプ政権が長期金利の上昇を警戒するなか、この急騰を招きうるようなペースでのBS縮小を避けたい意向が透けて見える。

コミュニケーション改革

FRBによる市場との対話を巡っても、ウォーシュ氏は大規模な改革の意向を示唆した。具体的には「あまりに多くのFRB当局者が望ましい金利水準に言及している」や「フォワードガイダンスは信奉していない」と述べた。2007年にバーナンキ議長の下で導入された「四半期経済見通し(12年に政策金利見通し[ドットチャート]が追加)」、これによって生じた各FOMCメンバー発言への注目(予測根拠の確認)、ゼロ金利時代のフォワードガイダンスなど、(BS政策と同様)ウォーシュ氏が危機時に強化された金融政策ツールが「現在は不要」と考えている印象を受ける。

なお、ウォーシュ氏は「21~22年におけるFRBの判断ミスが、今の負の遺産(高インフレ)となっている」や「FRBが約束(与えられた使命)を果たしていないため、政治介入には驚かない」と、トランプ政権によるFRBへの攻撃に理解を示すような発言がみられた。就任後の利下げ推進やFRBのコミュニケーション改革を見据えると、こうした発言は現FOMCメンバーの不快感を招き、ウォーシュ氏の指導力発揮に一定の障害となる懸念がある。ただ、仮にFRB議長を除く高官の情報発信が減るのであれば、一部メンバーの反発は表面化しにくくなるかもしれない。

図表
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以 上

前田 和馬


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前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

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