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2024.04.12
アジア経済
アジア金融政策
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為替
シンガポール通貨庁、景気鈍化もインフレリスクを警戒して現状維持
~先行きの景気回復と物価安定を見込むも、物価を巡るリスクを警戒して様子見姿勢を維持の模様~
西濵 徹
- 要旨
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- シンガポール経済は世界経済の影響を受けやすいなか、昨年の経済成長率は+1.1%に留まるも年後半にかけての景気は底入れの動きを強めてきた。年明け以降の中国景気は底入れが続く一方、デフレの輸出がアジア新興国経済の足かせとなる懸念があるなか、今年1-3月の実質GDP成長率は前期比年率+0.21%と頭打ちしている。他方、一昨年後半以降のインフレは頭打ちしてきたが、足下では生活必需品を中心とするインフレに加え、米ドル高に伴うSGドル安が輸入インフレを招く懸念も高まっている。こうしたなか、12日に通貨庁(MAS)は定例会合を開催して4会合連続の現状維持を決定した。物価見通しについて上下双方のリスクを警戒しており、当面MASはインフレ動向をみながら様子見姿勢を維持する可能性は高まっている。
シンガポールを巡っては、世界有数の都市国家ゆえに海外経済の影響を極めて受けやすい特徴を有するなか、昨年は中国経済の減速やコロナ禍からの世界経済の回復をけん引してきた欧米など主要国景気の勢いに陰りが出たことも重なり、世界貿易の動きが下振れする展開をみせるなど景気の足かせとなる懸念が高まった。事実、昨年の経済成長率は+1.1%と前年(+3.8%)から伸びが鈍化している上、経済成長率のゲタが+0.4ptと前年(+1.9pt)からプラス幅が縮小していることを加味しても、景気の勢いに陰りが出ていると捉えることが出来る。ただし、昨年末にかけては中国景気が供給サイドをけん引役に底入れしていることに加え、米国経済の堅調さも重なる形で世界貿易は底打ちしていることも追い風に、景気は底入れの動きを強める様子が確認されてきた。年明け以降も中国景気は供給サイドをけん引役に底入れが続いている上、輸出の堅調さがその一助となっている一方、『デフレの輸出』とも呼べる動きが顕在化するなかで中国経済との連動性が高い上に競合関係にあるアジア新興国にとっては悪影響が伝播することが懸念される。こうしたなか、1-3月の実質GDP成長率(速報値)は前期比年率+0.21%とプラス成長で推移するも前期(同+4.79%)から鈍化するなど頭打ちの動きを強めている様子がうかがえる。分野別では、サービス業の生産に堅調な動きがみられるものの、製造業や建設業の生産は軒並み下振れして景気の足を引っ張る動きが確認されるなど外需が景気の足かせとなっている模様である。他方、ここ数年は商品高と米ドル高が重なる形でインフレが上振れして内需の足を引っ張る動きがみられたものの、一昨年後半以降は商品高と米ドル高の一巡によりインフレが頭打ちに転じており、年明け直後には2年強ぶりの水準に低下するなど家計消費など内需を押し上げに繋がっていると捉えられる。ただし、このところのアジア新興国ではエルニーニョ現象など異常気象による農作物の生育不良などを理由とする供給懸念の高まりを受けて食料インフレの動きが顕在化しているほか、中東情勢の悪化を受けて国際原油価格も底入れの動きを強めるなど、生活必需品を中心にインフレ圧力が強まる兆候が出ている。さらに、国際金融市場においては米FRB(連邦準備制度理事会)による政策運営を巡る見方を反映して米ドル高が再燃しており、こうした動きを反映してSGドル安が進むなど輸入インフレに繋がる懸念も高まっている。結果、一昨年以降のインフレは頭打ちの動きを強める展開が続いたものの、足下では底打ちの兆しが出ているなかで先行きは底入れの動きを強める可能性もくすぶる。シンガポール通貨庁(MAS)は調整手段に名目実効為替レート(NEER)の政策バンドの幅、中央値、傾きを調整するという特殊な方法を用いるなか、2021年10月以降に5会合連続で引き締め方向にシフトしてきたものの、昨年4月以降は現状維持に据え置いている。さらに、昨年まで定例会合は年2回(4月・10月)であったものの、今年から年4回(1月・4月・7月・10月)に変更するなど機動性を高めており、12日の定例会合において4会合連続で現状維持(NEERの幅、中央値、傾きの維持)を決定している。会合後に公表した声明文では、今年の経済成長率は「外需をけん引役に+1~3%になる」ほか、インフレ率は「GST引き上げを反映しても+2.5~3.5%になる」との見通しを示す一方、昨年以降のNEERが緩やかな上昇が続いていることに加え、「現行のスタンスが輸入インフレとコスト上昇圧力に対する抑制効果の維持に必要な上、中期的な物価安定の確保にも充分」との見方を示している。その上で、先行きのインフレ見通しについて「上下双方にリスクがある」として「世界的な食料インフレやエネルギー価格を巡るショック、想定を上回る労働需要がインフレ圧力を招く一方、世界経済の予期せぬ減速は下押し圧力を招く可能性がある」との見方を示している。その意味では、当面はインフレ動向をみながらの様子見姿勢を続ける可能性が高まっていると判断出来る。
以 上
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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