電気ガス代負担軽減策終了と家計負担、CPI

~再エネ賦課金引き上げと合わせて年間3万2000円の負担増。CPIへの影響も大きい~

新家 義貴

要旨
  • 政府は、現在実施されている電気・ガス代の負担軽減策について24年5月使用分をもって終了する方向で検討を進めている模様。支援策の打ち切りにより、標準的な家庭で月額1850円、年間2万2200円の負担増となる。24年5月からの再生可能エネルギー発電促進賦課金単価の大幅引き上げによる影響(年間1万円程度)と合わせ、年間で3万2300円程度の負担増となる。

  • 24年春闘では予想を大きく上回る賃上げが実現し、このことが個人消費の活性化をもたらすと期待されているが、電気、ガス代の大幅上昇で賃上げ分の一部が相殺される。このことが賃上げからの消費増という好循環の流れに水を差すことが懸念される。

  • 電気・ガス代の負担軽減策打ち切りによりCPIコアは現在と比較して+0.5%Pt程度押し上げられる。また、負担軽減策打ち切りと再エネ賦課金単価引き上げの影響により、押し上げ寄与が最大となる24年7月~9月にはCPIは前年比で+1.25%Ptも押し上げられる。23年度は電気代、ガス代がCPIを押し下げたが、24年度は一転してCPIを大きく押し上げる要因となる。

電気・ガス代負担軽減策終了で年間2万円以上の負担増。CPIにも大きく影響

政府は、現在実施されている電気・ガス代の負担軽減策について、5月使用分をもって終了する方向で検討を進めているとの報道が相次いでいる。23年1月使用分より開始されたこの制度は、当初、電気料金は家庭向けで1キロワットアワーあたり7円、ガス料金は1立方メートルあたり30円の補助が実施されていたが、23年9月使用分より電気料金で3.5円、ガス料金で15円に補助が半減されていた。これを24年5月使用分でさらに半減(電気料金で1.8円、ガス料金で7~8円?)し、6月使用分以降は補助を打ち切ることを検討しているとのことである。筆者は、5月使用分で半減した上で支援を延長することを想定していたため、政府はかなり踏み込んだ印象を受ける。春闘における賃上げが予想を大きく上回る形で決着したことが、政府を後押ししたのかもしれない。

現在、毎月の電力使用量が400キロワットアワーの標準的な世帯で月額1400円、毎月のガス使用量が30立方メートルの標準的な世帯で月額450円の補助が実施されている。そのため、これが打ち切りになれば、合わせて月額で1850円、年間で2万2200円の家計負担増となる。 また、消費者物価指数への影響としては、23年2月1の導入当初は▲1.0%Pt程度、23年10月以降は▲0.5%Pt程度となっているものが、24年6月に▲0.25%Pt程度、7月からはゼロとなる。現在(▲0.5%Pt)と比較して、支援打ち切りによってCPIコアは0.5%Pt分押し上げられる形である。

なお、CPIへの影響を見る上では、前年の裏の影響を勘案することも重要だ。そこで、電気・ガス代負担軽減策のCPIコア前年比に与える影響度合いを見たものが下図である。

図表1
図表1

負担軽減策によるCPIへの押し下げ寄与は、23年2月に前年比で▲1.0%Pt程度だったものが23年10月に▲0.5%Ptに縮小していた。それが、24年2月には制度開始から1年が経過し、補助が半減されたものと制度開始当初のものとの比較となったため、前年比で+0.5%Pt程度の押し上げとなっている。これが、24年6月にはさらに半減されて+0.75%Pt程度のプラス寄与、7月の打ち切りにより+1.0%Pt程度の押し上げとなる。また、24年10月には23年10月の補助縮小の裏が出ることで+0.5%Pt程度にプラス寄与が縮小、25年6、7月には再縮小と打ち切りの影響が1年が経過することで一巡し、CPIへの影響はゼロとなる。筆者が元々想定していた、24年6月に補助を半減し、そのまま延長という方法と比較すると、24年7月~25年6月にかけて0.25%Pt程度の上振れとなる。このように、前年の裏も絡んで複雑な動きとなるが、いずれにしても24年度の電気・ガス代はCPIを大きく押し上げる要因になることは間違いない。

再エネ賦課金単価引き上げも合わせると年間3万2千円の負担増に

もう一つ注意が必要なのが、24年度の再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)単価が大幅に引き上げられることである。「再エネ賦課金単価引き上げと家計負担、CPI ~年間1万円の負担増。CPIを0.25%Pt押し上げ。負担軽減策延長の行方にも注目~2」(3月22日発行)で述べたとおり、再エネ賦課金単価が24年5月より大幅に引き上げられることで、家計負担は年間で1万円程度増加する。前述の電気・ガス代負担軽減策打ち切りの影響と合わせ、年間で3万2300円程度の負担増であり、家計に与える影響はかなり大きいと言えるだろう。

CPIへの影響を見ても、24年4月までは再エネ賦課金の影響で▲0.24%Pt程度押し下げられていたものが、5月以降は+0.25%Ptのプラス寄与に転じる見込みである。電気・ガス代負担軽減策打ち切りの影響と合わせると、押し上げ寄与が最大となる24年7月~9月には電気・ガス代によりCPIは+1.25%Pt程度も押し上げられることになる。これにより、24年5月から夏場にかけてのCPIコアは前年比+3%近くで高止まりする可能性が高くなった。また、24年中のCPIコアが+2%割れを回避し、+2%台で踏みとどまる可能性も出てきたと考えられる。筆者はこれまで、24年度の再エネ賦課金は政策的に据え置かれ、電気ガス代負担軽減策は24年5月使用分で半減した後、そのまま延長されることを前提として24年秋頃のCPIコア+2%割れを予想してきたが、どうやら上振れの可能性が高くなってきたようだ。

図表2
図表2

このように、今後、電気代、ガス代は大幅に上昇することが予想される。CPIもこれにより大きく攪乱されるだろう。

24年春闘では予想を大きく上回る賃上げが実現しており、このことが個人消費の活性化をもたらすと期待されているのだが、賃上げ分の一部を、この電気・ガス代上昇による年間3万円以上の負担増が相殺してしまうことになる。電気・ガス代の上昇が賃上げ発の好循環の流れに水を差すことが懸念されるところだ。


1消費者物価への反映は23年2月から。使用された月の翌月分のCPIに反映される。

2https://www.dlri.co.jp/report/macro/327173.html

新家 義貴


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新家 義貴

しんけ よしき

経済調査部・シニアエグゼクティブエコノミスト
担当: 日本経済短期予測

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