再エネ賦課金単価引き上げと家計負担、CPI

~年間1万円の負担増。CPIを0.25%Pt押し上げ。負担軽減策延長の行方にも注目~

新家 義貴

要旨
  • 24年度の再生可能エネルギー発電促進賦課金単価が大きく引き上げられる。再エネ賦課金単価は23年度に大幅に低下し、電気代の押し下げに繋がっていたが、24年度は逆に大きな押し上げ要因になる。
  • これにより、家計負担は23年度対比で年間約1万円増加する。CPIコアも24年5月以降+0.25%Pt程度押し上げられることになる。また、23年度の賦課金単価大幅引き下げによる電気代低下の影響が剥落することも加わり、24年4月から5月にかけて、電気代のCPIコアへの寄与度は+0.5%Pt程度上昇する。
  • 電気代、ガス代の負担軽減策が縮小される可能性があることも、家計負担の増加に繋がりかねない。24年春闘では予想を大きく上回る賃上げが実現し、このことが個人消費の活性化をもたらすと期待されているが、電気代の上昇による負担増がこうした流れに水を差すことが懸念される。

24年度の再エネ賦課金が大幅引き上げ

経済産業省は3月19日に、24年度の再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)単価を1キロワット時当たり3.49円と、23年度の1.40円から2.09円引き上げることを発表した。これは5月分から適用される。

再生可能エネルギー発電促進賦課金は、再生可能エネルギーの普及のために電気料金に上乗せされているものである。太陽光や風力などで発電された電力は電力会社が買い取っているが、この買い取りにかかった費用の一部を再エネ賦課金として毎月の電気料金に上乗せする仕組みとなっている。

ちなみに再エネ賦課金は

     (「再エネ買取費用」+「事務費」-「回避可能費用等」)/販売電力量

として計算される。このうち回避可能費用とは、電力会社が再エネ電力を買取ることにより、(再エネ買取が無かった場合の)本来予定していた発電を取りやめ、支出を免れることができる費用のことを指す。23年度は、ウクライナ戦争等を背景とした資源価格の高騰により電力市場価格が高騰したことから、この回避可能費用が急増した。「再エネ買取費用」の増加はそれほどでもないなか、買取費用から差し引かれる「回避可能費用等」が大幅に増加した結果、23年度の再エネ賦課金は大幅に低下していた。過去、上がり続けていた再エネ賦課金単価が大幅に引き下げられるという異例の事態であり、このことが23年度の電力料金の抑制に一役買っていた。しかし、24年度については、資源価格の落ち着きにより電力の市場価格も低下し、回避可能費用等も減ることになった。結果として、再エネ賦課金単価は大幅に上昇し、元の水準に戻ったという形である。

再生可能エネルギー発電促進賦課金単価
再生可能エネルギー発電促進賦課金単価

家計負担額は年間1万円増、CPIを0.25%Pt押し上げか

再エネ賦課金による負担額は、一般的な世帯において23年度は月額560円、年額6720円だったが、24年度は1396円、年額16752円に引き上げられる。23年度対比で年間10032円の家計負担増となる。また、消費者物価指数への影響をみると、24年5月以降のCPIコアが+0.25%Pt程度押し上げられると試算される。いずれも影響は小さくない。

また、CPIを見る上では、23年5月から24年4月までのCPIが、再エネ賦課金単価の大幅引き下げにより▲0.24%Pt程度押し下げられていることにも注意が必要だ。仮に24年5月以降の再エネ賦課金単価が据え置きだったとしても、引き下げから1年が経過することで押し下げ寄与は剥落し、24年5月以降のCPIは前年比で押し上げられるのだが、今回はさらに再エネ賦課金単価の大幅引き上げが加わる。結果として、24年4月(▲0.24%Pt)と24年5月(+0.25%Pt)とを比較すると、再エネ賦課金の影響で0.5%Ptの差が生じることになる。

24年2月のCPIコアは、電気・ガス代の負担軽減策による下押しが一巡したことで前年比+2.8%へ跳ね上がった(1月:+2.0%)が、基調としてはCPIの鈍化傾向は変わっておらず、3、4月には再び上昇率が鈍化することが予想される。しかし、5月には前述の再エネ賦課金による「23年5月以降の押し下げ分一巡」に「24年5月からの大幅引き上げ」が加わることにより、電気代が前年比で跳ね上がる。結果として、CPIコアは5月に再び前年比で+3%近くまで上昇することになる可能性が高いと思われる。

再エネ賦課金の影響(CPIコアへの前年比寄与度)
再エネ賦課金の影響(CPIコアへの前年比寄与度)

電気代、ガス代の負担軽減策も支援縮小?

もうひとつ気になるのが、政府によるガソリン・灯油補助金と、電気代、ガス代の負担軽減策(電気・ガス価格激変緩和対策事業)の行方である。

ガソリン補助金については24年4月末までとされていたが、延長が検討されているとの報道も出ている。ガソリン補助金は昨年6月以降段階的に縮小され、9月末で終了する予定だったが、ガソリン価格が上昇を続け、過去最高値を更新するなか国民の不満が著しく高まったことを受け、政府は再度の延長・拡充に追い込まれたという経緯がある。当時の国民からの反発の大きさを考えると、24年5月に制度を単純に打ち切るという選択肢はないだろう。また、一度失敗した段階的な縮小という案を再び提案することにもリスクがある。トリガー条項凍結解除の議論が立ち消えになったこともあり、最終的には現在の補助金制度をそのまま延長する形で決着する可能性が高いのではないだろうか。

一方、電気代、ガス代の負担軽減策については先が読みにくい。この負担軽減策は24年4月使用分まで延長、5月使用分での支援幅縮小が予定されているが、その先は決まっていない。そろそろ6月以降どうするかという話が出ても良い時期だが、今のところ具体的な議論は出ていないようだ。

先行きの案としては、①(5月の支援縮小を撤回して)現在の支援額のまま延長する、②支援額を半減して延長する、③打ち切る、が考えられる。単純に打ち切ることは家計負担を考えると難しいだろうが、全額延長となるか支援縮小の上で延長となるかは分からない。

ここで重要な点は、昨年10月以降、この負担軽減策は既に半減されている点である。ガソリン補助金の縮小があれだけ叩かれた一方で、電気・ガス代の負担軽減策縮小については大きな反発もなく実現した。実際の家計負担増額としては電気・ガス代の支援額縮小の方が大きかったのだが、実際に財布から支出するガソリンと引き落としが多い電気代との違いが、この反発度合いの差をもたらしているのだろうか。そう考えると、電気・ガス代の負担軽減策については全額延長を回避し、支援額を縮小する形で延長となる可能性も十分あると思われる。

このように、今後、電気代は上昇することが予想される。再エネ賦課金単価の上昇については大きく報道はされていないが、影響度合いは意外に大きい。CPIもこれにより大きく攪乱されるだろう。これに電気・ガス代負担軽減策の縮小が重なれば、影響はさらに大きくなる。

24年春闘では予想を大きく上回る賃上げが実現しており、このことが個人消費の活性化をもたらすと期待されているのだが、本稿で述べた電気代の上昇が、こうした流れに水を差すことが懸念されるところだ。

新家 義貴


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新家 義貴

しんけ よしき

経済調査部・シニアエグゼクティブエコノミスト
担当: 日本経済短期予測

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