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2024.01.22
アジア経済
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中国人民銀行への関与を一段と強める中国共産党
~金融危機を抑えたいとの思惑も、問題山積のなかで過度な期待は抱くことは難しいであろう~
西濵 徹
- 要旨
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- 足下の中国経済は供給サイドをけん引役に景気底入れの動きが続く一方、需要サイドは力強さを欠くなど需給ギャップの拡大がデフレを招く懸念に直面する。金融市場には中銀が金融緩和に舵を切ることを期待する向きがある一方、人民元安を招く懸念がくすぶるなかで政策運営の手足が事実上縛られる展開が続く。昨年以降は共産党による金融部門への関与強化を目指す動きがみられるなか、18日に国務院は中国人民銀行金融政策委員会条例の改正を公表し、政策委員会への党の関与を一段と強化する内容が盛り込まれた。共産党が金融部門への関与を強化する背景には、金融危機を抑え込みたいとの思惑がうかがえる一方、構造問題や過剰債務、人口減少などを抱えるなかで政策運営の機動性が低下することが懸念される。中国当局の一挙一動から目が離せない一方、過度な期待を抱くことは難しいのが実情と捉えられる。
足下の中国経済を巡っては、供給サイドをけん引役に景気底入れを促す動きが続いている模様であり、昨年の経済成長率は+5.2%になったことが明らかにされるなど昨春の全人代(第14期全国人民代表大会第1回全体会議)で示された政府目標(5%前後)をクリアするなど、習近平指導部としては面子を保った格好である(注1)。しかし、若年層を中心とする雇用回復の遅れに加え、不動産市況の低迷も重なるなかで家計消費をはじめとする内需は力強さを欠く推移が続いている上、欧米など主要国景気の勢いに陰りが出ているほか、米中摩擦や世界的なデリスキング(リスク低減)を目的とするサプライチェーン見直しの動きも重なり外需を巡る不透明感が強まるなど、内・外需双方で需要サイドは力強さを欠く動きが続いている。よって、需給ギャップの拡大が意識される状況にある上、昨年の名目成長率は+4.6%と実質成長率を下回る『名実逆転』となるなど、不動産市況の低迷による資産デフレをきっかけにデフレ状態に陥ることが懸念される状況にある。こうしたことから、金融市場においては中銀(中国人民銀行)が景気下支えに向けて金融緩和に舵を切ることが期待される一方、当局は過去の金融緩和による『カネ余り』を追い風に不動産市況が上昇基調を強めるなどバブルを招く元凶になったこともあり、慎重姿勢を崩さない展開が続いている。さらに、仮に中銀が金融緩和に舵を切れば金融政策を巡る方向性の違いを理由に人民元相場は調整の動きを強めると予想されるなか、昨年は人民元安の進展を理由に米ドル建で換算したGDPが29年ぶりの減少に転じるなど世界経済における存在感の低下を招いたことも政策の舵取りを難しくさせている可能性がある。また、このところの国際収支統計を巡っては、外需の環境が悪化していることに加え、反スパイ法改正などを受けた中国に進出する外資系企業や外国人を取り巻く状況が厳しさを増すなかで対内直接投資は大きく下振れする一方、富裕層などが資金逃避の動きを活発化させる兆候がうかがえるため、中銀が金融緩和に舵を切れば資金流出を加速させることが予想される。こうした状況も中銀の政策運営の手足を事実上縛っている可能性が考えられる。他方、中国人民銀行による政策変更を巡っては国務院(内閣)による承認が必要であるなど独立性が担保されていないなど、他の国々における中銀と性質を異にする状況にある。こうしたなか、昨年10月に実施された5年に一度の中央金融工作会議では金融業界に対する共産党の指導を強化する方針が決定したほか、金融システム全体における党の指導強化を目的に党中央金融工作委員会を設置して何立峰国務院副総理が書記に就任するなど、党の関与を深化させる動きがみられた。さらに、18日に国務院は中国人民銀行金融政策委員会条例を改正し、四半期に一回開催される政策委員会を巡って共産党による指導や監督を強化する旨が明らかにされるなど、政策変更に際して国務院のみならず、共産党指導部の承認が必要になる模様であり、政策の機動性が一段と失われる可能性が懸念される。他方、共産党が金融部門への関与を強めている背景には、習近平指導部が主導する形でなにがなんでも金融危機の発生を抑え込みたいとの思惑がうかがえるものの、不動産投資への過度な依存という構造問題やその背後にある過剰債務を抱える一方、昨年も2年連続で人口が減少してそのペースが加速するなど潜在成長率の低下がさけられなくなるなか、短期のみならず中長期的にも中国経済を取り巻く状況は厳しさを増すことが懸念される。世界経済への影響の大きさを勘案すれば、中国当局による一挙一動から目が離せない展開が続く一方、過度な期待を抱くことが出来ない状況は世界経済にとっての『苦難の始まり』となる可能性もある。
注1 1月17日付レポート「2023年の中国経済は「政府目標」をクリアしたものの…」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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