3月のYCC終了を予想  ①「点検」は予告なし ②コロナ離れ

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月28,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月130程度で推移するだろう。
  • 日銀は現在のYCCを3月に終了するだろう。
  • FEDは5月まで利上げを続けた後、年後半に利下げを開始するだろう。
目次

金融市場

  • 前日の米国市場は休場。

注目点

  • 日銀は現在のYCCを3月に終了するだろう(10年金利操作の終了)。2月16日付の当レポートで筆者は3月の金融政策決定会合における「いきなり」YCC終了の可能性について触れ、その後、その予想に自信を深めた(同レポートは下部に再掲)。要点は①YCC終了を事前に織り込ませることは国債売りの嵐を呼ぶことに他ならないため、円債市場の波乱を最小限に抑えるという点において得策でない、②3月は黒田体制において最後の金融政策会合であるほか、年度末ということもあり政策変更を予想する向きが少ない、③賃上げ報道が相次いでいることから春闘の結果を待つ必要性が低下している、④新型コロナの感染症法上の分類変更に伴ってフォワードガイダンスの修正が必要になりそれが政策変更のきっかけになり得る、などである。

  • 金融市場関係者の間では植田次期総裁候補が金融政策の「点検」を実施し、その結果を踏まえて政策修正に踏み切るという常道を予想する向きが多い印象がある。ただしこれまでのように点検を予告すれば、その途端に引き締め方向への政策変更が織り込まれ、国債売りが殺到するのは自明。オペ運営の難しさを考えると予告型の点検が実施される可能性は低い。仮に点検があるとすれば、それは予告なく行われ、その結果が政策変更と同時に発表される形になるのではないか。上記の視点を踏まえると3月の政策変更は理に適っていると判断される。

  • 筆者は、政府と日銀が政策態度の足並みを揃える必要があるという点において、新型コロナの感染症法上の分類変更が重要であると認識している。日銀は「当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している」というフォワードガイダンスを2020年4月より維持している。しかしながら、ここへ来て金融政策とコロナ感染状況を紐付けることの違和感は増しているのは事実であり、いつまでもコロナを理由に緩和姿勢を維持する方針を掲げておくことは不自然だろう。ちなみに内閣府の月例経済報告(2023年1月)に目を向けると、景気の基調判断は以下の通り日本国内のコロナ感染状況に関する記載は無い。貼付のように「新型コロナウイルス感染症」が政策態度の文面から削除されたのは2022年10月である。日銀がフォワードガイダンスを修正する必要性が高まっているように思える。

月例経済報告における景気の基調判断

「景気は、このところ一部に弱さがみられるものの、緩やかに持ち直している。

先行きについては、ウィズコロナの下で、各種政策の効果もあって、景気が持ち直していくことが期待される。ただし、世界的な金融引締め等が続く中、海外景気の下振れが我が国の景気を下押しするリスクとなっている。また、物価上昇、供給面での制約、金融資本市場の変動等の影響や中国における感染拡大の影響に十分注意する必要がある」

政策態度

「足下の物価高などの難局を乗り越え、日本経済を本格的な経済回復、そして新たな経済成長の軌道に乗せていくべく、「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」及びそれを具体化する令和4年度第2次補正予算について、進捗管理を徹底し、迅速かつ着実に実行するとともに、令和5年度予算及び関連法案の早期成立に努める。

今後とも、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略を一体的に進める経済財政運営の枠組みを堅持し、民需主導の自律的な成長とデフレからの脱却に向け、経済状況等を注視し、躊躇なく機動的なマクロ経済運営を行っていく。

日本銀行には、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、2%の物価安定目標を持続的・安定的に実現することを期待する」

図表1
図表1

  • 上記に鑑みて筆者は3月のYCC終了を予想する。この予想に対するリスクは政策変更の予想が支配的となり金融政策決定会合の直前に国債売りが膨らみ、「動くに動けない」状況になること。このままYCC終了を予想する向きが少数派であれば、日銀は動きやすくなる。

以下、2月16日付レポート再掲

  • 金融市場では植田次期総裁候補の舵取りに注目が集中しており、市場関係者の間では2023年中のYCC終了、2024年のマイナス金利撤回を予想する声が多いように思える。当然のことながら初戦の4月27-28日は極めて大きな注目が集まろう。

  • ここで一点注意しておきたいのは黒田総裁にとって最後となる3月の金融政策決定会合における不意打ちの可能性。12月のYCC修正、具体的には10年金利誘導目標の変動幅拡大がそうであったように市場参加者がYCC修正を予想しておらず、国債売り圧力が小さい時こそ日銀が動き易いという特性を再認識する必要があるだろう。12月の政策修正はそれが予想外であったことから、市場関係者から「コミュニケーション不足」と批判を浴びたが、筆者はその好機を逃さなかった日銀が一枚上手だったと考える。

  • 次期総裁に「市場との丁寧な対話」を求める声は多い。しかしながらYCCの修正・終了に限っては別問題であろう。それを事前に織り込ませることは国債売りの嵐を呼ぶことに他ならないため、円債市場の波乱を最小限に抑えるという点において筋が悪いと言わざるを得ない。つまりYCC修正・終了は誰が総裁であろうと「いきなり」になるのが必然と考えられる。なお、筆者は0.75%への変動幅拡大よりも、10年金利の操作そのものを終了する可能性が高いとみている。激変緩和措置として0.75%などへと拡大することも考えられるが、その問題点はいざそれが実現すると市場参加者が直ぐに「次の一手」、すなわちYCC終了が予想されてしまうこと。結果的にオペ運営の難しさが増してしまう。

  • その点、次回3月会合はYCC終了の好機に思える。黒田体制において最後の金融政策会合であるほか、年度末ということもあり政策変更を予想する向きは現時点で少ない。黒田総裁は、賃金上昇を伴った物価上昇を確認する必要があるとして、これまでYCCの修正観測を封じてきた経緯があるが、最近は大企業を中心に賃上げ報道が目立ち、労働組合側の賃上げ要求も強気化していることから、3月中旬とされる春闘の結果判明を待つ必要性も薄れている。YCCはその解除の難しさが指摘されており、次期総裁はその「片付け」を担う役回りと認識されているが、黒田総裁がそれに目途をつけてから引き継ぐという美談が生まれる可能性はある。

  • また1月17-18日の金融政策決定会合時点からの比較で言えば、新型コロナの感染症法上の分類変更が決定されたことも認識しておきたい(分類変更は1月27日に取りまとめられた)。というのも、それがフォワードガイダンス修正を通じて金融政策の変更に繋がる可能性があるからだ。現在のフォワードガイダンスは新型コロナウィルスまん延の初期段階にあたる2020年4月に緊急対応的に導入されたものであり、金融政策の基本的方針がコロナの感染状況に紐づいている。感染症法上の分類が変更されるのであれば、いつまでもコロナを理由に緩和継続方針を掲げておくことは不自然であろう。コロナに紐づいたフォワードガイダンスを刷新すると共にYCC終了する可能性がある。

藤代 宏一


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