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ギリシャで内閣不信任投票

~近づく総選挙、反緊縮政権の再登板は?~

田中 理

要旨
  • 盗聴疑惑に揺れるギリシャ政界では、野党が内閣不信任案を提出、27日に投票が行われる。ミツォタキス首相が率いる中道右派政権は議会の過半数を保持しており、不信任投票は否決される可能性が高い。だが、国家情報局が野党党首を盗聴していた疑惑は、年央に予定される総選挙やその後の政権発足に影響を及ぼす恐れがある。ボーナス議席なしで行われる今回の総選挙では単独政権の発足が困難。有力な連立相手となる中道左派政党との関係が盗聴疑惑で悪化。連立協議が暗礁に乗り上げた場合、ギリシャ危機時にEUやIMFに反旗を翻した左派政党が政権を奪還し、金融市場に動揺が広がる可能性もある。

ギリシャの最大野党・急進左派連合(シリザ)を率いるツィプラス元首相は25日、昨夏以来、ギリシャ政界を揺るがしている国家情報局による盗聴スキャンダルを巡って、新民主主義(ND)のミツォタキス首相が率いる現政権に対する内閣不信任投票を呼び掛けた。政府の諜報機関である国家情報局が与野党の政治家や軍高官などを盗聴していたとされ、現在も捜査が続けられている。ミツォタキス首相は盗聴の事実を知り得る立場にあったことを否定しているが、国家情報局トップや首相の甥である首相府高官が辞任に追い込まれた。NDは議会の過半数の議席を保持しており、27日に予定される不信任投票は否決される可能性が高い。だが、議会任期の満了に伴う総選挙が年央に予定され、盗聴スキャンダルは選挙結果やその後の政権発足にも影響を及ぼす可能性がある。

政党別の支持率調査によれば、現与党のNDが30%台後半でリードを保っており、ギリシャ危機の最中に反緊縮を唱えて政権を奪取し、トロイカ(EU、IMF、ECBの支援団の総称)と対立したシリザが20%台後半でこれを追い、かつて二大政党の一角を占めた全ギリシャ社会主義運動(PASOK)が10%台前半で3番手に付けている(図)。定数300のギリシャ議会は従来、250議席が3%以上の票を獲得した政党に比例配分され、最多票を獲得した政党に残りの50のボーナス議席が割り振られた。だが、2015年に政権を奪取したシリザは、ボーナス議席を廃止し、全議席が比例配分される形に選挙制度を改めた。2019年に政権を奪還したNDは、ボーナス議席を再導入したが、即時効力発生に必要な3分の2以上の賛成票が得られなかったため、新たな選挙制度は次の次の総選挙から適用され、今回はボーナス議席なしの選挙制度が適用される。

そのため、世論調査通りにNDが4割近くの議席を獲得した場合も、単独での政権発足は困難な状況にある。上記3党以外は極端な政党ばかりで、連立相手とはなり得ない。考えられる連立の組み合わせは、民政移管後のギリシャ政界の二大勢力であるND(中道右派)とPASOK(中道左派)による大連立か、シリザ(左派)とPASOKによる左派連立だろう。NDとPASOKは長年のライバル政党だが、過去に連立を組んだことがある。だが、今回の盗聴スキャンダルは、後にPASOKの党首に就任するアンドロラキス欧州議会議員に対する盗聴発覚が発端となった。連立協議が暗礁に乗り上げた場合、同じ左派のシリザとPASOKによる連立の可能性が浮上しよう。

反緊縮を掲げて2015年に政権を奪取した際のシリザは、度重なる緊縮や改革要求でギリシャ国民の尊厳が傷つけられたと主張。政権発足直後はEUやIMFに反旗を翻し、債務返済を履行せず、支援プログラムが失効、緊縮受け入れの是非を問う国民投票を実施するなど、一時はユーロ離脱に突き進むとの不安も広がった。銀行の預金流出で資本規制の導入を余儀なくされ、さらなる経済混乱や国民生活への打撃を回避するために方針転換。その後は、EUの支援下で財政再建や構造改革を進め、政権発足当初の反EU姿勢は影を潜めた。既にギリシャはEUの財政支援を脱し、シリザが政権を再奪取した場合も、復興基金で約束した改革を反故にすることや、反EU姿勢を露わにすることはないと思われる。ただ、ECBによる利上げと量的引き締めの開始、昨年の政権発足前後に広がったイタリアの財政不安の余波もあり、ギリシャの国債利回りに上昇圧力が及んでいる。反緊縮を掲げたシリザ政権の再登板で、金融市場に動揺が広がる恐れがある。

図表1
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以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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