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英市場混乱とBOEの緊急利上げ

~財務省とBOEが声明発表も市場の動揺は収まらず~

田中 理

要旨
  • 英国では財政規律を度外視した新政権の経済対策発表以降、金融市場の動揺が続いている。26日には財務省とBOEが揃って声明を発表したが、市場センチメントの改善にはつながっていない。BOEは11月3日の定例会合を待たずに緊急対応を余儀なくされる公算が大きい。

英国では23日の経済対策発表後、財政規律を度外視した大型減税とエネルギー料金凍結による国債増発が嫌気され、通貨・債券・株の全面的な売りが続いている。背景にあるのは、トラス新政権の経済政策運営に対する金融市場の不信感がある。エネルギー料金の凍結による物価高騰の抑制、大型減税と規制緩和による経済活性化、銀行のボーナスキャップ廃止などは、1つ1つの政策としては金融市場に好感されて然るべきものだ。だが、歴史的なインフレに直面し、BOEが大幅利上げを続けるなかでの国債の大量増発に、金融市場は売りで反応した。トラス首相は保守党の党首選を通じてBOE批判や財務省批判を繰り返してきたほか、経済対策の発表に合わせて予算責任局(OBR)に借り入れ見通しの作成を求めず、自ら政策の信頼を損ねてしまった面もある。トラス首相の意を汲むクワーテング財務相は25日、「金融市場の動向についてはコメントしない。経済成長と英国が魅力ある投資対象となることにフォーカスしている」と発言し、市場の不信感に油を注いだ。党内からも新政権の政策方針への不満が高まっている。保守党の数名の非閣僚議員が、就任早々のトラス首相に対して、党首不信任を求める書簡を提出したとの報道もある。

市場沈静化に向けて、26日には財務省とBOEがそれぞれ声明を発表。政府は11月23日に中期的な財政計画とOBRの借り入れ見通しを発表することを、中銀は11月3日の次回の金融政策委員会(MPC)での政策対応を約束したが、即時対応を期待した市場センチメントの目立った改善にはつながっていない。BOEのベイリー総裁は声明で、金融市場の動向を注意深く監視し、2%の物価目標の達成に必要な限り、政策金利を躊躇なく変更する方針を示唆したが、同時に11月3日の次回金融政策委員会(MPC)で政府の経済対策やエネルギー料金凍結の評価を行うとしており、緊急利上げなどの即時対応に期待していた金融市場の失望を誘った。

新政権は中期的な財政計画を発表することで、今後も一定の財政規律を意識した政策運営を行う方針を示唆し、金融市場の不安心理を緩和しようと試みたのだろうが、大型減税やエネルギー料金凍結の方針を転換することや、将来の増税を約束することは考えにくい。BOEは経済対策発表直後の緊急利上げにより、金融市場に誤ったシグナルを送ることや政府との足並みの乱れが露呈することを回避しようと考えた可能性がある。市場センチメントを早期に改善する政策手段が見当たらないなか、11月の次回MPCや中期財政計画を悠長に待っている余裕があるかは微妙なところだ。市場沈静化に向けて、BOEの緊急利上げを求める圧力が続く公算が大きい。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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