株価上昇に厳しいFed CPI 鈍化の先にある障壁

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月28,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月128程度で推移するだろう。
  • 日銀は、現在のYCCを少なくとも2023年4月までは維持するだろう。
  • FEDは、2022年は毎FOMCで利上げを実施するだろう。
目次

金融市場

  • 前日の米国株はまちまち。NYダウは+0.1%、S&P500は▲0.1%、NASDAQは▲0.6%で引け。VIXは20.2へと上昇。
  • 米金利はベア・スティープ化。債券市場の予想インフレ率(10年BEI)は2.483%(+4.3bp)へと上昇。実質金利は0.402%(+6.3bp)へと上昇。
  • 為替(G10)はUSDが中位程度。USD/JPYは133近傍へと小幅上昇。コモディティはWTI原油が94.3㌦(+2.4㌦)へと上昇。銅は8173.0㌦(+87.5㌦)へと上昇。金は1789.7㌦(▲5.9㌦)へと低下。

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ(前日差)
米国 イールドカーブ(前日差)

米国 予想インフレ率(10年BEI)
米国 予想インフレ率(10年BEI)

米国 実質金利(10年)
米国 実質金利(10年)

注目点

  • 7月米CPIは「ヘッドラインはピークアウト、コアは高止まり」という結果であった。ヘッドラインは前月比+0.0%、前年比+8.5%と6月対比で明確に減速。ガソリン価格低下を主因にエネルギーが前月比▲4.6%と大幅に減速した。エネルギーは前年比+32.9%となお高い伸びにあるものの、原油先物や週次統計のガソリン価格から判断すると8月も減速が予想され、当面はインフレの下押し要因となる見込み。反対に食料品は前月比+1.1%、前年比+10.5%とどちらの尺度も加速傾向にあり、ヘッドラインの押し上げ要因となった。

米国 CPI
米国 CPI

米国 CPI
米国 CPI

米国 ガソリン価格・原油価格
米国 ガソリン価格・原油価格

  • コアCPIは前月比+0.3%、前年比+5.9%であった。前月比の上昇ペースは6月の+0.7%から減速、前年比上昇率は6月対比横ばいであった。もっとも、3ヶ月前比年率の3ヶ月平均を用いて計測した瞬間風速は+7.0%と加速基調にあり、インフレ終息が一筋縄ではいかないことが示唆された。主要品目に目を向けると、中古車価格は前月比▲0.4%と3ヶ月ぶりに低下し、関連指標のマンハイム中古車価格指数と整合的な動きとなった。またホテル等の宿泊設備は前月比▲2.7%と2ヶ月連続で低下した。反対に消費者物価指数において3割の比重を有する家賃は前月比+0.5%、前年比+5.7%と加速基調にある。手ごろな住宅在庫の不足などから(アパート等の)賃貸向けの住宅需要が強まったことで賃料が上昇傾向を強めている。関連指標のケースシラー住宅価格指数の高止まりなどから判断すると、こうした傾向は当分の間続くと考えられる。

米国 コアCPI
米国 コアCPI

米国 コアCPI
米国 コアCPI

米国CPI 中古車・宿泊設備
米国CPI 中古車・宿泊設備

  • こうしたコア物価の上昇を背景に、アトランタ連銀が算出する粘着CPI(価格変動の鈍い品目に絞って算出した消費者物価)は前年比+5.4%となった。通常時において価格変動の鈍い品目が押し並べて上昇しているのは、労働コスト増加を価格転嫁する動きが広範な品目に及んでいることを示唆する。雇用統計によれば7月の平均時給は前年比+5.2%と高止まりしており、これが消費者段階のインフレに波及する可能性は高い。

コア粘着CPI
コア粘着CPI

コア粘着CPI
コア粘着CPI

米国CPI 家賃
米国CPI 家賃

  • 7月CPIはエネルギー価格低下によってピークアウト感が漂い、一先ず市場参加者は安堵した。もっとも、デイリー・サンフランシスコ連銀総裁が「前月比のデータでは消費者や企業(の負担)が幾分和らいでいるという朗報もあるが、インフレ率は依然として高すぎる上、われわれの物価安定の目標には近づいていない」(11日、FTインタビュー)と言及したように、インフレはなお残存しており、こうした中でFedのハト派傾斜に自信を深めるのは時期尚早に思える。インフレのしつこさ、という点においては今後Fed高官の注目がコアCPI(PCEデフレータ)の高止まりに移り、それが「インフレの勝利宣言にはほど遠い」と言った見解の根拠になるのではないか。例えば、CPI公表後にカシュカリ・ミネアポリス連銀総裁は2023年末のFF金利は4.4%になるとの見通しを示し、市場参加者が織り込む2023年入り後の利下げ観測に待ったをかけた。

  • かつて株価に配慮していた頃のFedは、金融市場参加者が利上げを織り込むとそれを敢えて否定し、ハト派な姿勢を演じて株価押し上げに努めていたが、現在はその逆で利下げが織り込まれるとそれを打ち消すことで株価に下押し圧力をかけている。資産価格上昇がインフレ終息の阻害要因になっているとの認識が内部で共有されている可能性がある。

藤代 宏一


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