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高まる欧州の景気後退リスク

~一段の資源価格高騰が景気後退の引き金に~

田中 理

要旨
  • ノルウェーのエネルギー労組のストライキ入りで、同国の石油・ガス供給が減少するとの見方から、欧州の天然ガス価格が高騰している。政府の労使交渉への介入で、ストライキは短期間で終わったが、金融市場にはユーロドル相場のパリティー割れ観測が燻る。ノルウェー発のエネルギー危機の懸念はひとまず後退したが、ウクライナ情勢を巡ってロシアが欧州向けのガス供給を絞る懸念が払拭できない。物価の上振れが続き、景気をオーバキルするリスクが高まりつつある。

5日の外国為替市場では、欧州の景気後退懸念が高まり、ユーロドル相場が2002年以来となる1.02台にまで低下した。きっかけとなったのは、ノルウェーのエネルギー関連企業の労働組合が、賃上げを求めてストライキに踏み切ったこと。週末に向けて同国のガス供給の約6割が削減されるとの観測が浮上していた。ウクライナ侵攻でロシア産化石燃料の欧州向け供給が絞り込まれるなか、安定的な代替調達先とみられたノルウェーからの石油や天然ガス供給も減少するとの思惑から、4日のオランダTFTの天然ガス先物価格が高騰していた。大幅なユーロ安進行が、冬場のエネルギー不足や物価高に伴う景気後退懸念を反映したものか、資源価格の更なる高騰でECBの利上げペースが加速し、景気をオーバーキルするとの見方を反映したものかは、はっきりしない。米国でも経済指標全般にブレーキが掛かるなか、景気後退懸念が浮上しているが、景気の腰が相対的に弱く、エネルギー供給減少の影響が直撃する欧州の景気後退リスクの方が大きい。

ノルウェー政府は社会的な影響の大きさに鑑み、5日に労使交渉に介入し、ストライキは短期間で終結した。ユーロ安進行のきっかけとなったイベントはひとまず終了したが、金融市場には更なるユーロ安進行と対ドルでのパリティー割れの観測が燻る。欧州では電力需要のピークが冬場で、ノルウェー産の石油・天然ガス供給の減少ですぐさまエネルギー不足に陥る訳ではない。だが、需要期の冬場に向けてガス在庫の積み増しが十分にできず、冬場のエネルギー不足が懸念される。ウクライナ東南部でのロシアの攻勢が続くなか、欧州がロシア向け制裁を一段と強化する可能性や、報復措置としてロシアが欧州向けガス供給を一段と絞る恐れがある。6月のユーロ圏の消費者物価は前年比+8.6%と、ECBが6月の理事会で発表したスタッフ見通しを再び上回った(図表1)。ECBの物価見通しは、先行き緩やかな下落を見込む原油先物価格を前提に作られている。欧米の景気後退懸念を背景に、原油相場がこのままピークアウトに向かえば、ECBは慎重な利上げを継続できる。だが、足許で企業の価格転嫁や賃上げの動きが加速しており、ECBは物価の二次的効果への警戒姿勢を強めている(図表2)。資源価格の高騰が続き、物価の高止まりが長期化する場合、ECBは利上げペースを加速する必要が出てくる。供給要因に起因するインフレ加速に、ECBが利上げで対応するには限界がある。期待に働きかけて物価上昇を抑制することは可能だが、需要を必要以上に冷やし、景気をオーバーキルするリスクが高まりつつある。

(図表1)ユーロ圏の消費者物価の推移
(図表1)ユーロ圏の消費者物価の推移

(図表2)ユーロ圏の失業率と妥結賃金の推移
(図表2)ユーロ圏の失業率と妥結賃金の推移

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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