・工作機械受注が教えてくれる景況感 ・景気減速懸念を惹起 NY 連銀サーベイ

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月28,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月125程度で推移するだろう。
  • 日銀は、現在のYCCを少なくとも2023年4月までは維持するだろう。
  • FEDは、2022年は毎FOMCで利上げを実施するだろう。
目次

金融市場

  • 前日の米国株はまちまち。NYダウは+0.1%、S&P500は▲0.4%、NASDAQは▲1.2%で引け。VIXは27.50へと低下。
  • 米金利は超長期ゾーンを除き金利低下。債券市場の予想インフレ率(10年BEI)は2.724%(▲1.7bp)へと低下し、実質金利は0.164%(▲1.8bp)へと低下。
  • 為替(G10)はUSDが小幅安。USD/JPYは129前半で一進一退。コモディティはWTI原油が110.7㌦(+0.2㌦)へと上昇。銅は9238.0㌦(+79.0㌦)へと上昇。金は1811.6㌦(+3.4㌦)へと上昇。

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 予想インフレ率(10年)
米国 予想インフレ率(10年)

米国 実質金利(10年)
米国 実質金利(10年)

経済指標

  • 5月NY連銀製造業景況指数は▲11.6と市場予想(+15.0)を大幅に下回り、4月から急落。ISM換算では51.8へと4月の60.2から大幅に落ち込んだ。内訳は雇用(+7.3→+14.0)が改善した反面、生産(+34.5→▲15.4)と新規受注(+25.1→▲8.8)が垂直的に落下。注目のサプライヤー納期(+21.8→+20.2)は小幅に縮小。そうした下で仕入価格と販売価格は低下。6ヶ月先の期待項目は業況(+15.2→+18.0)、雇用(+25.8→+22.2)、設備投資(+31.8→+25.4)が何れも低下。

NY連銀製造業景況指数
NY連銀製造業景況指数

NY連銀製造業景況指数
NY連銀製造業景況指数

NY連銀製造業景況指数
NY連銀製造業景況指数

注目点

  • 工作機械受注統計(日本工作機械工業会)によると、4月の受注額(原数値)は1549億円と高水準の伸びが続いた。筆者作成の季節調整値は前月比+10.4%の1674億円と今次サイクルのピークを更新し、過去2番目の高水準を記録。もっとも、前年比伸び率(原数値)は+25.0%へと増勢鈍化。国内向けは季節調整済み前月比+14.7%、前年比+47.5%、外需は季節調整済み前月比+7.8%、前年比+15.8%であった。グラフの印象は水準と伸び率で大きく異なる。

工作機械受注
工作機械受注

工作機械受注
工作機械受注

工作機械受注
工作機械受注

工作機械受注
工作機械受注

工作機械受注
工作機械受注

工作機械受注
工作機械受注

  • 地域・業種別詳細は確報の発表を待つ必要があるが、3月までの前年比伸び率から判断すると外需は欧州と米国向けの底堅さが続いた反面、アジアは伸び悩んだ可能性が高い。国内向けは自動車からの受注が低水準に留まるなか、一般機械や電気機械、金属機械が底堅さを増しているが、前年比伸び率は大半の業種が縮小傾向にある。

  • 工作機械業界は、その受注サイクルが世界経済の包括的指標であるOECD景気先行指数と連 動するほか、アナリストの業績予想(TOPIX予想EPS)とも一定の連動性を有する。OECD景気先行指数は日本が改善傾向、米国が横ばい圏にある一方、中国や韓国の減速を背景にアジアが低下基調にあり、欧州も下を向いている。米国はなお底堅さを維持しているものの、高インフレによって消費者マインドが悪化するなどマイナス影響が目立ち始めている。中国は厳格なロックダウンによって経済活動は停滞を強いられている。当局(上海市長)は6月1日より経済活動正常化へ向けて舵を切る方針を示したが、上海における2ヶ月のロックダウンによって少なくとも4・5月データは大幅減速が不可避な状況にある。欧州はウクライナ危機とそれに伴うエネルギー戦略の難しさに直面しており当面はダウンサイドリスクが大きい。工作機械受注はこうした風向きの悪さと一致しているようにみえ、そうした下で日本企業の業績見通しは慎重化している。工作機械は、決して大きくはない業界規模でありながらその受注動向は世界経済のトレンドを掴むうえで優れた尺度と言える。

工作機械受注・OECD景気先行指数
工作機械受注・OECD景気先行指数

工作機械受注・OECD景気先行指数
工作機械受注・OECD景気先行指数

工作機械受注・予想EPS
工作機械受注・予想EPS

  • そこでサイクルの位置取りを確認するために縦軸に工作機械受注の水準(36ヶ月平均からの乖離)、横軸に方向感(6ヶ月前比)をとった循環図をみると、現在は右上領域を左方向に進んでおり、受注増加の終盤にあると判断される。過去の経験則に従うなら、今後受注は高水準を維持するも下向きのカーブを描くと予想される。株式市場では業績ピークアウトが警戒される時間帯だろう。受注や利益が過去最高を更新する決算を発表しても、投資家の注目は伸び率鈍化に向かいやすい。

工作機械受注
工作機械受注

藤代 宏一


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。