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コロナ完全克服は道半ば

~欧州で感染者が急増、一部の国は行動制限を再強化~

田中 理

要旨
  • ドイツ、オーストリア、ベネルクス諸国、中東欧諸国ではこのところ、新型コロナウイルスの感染が再び急拡大している。感染が再拡大するのはワクチン接種が遅れている中東欧諸国が多いが、アイルランド、ベルギー、オランダなどワクチンの2回接種割合が7割を超える国でも感染者が急増している。こうしたなか、オランダが全市民・全地域を対象に飲食店や小売店舗の営業時間の制限を開始したほか、ドイツやオーストリアなどではワクチン未接種者を対象に、スポーツ観戦、文化施設、飲食店の利用を制限する。今のところ行動制限の対象はワクチン未接種者が中心で、学校閉鎖、商業施設の全面休業、全面的な外出制限、都市間移動の制限など、より踏み込んだ措置を導入する国はない。冬場の感染再拡大で目先の景気拡大ペースに大幅なブレーキが掛かるとみられるが、過去の感染拡大時のようなマイナス成長に再転落する可能性は低い。

欧州各国ではこのところ新型コロナウイルスの感染が再び急拡大している。人口100万人当たりの新規感染者数の7日移動平均は11月17日時点の集計で、スロベニア、スロバキアで1500人越え、オーストリアとクロアチアで1300人越え、オランダで1000人近く、ギリシャで600人越え、ドイツで500人越えと何れも過去最高を更新し、1000人越えのチェコとベルギー、800人越えのアイルランドでは過去最高に迫る。その他の主要国では、フランスが約180人、イタリアが約130人、スペインが約90人と他の欧州諸国やピーク時と比べて少ないが、こちらもこの数週間で増加基調にある。

欧州では英米に比べて遅れたワクチン接種が進展し、病床逼迫や重症化リスクが後退したことから、今年の春以降に多くの国が段階的な行動制限の緩和を開始した。欧州連合(EU)全体では11月17日時点の集計で66%が2回のワクチン接種を終え、ポルトガルやスペインでは80%を上回る。今回、感染が再拡大しているのは、欧州内でワクチン接種の割合が低い国々が目立つ。スロバキア(2回接種割合:43%)、クロアチア(46%)、ポーランド(53%)、スロベニア(55%)、チェコ(58%)、ハンガリー(60%)など中東欧諸国でワクチン接種が遅れている。医療先進国のドイツ(67%)やオーストリア(64%)でもEU平均並みにとどまり、イタリア(73%)やフランス(69%)を下回る。アイルランド(76%)、ベルギー(74%)、オランダ(73%)ではワクチン接種の割合が高水準にもかかわらず、感染者が再拡大している。

ワクチン接種が進展しているドイツ、オーストリア、ベルギー、オランダ、アイルランドなどでは、新規感染者が大幅に拡大した後も、病床の利用状況、重症患者、死者は比較的抑制されている(図表1)。だが、ワクチン接種が遅れている中東欧諸国では、死者の増加ペースがより顕著となっている。

今のところ全面的な都市封鎖の再開や行動制限の再強化に踏み出す国はいないが、一部の国は地域や対象を絞った行動制限の再強化を検討・開始している。オランダは11月19日から12月4日までの3週間、全市民・全地域を対象に、①飲食店の営業時間を午後8時まで、小売店舗の営業時間を午後6時までに制限し、②自宅への訪問客の数を一度に4人に制限、③スポーツ観戦や文化施設の人数制限、④公共交通機関でのマスクの着用義務の再導入、⑤在宅勤務の推奨などを実施する。オーストリアは11月15日からの2週間、ワクチン未接種者を対象に、食料・生活必需品の買い物や仕事を除いて外出を制限する。感染拡大が顕著なオーストリアの一部地域では、週明け以降、全面的な都市封鎖を再開するとの報道もある。ドイツの連邦・州政府の代表は11月18日に集まり、①病床が逼迫している地域のワクチン未接種者を対象に、スポーツ観戦、文化施設、飲食店の利用を制限する、②医療従事者のワクチン接種を義務付けることを決定した。アイルランドは11月18日の深夜から、①パブ・ナイトクラブ・飲食店の営業時間を深夜0時までに制限し、②映画館・劇場利用時にワクチンポスポートの提示を義務付け、③在宅勤務を推奨する。ベルギー政府は11月17日、①12月中旬まで週4日の在宅勤務、来年1月中旬まで週3日の在宅勤務、②室内の催し物参加時のマスクの着用を義務付けた。チェコやスロバキアもワクチン未接種者を対象に、飲食店の利用やイベント参加を制限している。今後、感染再拡大が続く他国で追随する動きが出てくる可能性もある。

携帯電話の位置情報に基づく混雑状況のデータによれば、感染再拡大後、ドイツやオランダでは小売店舗や娯楽施設の人出がやや減少している(図表2)。ただ、過去の感染拡大時と比べて人出の減り方はそれほど大きくない。昨年春の感染第一波の時と比べて、在宅勤務体制が整っているうえ、ワクチン接種で重症化が抑制されるとの安心感もある。オランダとアイルランドを除けば、行動制限の対象はワクチン未接種者が中心で、学校閉鎖、商業施設の全面休業、全面的な外出制限、都市間移動の制限など、より踏み込んだ措置を導入する国はない。この程度の行動制限であれば、冬場の感染再拡大で目先の景気拡大ペースに大幅なブレーキが掛かるとみられるが、過去の感染拡大時のようなマイナス成長に再転落する可能性は低い。

(図表1)ドイツの新規感染者数と死者数と(図表2)Google位置情報に基づく小売・娯楽の混雑状況
(図表1)ドイツの新規感染者数と死者数と(図表2)Google位置情報に基づく小売・娯楽の混雑状況

(図表1)ドイツの新規感染者数と死者数
(図表1)ドイツの新規感染者数と死者数

(図表2)Google位置情報に基づく小売・娯楽の混雑状況
(図表2)Google位置情報に基づく小売・娯楽の混雑状況

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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