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2021.09.17
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菅政権の成果
~携帯電話通信料4割引き下げで、平均世帯家計負担▲5178円/月抑制の可能性~
永濱 利廣
- 要旨
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- 菅義偉首相の評価するべき政策として真っ先に挙げられるのが、携帯電話料金の引き下げだ。これにより、2021年4月以降の携帯電話通信料を消費者物価ベースで4割近く引き下げた。仮に全ての世帯が契約の見直しを進めれば、2人以上世帯の携帯電話通信料の支出額は月額5178円抑制できると試算される。
- デジタル庁の創設も、菅政権の功績。菅政権発足前に公表された20年の骨太の方針で「行政のデジタル化」が1丁目1番地の最優先課題であり、官邸に司令塔機能を創設することを実現したことは評価できる。
- 一方、日本全体の経済回復は成し遂げられなかった。購買担当者景気指数(PMI指数)の、全ての業種を対象とした「総合PMI指数」を見ると、今春以降、欧米中ではほぼ全て拡大・縮小の分岐点となる50を上回っているのに対して、日本だけコロナショック以降ほぼ50を下回り続けている。原因は、ワクチンの承認が諸外国に比べて遅かったことや、医療体制不備など新型コロナ対応への遅れにある。これにより、21年1月以降のほとんどの期間で緊急事態宣言や蔓延防止措置といった行動制限が発出され、主要国の中で日本経済だけが回復できなかった。
- コロナ対応の遅れは、昨年度予算の未執行にも表れた。政府は新型コロナ対策として昨年度に3度の補正予算として計約73兆円を編成したが、約4割が未執行となった。30兆円超が今年度予算に繰り越され、巨額な予算を編成したのに必要なところに十分な支援を行き届けることができなかった。
デジタル庁創設も成果
菅義偉首相の経済運営は個別ではレガシーとなりうる政策があったが、日本経済全体の回復は成し遂げられなかった。
評価するべき政策として真っ先に挙げられるのが、携帯電話料金の引き下げだ。大手携帯電話会社は、菅政権の要請に応じて大容量プランを相次いで値下げした。これにより、2021年4月以降の携帯電話通信料を消費者物価ベースで4割近く引き下げた。まだ家計における契約の見直しが進んでいないため、2人以上世帯の携帯電話通信料の支出額は直近21年6月時点では、ピークだった昨年10月と比べて月額585円しか下がっていない。しかし、仮に全ての世帯が契約の見直しを進めれば、2人以上世帯の携帯電話通信料の支出額は月額5178円抑制できると試算される。日本銀行が目指す「消費者物価の前年比上昇率2%」の妨げにはなるが、コロナや長引く経済停滞にあえぐ家計への支援という意味合いは大きい。
デジタル庁の創設も、菅政権の功績だ。菅政権発足前に公表された20年の骨太の方針(経済財政政策の方針)で「行政のデジタル化」が1丁目1番地の最優先課題であり、官邸に司令塔機能を創設することを明記した。また、政府は当時からマイナンバー制度の抜本改善や地方自治体のシステム標準化に取り組む姿勢を示していた。9月1日のデジタル庁発足という形で、それを実現したことは評価できる。デジタル庁の重点課題である「行政のデジタル化」「産業社会全体にわたるデジタル化」「誰もが恩恵を享受できるデジタル化」の進捗が期待される。
コロナ対応は後手に回る
以上に加えて、「50年温室効果ガス排出実質ゼロ」など、個別の経済政策では道筋を付けた菅政権だが、日本全体の経済回復は成し遂げられなかった。購買担当者景気指数(PMI指数)の、全ての業種を対象とした「総合PMI指数」を見ると、今春以降、欧米中ではほぼ全て拡大・縮小の分岐点となる50を上回っている。これに対して、日本だけコロナショック以降ほぼ50を下回り続けている。原因は、ワクチンの承認が諸外国に比べて遅かったことや、医療体制不備など新型コロナ対応への遅れにある。これにより、21年1月以降のほとんどの期間で緊急事態宣言や蔓延防止措置といった行動制限が発出され、主要国の中で日本経済だけが回復できなかった。
コロナ対応の遅れは、昨年度予算の未執行にも表れた。政府は新型コロナ対策として昨年度に3度の補正予算として計約73兆円を編成したが、約4割が未執行となった。30兆円超が今年度予算に繰り越され、巨額な予算を編成したのに必要なところに十分な支援を行き届けることができなかった。未執行額で多かったのが、実質無利子・無担保融資制度、時短や休業に応じた飲食店などを財政支援する地方向け臨時交付金、公共事業費だった。
人手不足なのに公共事業費を積み増すなど、予算策定段階で現状を鑑みずに額だけ積んだことがうかがえる。執行手続きを担う地方自治体や委託先団体の運用の不手際も要因だろう。次期政権も総選挙前に大型の経済対策を策定するだろうが、迅速に執行できる体制とセットにした現実的な予算編成が求められる。
(*)本稿は週刊エコノミストオンライン(9月10日)への寄稿を基に作成。
永濱 利廣
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 永濱 利廣
ながはま としひろ
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経済調査部 首席エコノミスト
担当: 内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析
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