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2026年マーケット展望

~物価高に賃金が追い付く金利ある世界で意識すべき投資のポイント~

永濱 利廣

要旨
  • 2026年は、前年のトランプ政権発足による混乱(関税ショック等)を経て、「トランプ政策の真価」と「日米金利差の縮小」が焦点となる1年。長らく続いた「物価高に賃金が追いつかない」状況が解消され、日本経済が内需主導の回復へ転換する重要な節目となる見通し。
  • 日本は実質賃金のプラス転換と利上げ、春闘での5%水準の賃上げ維持により、実質賃金が安定的にプラスへ。高市政権の積極財政と合わせ、日銀は政策金利を1%以上に引き上げる公算が大きく、景気の好循環に期待。
  • 米国はインフレ再燃リスクとFRBの苦悩に注目。法人減税が景気を下支えする一方、関税や人手不足によるインフレ再燃が懸念材料。FRBの利下げは年2回程度の慎重なペースに留まり、5月のパウエル議長任期満了に伴う人事が市場の不透明感を強める可能性がある。
  • 為替は円安基調の修正がメインシナリオ。日米の実質金利差縮小に伴い、1ドル=150円割れに向けた緩やかな円高・ドル安が進むと予測。ただし、米景気が想定以上に強い場合はドル買い圧力も残り、急激な変動には至らない見込み。
  • リスクシナリオは再インフレと「悪い円安」。トランプ政権の政策が強いインフレを招き、米長期金利が5%を突破した場合、FRBの利下げ停止と相まって再び1ドル=160円を超える円安に振れるリスクには警戒が必要。
目次

(※)本稿は2026年1月13日Finaseeへの寄稿(https://media.finasee.jp/articles/-/17836)を基に作成。

2025年:「政治主導の市場動揺」と「AIによる成長の二極化」に翻弄

2025年の世界経済および金融市場の主な動きを振り返ると、流れは「政治主導の市場動揺」と「AIによる成長の二極化」に翻弄された一年だった。

まずは、米国の「トランプ関税」と市場の乱高下である。年初に発足した第2次トランプ政権は、4月に広範な「相互関税」を発動した。これによりサプライチェーンが混乱し、世界的に株価が急落する「関税ショック」が発生。しかし、その後の法人減税や規制緩和への期待から、米国株はS&P500が過去最高値を更新するなど、景気の強さが不確実性を上回る展開となった(図表1)。

また、金融政策が転換する中、円安が持続した(図表2)。米連邦準備制度理事会(FRB)は、インフレ抑制から景気支援へと軸足を移し、利下げに踏み切った。一方、日銀は緩やかな利上げを継続したが、日米の金利差は依然として大きく、円安基調は解消されなかった。日本の株価は、AIブームや高市政権への期待感から史上初めて5万円台に乗せるなど、歴史的な節目を迎えた。

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2026年:「トランプ政策」の真価と「日米の金利差縮小」が鍵

2026年の世界経済は、「トランプ政策の真価」と「日米の実質金利差縮小」が鍵を握る一年となりそうだ。

まず米国経済については、減税の追い風とインフレの再燃リスクに注意が必要だろう。第2次トランプ政権による大規模な法人減税や規制緩和が本格化し、企業活動や個人消費の下支えになることが期待される。一方で、2025年に導入された関税政策の影響や、不法移民排除に伴う人手不足が粘着的なインフレを招く懸念もある。景気は底堅さを保つものの、物価高が消費を抑制する「強弱入り混じる」展開が予想される。

となると、FRBは苦悩を強いられ、利下げは「慎重」になる可能性がある。FRBは、景気配慮から利下げを進める意向だが、インフレ再燃リスクからペースは年2回前後がコンセンサスとなる(図表3)。また、2026年5月のパウエルFRB議長の任期満了に伴う次期議長人事も、市場の不透明感を強める要因となりそうだ。

日本への影響としては、円安修正と金利上昇の足音が高まることになろう。というのも、米国が緩やかな利下げに向かう一方、日本は高市政権下の積極財政と「物価・賃金の好循環」を背景に、日銀が金利を1%以上に引き上げる可能性が高い。そうなれば、日米の金利差が縮小に向かうことで、長らく続いた記録的な円安傾向が修正され、輸出企業の収益や輸入物価の落ち着きに影響を与える可能性がある。

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「物価高に賃金が追いつかない」状況は解消へ

2026年の日本経済は、長らく続いた「物価高に賃金が追いつかない」状況が解消に向かい、内需主導の緩やかな回復へ転換する節目の年となる見通しである。

まずは、経済成長と実質賃金のプラス転換が期待される。具体的には、実質GDP成長率は1%弱の推移が予想される(図表4)。最大の注目点は、2026年春闘でも「5%水準」の賃上げが維持され、消費者物価指数の伸びが2%を下回ることで、実質賃金が安定的にプラスとなることである(図表5)。これにより家計の購買力が回復し、個人消費が景気をけん引する「好循環」が現実味を帯びるだろう。

また、2025年に発足した高市政権が、危機管理投資や減税を含む「責任ある積極財政」を本格化させる。この財政拡大は景気を下支えする一方、長期金利の押し上げ要因にもなる。市場は「財政規律と成長」のバランスを注視しており、国債市場の信認維持が株価や円相場の安定に不可欠となる。

一方、追加利上げと金融市場の正常化には注意が必要だ。というのも、日銀は賃金と物価の好循環を確認し、政策金利を1.0%程度まで段階的に引き上げる公算が大きい。

となれば、為替はFRBの利下げと相まって日米実質金利差が縮小し、1ドル=150円割れに向けた円安修正が進むと見られる。

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メインシナリオは緩やかな円高、リスクシナリオは再インフレと「悪い円安」

2026年のマーケットは、米国の「高金利・インフレ」の行方と、主要国間での「政策の乖離」が最大の焦点だろう。

まずメインシナリオとしては、緩やかな円安の是正を見込む。こちらは、世界経済が底堅さを保つ中、日米の実質金利差縮小が緩やかに進むシナリオである。金利については、FRBはインフレの粘着性を警戒しつつ、年2回程の利下げに留め、政策金利は3%台半ばで維持する一方、日銀は1.0%程度まで追加利上げを行い、日米の実質金利差は徐々に縮小を見込む。

となれば、為替は実質金利差縮小を背景に、ドル円は1ドル=150円割れへと円安修正が進む可能性がある。ただし、米国の景気が強ければドル買い圧力も根強く、急速な円高には至らないだろう。

続いてリスクシナリオは、再インフレと「悪い円安」である。こちらは、トランプ政権の関税や移民抑制がインフレを再燃させるシナリオとなる。

特に米国経済が「ノーランディング」となることで物価が再び上昇し、FRBが利下げ停止や再利上げを迫られる場合、米長期金利が5%を突破し、ドル円は再び160円を超える円安に振れるリスクがあろう。また、地政学・財政リスクとしては、中東や東アジアの緊張、あるいは各国の巨額の財政赤字が嫌気され、金利が急騰する事態にも警戒が必要だろう。

意識したい3つのポイント

こうした中、2026年に意識すべき点、注意すべき点として、投資環境は2025年までの「政治による激動」が落ち着きを見せる一方、金利や物価の「新常態」へ適応するステージに入ることから、以下の3点を意識することが重要。

まずは、「金利のある世界」での資産再配分である。日本では日銀の利上げにより、預金や債券の魅力が数十年ぶりに復活(図表6)。一方、米国は利下げ局面だが、インフレ再燃リスクから下げ幅は限定的との見方が有力である。このため注意点としては、過去10年の「超低金利」を前提とした投資手法はリスクが高まることから、預貯金・債券・株式のバランスの再確認が進むことになろう。

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また、為替の転換点と「時間分散」に対する意識も重要だ。というのも、日米金利差の縮小により、長年の円安基調が修正される可能性があるからである。

戦略としては、円高は外貨資産の目減り要因となるが、個人投資家であれば一度に売買せず「積立投資」を継続することで、為替変動リスクを平準化するのが賢明といえよう。

こうした中、2026年の注目指標・イベントとしては、まず春闘(3月)があろう。実質賃金がプラスに定着するか。日本経済の自律回復の試金石となる。

また、FRB議長人事(5月)にも注目だ。パウエル議長の任期満了に伴う後任人事は、米国の金融政策の継続性に大きな影響を与える。

さらに、米中間選挙(11月)も外せない。こちらは、トランプ政権の信任投票となり、政策の推進力が左右される。

永濱 利廣


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

永濱 利廣

ながはま としひろ

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析

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