もはや「一時的」ではないISM製造業の強さ

~ピークアウトしたようでしていない~

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月30,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月113程度で推移するだろう。
  • 日銀は、現在のYCCを長期にわたって維持するだろう。
  • FEDは、2022年末までに資産購入を終了、23年後半に利上げを開始するだろう。
目次

金融市場

  • 前日の米国市場はまちまち。NYダウは▲0.1%、S&P500は+0.0%、NASDAQは+0.3%で引け。VIXは16.10へと上昇。
  • 米金利カーブはブル・フラット化傾向。債券市場の予想インフレ率(10年BEI)は2.341%(+0.3bp)へと上昇。過去数ヶ月の予想インフレ率は5年、5年先5年ともに横ばい圏で推移している。
  • 為替(G10通貨)はUSDが中位程度。USD/JPYは109後半で推移。コモディティはWTI原油が68.6㌦(+0.1㌦)へと上昇。銅は9335.5㌦(▲184.5㌦)へと低下。金は1813.8㌦(▲2.0㌦)へと低下。

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経済指標

  • 8月の中国製造業PMI(IHS Markit)は49.2へと低下し、2020年5月以降で初めて50を割れた。内訳は生産(50.8→47.7)が大きめの落ち込みとなり50を割れ、新規受注(49.2→48.0)は2ヶ月連続で50割れ、雇用(50.1→49.8)も低下した。その他では購買品在庫(49.0→49.4)とサプライヤー納期(52.6→53.4)がヘッドライン押し上げに寄与。ヘッドライン構成項目外では新規輸出受注(50.3→48.0)が50を割れた。サプライチェーンの目詰まりによって受注を捌けない側面はあるにせよ、パンデミックからのリバウンドが一巡しつつあることを示唆する結果であった。既発表の国家統計局版の製造業PMIも50.1へと減速し、2020年3月以来で最も低い値であった。輸出は底堅さを保つものの、中国国内の消費と投資活動が減速基調にあり、生産活動の増勢鈍化に繋がっているとみられる。また国家統計局版の非製造業PMIは47.5へと不可解なほど落ち込んだ。変異株の猛威によりコロナ感染状況が厳しさを増すなか、ハイテク企業を中心とする規制強化の影響もあってか大幅な落ち込みとなった。コロナ感染状況次第ではあるが、9月に反発がみられないようだと、いよいよ内需に対する懸念が高まる。

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注目ポイント

  • 8月ISM製造業景況指数は59.9へと7月から0.4pt再加速。3月の64.7という異常値的水準をピークに低下基調にあったが、旺盛な財需要を背景に再び60近傍へと水準を切り上げた。半導体不足などサプライチェーンの部分的寸断は残存するものの、新規受注(64.9→66.7)が異例の高水準から一段と水準を切り上げるなか、生産(58.4→60.0)は力強い伸びが続いた。他方、雇用(52.9→49.0)は低下。企業の採用意欲は旺盛とみられるが、労働者の確保に苦戦している模様。その他ではサプライヤー納期(72.5→69.5)が4ヶ月連続で低下。この尺度見る限り供給政策の影響は徐々に緩和されている。在庫(48.9→54.2)はやや大きめの増加であった。適正水準に在庫を積み増す動きがあるとみられる。また同日発表された製造業PMI(IHS Markit、確報値)は61.1へと速報値から0.1pt下方修正も、5ヶ月連続で60超を維持した。ISM、PMIの双方とも異例の高水準が続いている。

  • ここで実際の生産(IP統計)に目を向けると、7月の製造業生産高はパンデミック発生前の水準を漸く回復したに過ぎないことに気が付く。2019年7月比では僅か+0.5%の増産に留まっている。IT関連財を中心に自動車以外の業種が堅調に推移したことで自動車を除く製造業生産は+1.0%と堅調も、自動車生産の水準が▲5.6%と低水準にあり、実際の生産はISM製造業景況指数が示すほど盛り上がっていない。通常、ISM製造業景況指数の「60」は(実際の)生産高がピークに達する頃に観察され、それは短期的な景気サイクルの頂点になることが多かったが、その点において今次局面は例外的である。ISM製造業景況指数は2020年12月に60を付けて以降、均してみれば60以上を維持しており、その間、実際の生産高は増勢を強めている。

  • 米国の個人消費、特に財需要の底堅さに鑑みると、米国内の製造業生産は底堅さを維持しそうだ。そうであれば今後、半導体不足が解消に向かい自動車の生産が復調することで、製造業全体としてみた場合の生産高は一段と増加し、息の長い回復になることも期待される。金融市場の注目度が高いISM製造業景況指数が60近傍という異例の高水準を維持する可能性もあるだろう。

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藤代 宏一


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