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風雲急を告げるドイツ選挙戦

~SPDがCDUを逆転、政権奪取が視野に~

田中 理

要旨

ドイツ連邦議会選挙まで約1ヵ月、猛烈な追い上げを見せる中道左派の社会民主党(SPD)は、逃げ切りを目指す保守系与党のキリスト教社会同盟(CDU)を支持率で逆転。このままの勢いでSPDが政権奪取に成功するか、CDUが首相候補のすげ替えなどの荒療治で党勢回復を目指すのか、選挙戦の行方から目が離せない。

約1ヵ月後に迫ったドイツ連邦議会選挙は波乱の展開となっている。第一党の座を巡る保守系与党・キリスト教民主同盟(CDU)と環境政党・緑の党との争いに割って入った中道左派の連立パートナー・社会民主党(SPD)がさらに支持を高めている。23日に発表されたINSAの調査でCDUとSPDの支持率が並び、24日に発表されたForsaの調査ではとうとうSPDがCDUを逆転した(図表1)。各調査によって多少の癖があるが、最新の世論調査の居所は、CDUとSPDが20%台前半の支持率で拮抗し、緑の党がやや遅れて17~19%で追う展開といったところだろう。

図表
図表

各党の政策論争よりも、首相候補に対する評価が最近の世論調査の変動につながっている。緑の党の首相候補のベアボック共同党首は、党助成金の申告漏れ、経歴書の誤記載、著作での盗用や引用違反疑惑が相次いで発覚し、4月に首相候補に選出された直後の旋風が逆風に変わった。CDUの首相候補のラシェット党首兼ノルトライン=ヴェストファーレン州首相は、7月下旬に被災現場で笑みをこぼす姿が報じられて以降、求心力を失ったままだ。こうしたなか、SPDの首相候補のショルツ財務相兼副首相は、その実務能力が高く評価され、SPD浮上の推進力となっている。

このままの勢いで投開票日に突入すれば、SPDが政権を奪取する可能性が高まる。その場合の連立政権の組み合わせは、中道左派のライバルである緑の党、リベラル政党の自由民主党(FDP)を合わせた「信号連立」が最有力となる(図表2)。政策軸が異なるFDPはSPD主導の連立参加に必ずしも前向きではない。CDU、緑の党、FDPの3党による「ジャマイカ連立」も同時に検討されることになろう。SPDの支持回復により、緑の党、旧東ドイツの支配政党の流れを汲む左翼党(Linke)を加えた「左派連立」でも議会の過半数に届く可能性も出てきた。

図表
図表

党勢低迷に歯止めが掛からない場合、CDUは選挙戦の立て直しを迫られる。CDU内の保守勢力やバイエルン州で活動する姉妹政党・キリスト教社会同盟(CSU)内には、ラシェット氏に代わる首相候補の擁立を求める声も浮上している。ラシェット氏に首相候補の座を譲ったCSUのゼーダー党首兼バイエルン州首相は最近、再参戦を睨んだとも受け取れる発言も行っている。このままSPDの勢いが続くか、緑の党に党勢再浮上の秘策があるのか、CDU・CSUの統一候補にゼーダー氏の参戦があるのか、選挙戦の行方から目が離せない。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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