フランス大統領選を展望する

~マクロン大統領再選の死角は?~

田中 理

要旨

来年春のフランス大統領選挙は、前回に続きマクロン大統領と極右のルペン候補の一騎打ちとなりそうだ。マクロン大統領の国家運営に批判的な有権者も多く、ルペン候補が政策主張を穏健化していることもあり、両候補の差は前回選挙時と比べて縮まっている。コロナ危機収束、有権者の極右アレルギー、共和党の大統領候補、左派候補の一本化の行方などが選挙戦を左右しよう。今のところマクロン大統領が再選する可能性が高いが、直後に行われる国民議会選挙で同氏が率いる共和国前進が過半数を獲得するのは困難とみられ、二期目の政権運営は難しさを増す。

来年4・5月に5年に一度の大統領選挙を控えるフランスでは、20日と27日の地域圏議会・首長選挙が事実上の選挙戦のスタートとみられている。その後、秋から冬にかけて各党が大統領候補を絞り込み(近年の大統領選挙で主要政党は予備選挙を通じて候補を一本化することが多い)、年明け以降は遊説やテレビ討論会などの選挙活動が本格化する。選挙は二回投票制で行われ、初回投票で50%以上の票を獲得した候補がいない場合、上位二名による決選投票で勝敗を決する。各党の候補者はまだ出揃っていないが、最近の世論調査では2017年に決選投票で争った共和国前進のマクロン大統領と国民連合(旧国民戦線)のルペン候補の2人が他候補を大きくリードする(図表1)。

図表1
図表1

このままいけば今回もマクロン・ルペンの両候補が決選投票に進出し、再び大統領の座を競うことになりそうだ。前回の決選投票では、初回投票で他候補を支持した有権者の多くがマクロン候補に流れたことで、同氏が地滑り的勝利を収めた(図表2)。極右出身の大統領誕生に対するフランス国民の根強いアレルギー反応や、ルペン候補が当時掲げていたフランスのユーロ離脱や移民排斥などの極端な主張が敬遠されたことが、勝敗を左右した。最近の世論調査はマクロン大統領の再勝利を示唆するが、前回と比べて両候補の差は僅かで、接戦が予想される(図表3)。ルペン候補がユーロ離脱やシェンゲン協定(協定批准国は出入国検査なしに自由に行き来できる)の破棄などの極端な主張を封印し、政策の穏健化を進めていることに加えて、マクロン大統領の国家運営や改革手法に対する有権者の反感が影響している。

図表2
図表2

ルペン候補の支持が固定票中心であるのに対し、前回選挙で左派の社会党・右派の共和党の二大勢力から中道票を奪って当選したマクロン大統領の支持基盤は必ずしも盤石ではない。マクロン大統領が前回選挙で旗揚げした中道政党・共和国前進は、いまだに組織基盤を固め切れず、地方選挙で苦戦が続いている。前回の大統領選挙後、社会党は党勢凋落の一途を辿り、共和党も今のところ支持が伸び悩んでいるが、今後の両党の巻き返しや左派・右派内の候補一本化で追い上げられると、マクロン大統領の決選投票進出が阻まれる恐れも出てくる。

図表3
図表3

20日(初回投票)と27日(決選投票)の18地域圏の議会・首長選挙は、来年の大統領選挙に向けた有権者の投票意識や各党の大統領候補を占ううえで注目される。今回の選挙は大統領選挙前で最後の投票機会となる。地域圏選挙は大統領選挙と選挙制度が異なり(地域圏選挙では初回投票で10%以上の支持を獲得した政党が決選投票に進出し、最多票を獲得した政党が25%のボーナス議席を獲得する)、選挙戦の争点も各地域圏固有のものが主流となる。強固な地方基盤を持つ社会党を中心とした左派勢力と共和党を中心とした右派勢力が多くの地域圏を制するとみられ、そうした選挙結果に大きな意味はない。特に地方基盤が脆弱な共和国前進は苦戦が予想され、一部の地域圏で候補者擁立を断念した。なお、共和国前進は前回2015年の地域圏選挙時に結党されていなかった。

国民連合は前回共和党が制した北部のオ=ド=フランスと南部のプロヴァンス=アルプ=コートダジュールや、前回社会党が制した南部のオクシタニーや中部のサントル=ヴァル・ド・ロワールでの善戦が予想され、これらの地域圏の幾つかを制することがあれば、来年の大統領選挙に向けて弾みがつく。国民連合(当時は国民戦線)は前回2015年のプロヴァンス=アルプ=コートダジュールとノル=パ・ド・カレ(2016年に地域圏が再編され、現在はオ=ド=フランスの一部)の地域圏選挙で、初回投票で40%超の支持を集めて首位に立ちながら、決選投票では極右首長誕生を恐れた社会党の出馬取りやめと戦略投票により共和党に敗北した(図表4)。地域圏選挙の結果は、有権者の極右アレルギーに変化があるかどうかの判断材料ともなる。

図表4
図表4

左右両勢力の選挙動向も注目される。共和党は今回の首長選挙の結果を受けて、党の大統領候補を絞り込むとしている(予備選挙を行うかどうかはまだ決まっていない)。ベルトラン現オ=ド=フランス首長、ぺクレス現イル=ド=フランス首長、ヴォキエ現オーヴェルニ=ローヌ=アルプ首長、ルタイロー現ペイ・ド・ラロワール首長などの有力候補が首長の座を守れなければ、大統領候補から脱落する。この他にも、英国とのEU離脱交渉を指揮したバルニエ氏や前首相としてマクロン大統領を支えたフィリップ氏(何れも共和党出身)の出馬の可能性も度々取り沙汰されている。本人は出馬の可能性を否定しているが、国民から高い支持を得るフィリップ前首相が共和党の大統領候補となれば、マクロン大統領にとって大きな脅威となろう。

左派勢力内では、党勢凋落が続くかつての二大政党の一角・社会党、環境政党・欧州エコロジー=緑の党、最左派政党・不服従のフランスが、今回の地域圏選挙で候補者を一本化した。大統領選挙での3党の候補者の支持率は低迷しており、何れも初回投票を突破できる見込みはない。今回の選挙協力が成功すれば、大統領選挙での候補一本化が本格的に検討される可能性が出てくる。社会党は候補者統一に前向きだが、前回の大統領選挙で善戦した不服従のフランスのメランション候補は自身が統一候補となる以外の選択肢を否定している。

最近の世論調査によれば、「健康」や「コロナ」を最優先課題と回答する国民が多い(図表5)。フランスでは年明け後に急増した新型コロナウイルスの感染者がピークアウトし、英米に比べて遅れが目立ったワクチン接種が大幅に加速している。来年の大統領選挙までにコロナ危機が収束し、国民の間で景気回復の実感が広がれば、マクロン大統領の再選を後押しすることになろう。最近の共和国前進の支持率低迷を考えれば、マクロン大統領が再選を果たした場合も、直後に行われる国民議会(下院)選挙で過半数の議席を獲得するのは難しそうだ。大統領の出身政党と議会の支配政党が異なる「コアビタシオン」となり、マクロン大統領のリーダーシップや改革推進力が弱まり、二期目の政権運営は難しさを増すことが予想される。

図表5
図表5

以上

田中 理

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 欧州・米国経済

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