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2021.05.06
日本経済
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統計でも明らかな若者のゴルフブーム
~「3密」回避の貴重な娯楽。社会保障財政へのプラス効果の可能性も~
永濱 利廣
- 要旨
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- 若者の「ゴルフブーム」が続いている。スポーツの中でも比較的「3密」を避けやすいことに加え、リモートワークの浸透などで現役世代も時間の融通が利きやすくなったこと等により、土日祝日より割安な平日を利用しやすくなっている。
- 総務省「家計調査」によれば、2020年は20-40 代の間でゴルフが人気を集めた。ゴルフが旅行等に代わる安全で魅力的な娯楽の選択肢になっている可能性がある。ゴルフは食事やカラオケ等に代わる選択肢として、デートや合コンに選ばれていることも大きな要因の一つ。
- 若者のゴルフブームは、今年さらに勢いを増す可能性がある。特に期待されているのが、松山英樹プロのマスターズ・トーナメント優勝効果。ゴルフ業界(ゴルフ用品、ゴルフ場、ゴルフ練習場)の市場規模は1992年の約2.9兆円をピークに1993年から縮小トレントにあったが、当時15歳だった石川遼選手がツアー最年少優勝を飾った2007年と、渋野日向子選手が日本勢42年ぶりのメジャー制覇となる全英オープンを優勝した2019年には市場規模がそれぞれ+230億円、+300億円拡大している。
- 近年では国内160のゴルフ場や練習場で19・20歳の利用料金を無料とする取り組み等もあり、若者市場の拡大に貢献した可能性がある。コロナの感染防止のために、間に休憩を挟まない「スループレー」や単独のプレー希望者が何人か集まって回る「一人予約」などのプレースタイルが最近目立っている。依然として女性プレーヤーの取り組みなどが課題。
- 今後もゴルフにはまる現役世代が増加し、団塊ジュニアも含めて健康な中高年が増えれば、医療費や社会保障費の抑制にもつながる。ゴルフ自体が認知症の予防につながる側面も踏まえれば、若者のゴルフブームは日本の経済や社会保障財政にプラスの効果をもたらす可能性がある。
若者のゴルフブームについて
最近の傾向では20-40代の間でゴルフが人気を集めているようだ。背景には、ゴルフはスポーツの中でも比較的「3密」を避けやすいことに加え、リモートワークの浸透などで現役世代も時間の融通が利きやすくなったこと等により、土日祝日より割安な平日を利用しやすくなっていることがある。
実際に、総務省の家計調査(2020年)を用いて世帯主の世代別に見たゴルフプレー代を比較すると、平均では前年から減少しているものの、20~40代といった若い世代に限れば、同支出が明確に増加していることが確認できる。
恐らく背景には、人生 100 年時代の高齢化社会を生き抜く中で、できるだけ長く仕事ができるように、自らの健康管理の重要性が高まっていることもあると推察される。
食事やカラオケの代替手段
ただし、健康管理という意味では、ランニングや筋トレなど他のトレーニングも考えられる。それなのに、なぜ若者の間でゴルフがブームとなっているのだろうか。
その理由の一つとしては、ゴルフが旅行等に代わる安全で魅力的な娯楽の選択肢になっているということがあろう。というのも、筋トレ等では、室内であることからなかなか「3密」を避けることは難しい。これに対して、ゴルフはスポーツの中でも比較的「3密」を避けやすい。
また、20-40代というと、デートや合コンの機会も多い世代である。そこで、ゴルフは食事やカラオケ等に代わる選択肢として、デートや合コンに選ばれていることも大きな要因の一つであろう。実際に、マッチングアプリでもゴルフを始めたとアピールする人が増えているようだ。
松山選手のマスターズ優勝がもたらす経済効果
こうした若者のゴルフブームは、今年さらに勢いを増す可能性がある。特に期待されているのが、松山英樹プロのマスターズ・トーナメント優勝効果である。
元々、ゴルフ業界(ゴルフ用品、ゴルフ場、ゴルフ練習場)の市場規模は、バブル崩壊後も拡大基調にあったが、1992年の約2.9兆円をピークに1993年から縮小トレントにある。しかし、そうした中でも、当時15歳だった石川遼選手がツアー最年少優勝を飾った2007年と、渋野日向子選手が日本勢42年ぶりのメジャー制覇となる全英オープンを優勝した2019年には市場規模がそれぞれ+230億円、+300億円拡大している。こうしたことからすれば、今年もゴルフ業界の市場規模が拡大する可能性があると言えよう。
そもそも、娯楽の選択肢が増えた若い世代の開拓はゴルフ業界共通の課題だった。しかし、近年では国内160のゴルフ場や練習場で19・20歳の利用料金を無料とする取り組みなども続けられており、これも若者市場の拡大に貢献した可能性がある。
また新型コロナウィルスの影響は、ゴルフ市場にも表れている。というのも、コロナの感染防止のために、間に休憩を挟まない「スループレー」や単独のプレー希望者が何人か集まって回る「一人予約」などのプレースタイルが最近目立っているようだ。しかし、依然として女性プレーヤーの取り組みなどが課題となっており、更衣室の改装や食事にこだわりのスイーツを提供するなど女性客の獲得を進める取り組みなども報告されている。したがって、こうした動きも若者のゴルフブームを後押しするといえるのではないだろうか。
社会保障財政へのプラス効果も?
2019年に政府から公表された5年に一度の公的年金の財政検証によれば、メインシナリオの最終的な所得代替率(=年金額/現役世代の賃金)は 50.8%と 2019 年度時点の 61.7%から約2割低下することが示された。しかし詳細を見ると、経済前提が前回より慎重化しているにもかかわらず、ここ5年間の女性や高齢者の就労増等により最終的な所得代替率は前回対比上昇しており、年金財政は改善した形となっている。
こうした中、将来の社会保障財政を考えたときに大きな山場となるのが、現在 40 代の団塊ジュニア世代が 65 歳以上の高齢者になる 2040 年代にかけてと言われている。このため、社会保障の担い手を増やすため、高齢者の就労長期化を中心とした施策を前に進めることが求められている。
従って、今後もゴルフにはまる現役世代が増加し、団塊ジュニアも含めて健康な中高年が増えていけば、医療費や社会保障費の抑制にもつながることが期待される。また、実際にウィズ・エイジングゴルフ協議会は、国立長寿医療研究センターと東京大学、杏林大学との共同研究で、ゴルフで記憶力が改善され、認知症予防に効果的であることを明らかにしている。こうした側面も踏まえれば、若者のゴルフブームは、ひいては日本の経済や社会保障財政にプラスの効果をもたらすかもしれない。
永濱 利廣
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 永濱 利廣
ながはま としひろ
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経済調査部 首席エコノミスト
担当: 内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析
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