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懸念される原油高の影響

~2012年イラン情勢並みの原油価格推移で来年の家計負担3.6万円増加~

永濱 利廣

要旨
  • 為替不変で今後の原油先物価格が、ロシアのウクライナ侵攻があった2022年平均並みで推移すると仮定すれば、27年の家計負担額は前年比+2.5万円程度になる。また同様に、イラン情勢の緊迫があった2012年平均並みで推移すれば、27年の家計負担を同+3.6万円も増加させる計算となり、家計に無視できない悪影響を及ぼす。
  • 同様に、為替不変で今後の原油先物価格が2022年平均並みで推移すると仮定すれば、26年度の経済成長率を▲0.27%pt程度押し下げる。また同様に、2012年平均並みまで上昇するとなれば、26年度の経済成長率を▲0.38%ポイントも押し下げることになり、マクロ経済的に見ても無視できない悪影響を及ぼす。
  • 足元の原油価格と過去の交易利得(損失)との関係から、同様に為替不変で今後の原油先物価格が2022年平均並みに推移すると仮定すれば、26年度は前年比▲8.9兆円程度の所得の海外流出増となる。また同様に、2012年平均並みまで上昇するとなると、26年度は▲12.5兆円まで所得の海外流出が増加することになる。この半分を家計が負担することになれば、消費税率+1.4~2.0%ポイント引き上げ程度の負担増が生じることを意味する。
  • 資源価格が上昇すれば、資源の海外依存度が高い日本経済がその悪影響を相対的に受けやすく、日本経済は構造的に苦境に立たされやすい環境にある。特にこれまでの個人消費に関しては、株の資産効果や実質賃金プラス転化の期待などにより、消費者心理は改善傾向にあった。したがって、今後の個人消費の動向を見通す上では、政府の物価高対策の効果もさることながら、原油価格高騰といった負担増がタイムラグを伴って顕在化してくることには注意が必要。
目次

はじめに

イラン情勢の緊迫化により、原油価格高騰が懸念されている。実際、週明けのWTIは1バレル=70ドル台を上回る水準で推移しており、今後の経済活動に影響が及ぶことが警戒される(図表1)。

図表
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原油価格が上昇すれば、企業の投入コストが上昇し、その一部が産出価格に転嫁されるため、変動費の増分が売上高の増分に対して大きいほど利益に対する悪影響が大きくなる。また、価格上昇が最終製品やサービスまで転嫁されれば、家計にとっても消費者物価の上昇を通じて実質購買力の低下をもたらす。そうなると、企業収益の売り上げ面へも悪影響が及び、個人消費や設備投資を通じて経済成長率にも悪影響を及ぼす可能性がある。

特に、原油高が企業活動に及ぼす影響として、ガソリン価格の上昇がある。ガソリンの全国平均価格は暫定税率廃止でこれまで落ち着いてきたが、原油価格の上昇で反応するのがガソリンや軽油、灯油の価格である。また、原油先物価格が上がれば、化石燃料から作られる電気やガス料金も輸入原油価格から3~5カ月のタイムラグを伴って値上がりする。

さらに、原油価格の上昇は船の燃料となる重油やビニールハウスの温度調節に使われる業務用ガソリンなどに影響するため、第1次産業にとっては負担増となり、場合によっては収穫された魚や野菜、果物などの値上がりにも結び付く可能性がある。

他方、世界的にガソリン価格が上がれば、その代替エネルギーとなるバイオ燃料の需要が増える。このため、バイオ燃料の原料となる穀物の値段も上がる。例えば小麦の価格が上がれば麺やパン、菓子類に影響がでるほか、大豆であれば大豆製品や調味料、トウモロコシなら家畜のえさを通じて肉や乳製品の値上がりも誘発されるだろう。

このように、原油先物価格の上昇は幅広く企業活動の負担増に結び付くことになる。そして、これから春に突入して気温が高くなる北半球では行楽シーズンでガソリン需要が増えるため、急激な原油価格の下落は想定しにくい。このため、今後の展開次第では、家計や企業は原油高に伴う負担増を強いられる可能性がある。

2012年情勢時並みで27年家計負担+3.6万円

さらに、原油高となれば、化石燃料はドル取引がメインのため、ドル需要が高まる観測が強まる一方で、日本の貿易赤字拡大観測も相まってドル高円安が誘発されやすくなる。

以下では、家計への影響を見てみよう。原油価格が上昇すると、タイムラグを伴って消費者物価へ押し上げ圧力が強まることがわかる。事実、2006 年1月以降の原油価格と消費者物価の相関関係を調べると、円建てドバイ原油価格の+1%上昇は10か月のタイムラグを伴い消費者物価を約0.015%程度押し上げる関係がある(図表2)。

図表
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そこで、より現実的な家計への影響について、今後のドル円レートを不変と仮定し、今年度後半以降の原油価格の水準を場合分けして試算すれば、今年3月以降の原油先物価格が直近1年平均の67ドル/バレル程度に落ち着けば、10か月後となる27年の消費者物価前年比への影響は不変となる。しかし、今後1年間の原油先物価格がロシアのウクライナ侵攻のあった2022年平均並みの97ドル/バレル台、もしくは核開発問題をめぐる西側諸国とイランの混乱があった2012年平均並みの109ドル/バレル程度で推移したとすれば、直近1年間の平均ドル建て原油価格は前年比でそれぞれ+45%、+64%になる(図表3)。

図表
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従って、今後のドル円レートが不変と仮定し、政府の物価高対策の影響を考慮しなければ、2027年の消費者物価をロシアのウクライナ侵攻並みで+0.08%、90ドル/バレルで+0.7%、2012年のイラン情勢並みで+0.9%程度押し上げる圧力となり、家計に負担が及ぶことになる。

そこで、具体的な家計への負担額として2025年における二人以上世帯の年平均支出額約376.8万円(総務省「家計調査」)を基にすれば、2027年の家計負担をロシアウクライナ侵攻並みで前年比+2.5万円、2012年イラン情勢並みで同+3.6万円程度増加させる計算になる。

経済成長率を押し下げる原油高

続いて、より現実的な経済全体への影響について、内閣府「短期日本経済マクロ計量モデル(2022年版)」の乗数を用いて試算すれば、為替不変の下で今月以降の原油先物価格がロシアウクライナ侵攻の起きた2022年並みで推移すれば、26年度・27年度の経済成長率をそれぞれ▲0.27%pt、▲0.09%pt程度押し下げる(図表4)。また、2012年のイラン情勢並みに推移すると仮定すれば、26年と27年の経済成長率をそれぞれ▲0.38%pt・▲0.13%pt程度も押し下げることになる。このように、原油価格の上昇はマクロ経済的に見ても、無視できない悪影響を及ぼす可能性がある。

図表
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また、原油価格と我が国の交易利得(損失)には強い相関がある。なお、交易利得(損失)とは、一国の財貨と他国の財貨との数量的交換比率である交易条件が変化することによって生じる貿易の利得もしくは損失のことであり、輸出入価格の変化によって生じる国内と海外における所得の流出入の得失を示す。

そして、この関係に基づけば、円建て原油先物価格が+1000円/バレル上がると年換算で約1.8兆円の所得の国外流出が生じることになる(図表5)。そこでこの関係から、為替不変で今月以降の原油先物価格がロシアウクライナ侵攻の起きた2022年平均並みまで上がると仮定すれば、26年度の所得流出は前年比▲8.9兆円の拡大となる。さらに、為替不変で今後の原油価格がイラン情勢の緊迫化した2012年並みで推移したと仮定すると、26年度同▲12.5兆円も所得の海外流出が拡大することになる(図表6)。仮にこのうち半分が家計にのしかかるとすれば、消費税率に換算すると+1.4~2.0%ポイント程度の民間負担増が生じることを意味する。

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個人消費は物価高対策と原油高の綱引きか

トランプ政権誕生以降、シェール増産期待等により商品市況価格がそれまでと比較して低水準で決まりやすくなってきた。加えて、OPECプラスによる協調減産の緩和も原油価格の抑制要因として作用してきた。また、中国を中心に需要の停滞が見込まれることで、世界の商品市況は安定が続いてきた。しかし今後、中東情勢の緊迫化がさらに深刻なものになれば、世界の原油需給はひっ迫する可能性もある。従って、今後も原油先物価格が高水準で推移し、中長期的に見ても高止まる可能性は否定できない。

これは、日本のように原油をはじめとした資源の多くを海外に依存する国々とって、所得が資源国へ流出しやすい環境になることを意味する。特に人口減少等により国内市場の拡大が見込みにくい我が国では、内需主導の景気回復は期待しがたく、所得の大幅な拡大も困難な状況が続く可能性が高い。従って、資源の海外依存度が高い日本経済が資源価格上昇の悪影響を相対的に受けやすく、日本経済は構造的に苦境に立たされやすい環境にあるといえよう。

特にこれまでの個人消費に関しては、株価上昇に伴う資産効果や実質賃金のプラス転化期待などにより、消費者心理は改善傾向にあった。しかし、今後の個人消費の動向を見通す上では、政府の物価高対策の効果もさることながら、原油価格の高騰といった負担増がタイムラグを伴って顕在化してくることには注意が必要であろう。

永濱 利廣


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

永濱 利廣

ながはま としひろ

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析

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