一足先に突き抜ける米国 日本は「7月末」に期待

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月30,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月113程度で推移するだろう。
  • 日銀は、現在のYCCを長期にわたって維持するだろう。
  • FEDは、2022年前半に資産購入の減額を開始するだろう。
目次

金融市場

  • 前日の米国株は上昇。NYダウは+0.7%、S&P500は+1.1%、NASDAQは+1.4%で引け。VIXは17.30へと低下。先進各国のPMIと米住宅指標が堅調な結果となり景気回復期待が膨らんだ。
  • 米金利カーブは中期ゾーンが凸。予想インフレ率(10年BEI)は2.339%(+0.7bp)へと上昇。債券市場の実質金利は▲0.783%(+1.3bp)へと上昇した。今週はFOMCとPCEデフレータ(30日)が材料視されそうだ。コアデフレータの予想中央値は前月比+0.3%、前年比+1.8%となっている。

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

  • 為替(G10通貨)はUSDが全面安。USD/JPYは108を割れ、EUR/USDは1.21近傍へと上昇。コモディティはWTI原油が62.1㌦(+0.7㌦)へと上昇し、銅も9551.5㌦(+150.5㌦)へと上昇。金は1777.0㌦(▲4.2㌦)へと低下した。景気の強さを反映する「銅」と安全資産「金」の相対価格は上昇。ビットコインは大幅に4日続落。

経済指標

  • 米3月新築住宅販売件数は前月比+20.7%、102.1万件と予想比上振れ、前月分も上方修正された。2000年代半ばの住宅バブル期以来となる100万件超えが定着しつつあり、建設業者の景況感を表すNAHB住宅市場指数は著しく良好な水準にある。

米国 新築住宅販売件数
米国 新築住宅販売件数

注目ポイント

  • 23日に発表された日本、米国、ユーロ圏の4月PMI速報値はワクチン接種の進展度合いが経済正常化の格差を説明するという、ある意味当然の結論が浮き彫りになった。PMIは何れの地域・セクターで改善傾向を維持したが、ワクチン接種で先行する米国のPMIは日本とユーロ圏を大きく突き放した。

  • 米国の総合PMIは62.2と3月の59.7から大幅に上昇。実質GDPが2桁成長を遂げるペースへと達した。製造業PMIは60.6と2007年の統計開始以来の最高を記録。サービス業PMIも63.1と2009年の統計開始以来の最高記録を更新した。製造業は自動車、IT関連財の強さが続いたとみられ、生産(55.6→57.2)、新規受注(60.7→61.6)が異例の高水準から一段と改善し、雇用(54.5→55.7)も水準を切り上げた。新規受注・在庫バランスは83.8と極めて高水準に到達。ここから判断すると、メーカーは在庫の積み増しを急いでいると思われ、当面は増産が期待される。サービス業にはワクチン接種の効果がはっきりと表れてきた。PMI調査対象に占める対面型サービス業の割合はごく僅かであるが、対面、移動、集合を伴うサービスが段階的に再開した波及効果は凄まじく、業況は鋭く改善した。

米国 PMI、米 総合PMI・GDP
米国 PMI、米 総合PMI・GDP

米国 PMI
米国 PMI
米 総合PMI・GDP
米 総合PMI・GDP

  • ユーロ圏総合PMIは53.7へと0.5pt上昇。製造業PMIが63.3と統計開始以来の最高記録を更新し、サービス業PMIも2020年8月以来の50回復となった。製造業PMIはドイツ(66.4)、フランス(59.2)がそれぞれ異例の高水準で推移、イタリア、スペインを含むその他ユーロ圏も回復したとみられる。サービス業はドイツ(50.1)、フランス(50.4)が共に50超を維持。米国対比でワクチン接種が遅れているとはいえドイツ、フランス、イタリア、スペインでは、少なくとも1回のワクチン接種を終えた人が人口比20%を超えている。今後の経済活動正常化を睨み企業行動が活発化したとみられる。

  • 日本の総合PMIは50.1とコロナパンデミック発生後で初めて50を回復。製造業PMIは53.3へと水準を切り上げた。IT関連財が好調を維持しているほか、最近は資本財(特に輸出向け)も回復力を増してきた。他方、サービス業PMIは48.3と50以下の水準で横ばい。2度目の緊急事態宣言は解除されたものの、ワクチン接種に時間がかかるとの見方が広く共有されており、経済活動正常化の期待は萎んだままの状態にある。経済活動再開を見据えた積極的な企業行動は全体として見られていない。ワクチン接種の進展が人々の将来期待を上向かせるにはもうしばらく時間がかかりそうだ。

  • なお、河野大臣は自身の公式ブログで「ファイザー社のワクチンは、連休明けから毎週約1000万回分ずつ日本に供給されます」としている。接種がどれほどのペースで進むかは未知数だが、政府は7月末までに高齢者約3600万人に対して2回のワクチンを接種するとの意欲的な方針を掲げている。米国では高齢者のワクチン接種に目途が付いた頃に経済活動正常化の動きが加速した。日本でそのターニングポイントが到来するのは、数ヶ月先の話になりそうだ。

ユーロ圏 PMI、日本 PMI
ユーロ圏 PMI、日本 PMI

ユーロ圏 PMI
ユーロ圏 PMI
日本 PMI
日本 PMI

藤代 宏一


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