「休業要請」のマクロインパクト

~大阪府と東京都のみでも+2.4万人/月の失業増。避けられない雇用調整助成金の延長~

永濱 利廣

要旨
  • 過去のGDP個人消費と消費総合指数に基づけば、休業要請があった2020年4~5月にかけての個人消費は、緊急事態宣言がなかった場合を想定すれば、▲4.5兆円程度下振れしたと試算される。また、時短要請にとどまった第2回目のマクロ的な個人消費押し下げは第1回目の1/3程度の▲1.5兆円程度だったことが推察される。
  • 大阪府と東京都で休業要請が発出された場合の消費押し下げ圧力を、第一回目の緊急事態宣言と同程度と仮定すれば、マクロの個人消費押し下げ効果は▲4,860億円/月程度、GDPの減少額は▲4,180億円/月程度、それに伴う半年後の失業者の増加規模は+2.4万人/月程度と試算される。
  • 現状では、延長された雇用調整助成金の特例措置が5月以降に縮小されることになっている。雇用環境の悪化が夏場にかけて顕在化する可能性があることからすれば、状況次第では再延長も必要になってくるだろう。
  • 日銀短観の雇用人員判断指数の過去の時系列データに基づけば、2四半期先の失業率と93.5%の割合で一致するという関係がある。この関係に基づけば、昨年10-12月期の失業率は3.9%(失業者数261万人)に上昇していることになるが、実際は3.0%(失業者数210万人)にとどまっている。
  • この理由としては、雇用調整助成金で失業を抑制していることに加えて、本当は求職活動をしたいのにコロナ感染の恐れで求職活動を断念している人が多数いることなどが推察される。したがって、景気が良くない割りに失業率が低く抑えられているからと言って、楽観視できないということが日銀短観からわかる。
目次

はじめに

新型コロナウィルスの感染拡大が続く中、休業要請ができる緊急事態宣言が大阪府や東京都にも適用される可能性が出てきた。

こうした改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく「緊急事態宣言」が発出されれば、まん延防止措置ではできなかった休業要請・命令が可能となるため、経済活動の抑制圧力が拡大することは避けられないだろう。特に、休業要請が生じた昨年4~5月にかけての緊急事態宣言により、発出時の経済が大きく悪化したことからすれば、休業要請で悪影響が拡大することは確実だろう。

「緊急事態宣言」と「まん延防止等重点措置」の違い
「緊急事態宣言」と「まん延防止等重点措置」の違い

大阪・東京の休業要請で個人消費▲4,860億円/月

過去の緊急事態宣言発出に伴う外出自粛強化により、最も悪影響を受けたのが個人消費である。そして、実際に過去のGDPにおける個人消費と消費総合指数に基づけば、2020年4~5月にかけての個人消費は、緊急事態宣言がなかった場合を想定すれば、▲4.5兆円程度下振れしたと試算される。

月次個人消費の推移
月次個人消費の推移

また、2021年1月以降の緊急事態宣言の影響は、消費総合指数が1月分までしか公表されていないため、同様の試算は不可能である。しかし、消費総合指数の前月比を見ると、一回目発出時の2020年4月が▲9.1%だったのに対し、2回目発出時の2021年1月が▲3.1%だった。こうしたことからすれば、第2回目のマクロ的な個人消費押し下げは第1回目の1/3程度の▲1.5兆円程度だったことが推察される。なお、第1回目が全国だったのに対して、第2回目が全国の個人消費の約6割を占める地域に限定されたため、発出地域に限定した影響としては、第1回目の1/3/0.6×100=56%程度だったと予想される。

これは、同じ緊急事態宣言発出でも、休業要請の影響を100%とすれば、時短要請のみの影響は56%程度にとどまることが推察される。

1回目緊急事態宣言発出地域の都道府県別家計消費割合
1回目緊急事態宣言発出地域の都道府県別家計消費割合

こうした中、大阪府は国に対して「緊急事態宣言の発出」を要請する方針と報道されており、吉村知事は、現在よりも強い措置が必要として、飲食店に加えテーマパークなどにも休業要請ができるよう国に求めるようである。また東京都でも、週内にも緊急事態宣言の要請を判断するとみられており、発令された場合、カラオケ店や遊興施設などを対象に、休業要請も含めた対策の検討を進めていると報道されている。一方、大阪府と同一歩調を強調してきた兵庫県等は、緊急事態宣言発令を要請するまでは明言せず、商業施設などへの休業要請には今のところ慎重な姿勢を見せている。

そこで、大阪府と東京都の緊急事態宣言により休業要請・命令が発出された場合の影響を試算すべく、直近2017年の県民経済計算を基に家計消費の全国に占める発出地域の割合を算出すると、大阪府7.2%+東京都14.4%=21.6%となる。

このため、休業要請に伴う大阪府と東京都の消費押し下げ圧力を第一回目の緊急事態宣言と同程度と仮定すれば、一か月あたりのマクロの個人消費押し下げ効果としては、4.5兆円/2か月*0.216=▲4,860億円(うち大阪府▲1,620億円、東京都▲3,240億円)程度になると試算される。

しかし、家計消費には輸入品も含まれていることからすれば、そのまま家計消費の減少がGDPの減少にはつながらない。事実、最新となる総務省の2015年版産業連関表によれば、民間消費が1単位増加したときに粗付加価値がどれだけ誘発されるかを示す付加価値誘発係数は約0.86となっている。そこで、この付加価値誘発係数に基づけば、GDPの減少額は▲4,180億円(うち大阪府▲1,393億円、東京都▲2,786億円)程度と計算される。

また、近年のGDPと失業者数との関係に基づけば、実質GDPが1兆円減ると2四半期後の失業者数が+5.7万人以上増える関係がある。従って、この関係に基づけば、3府県でまん防が1か月発出されれば、それに伴う半年後の失業者の増加規模は+2.4万人(うち大阪府+0.8万人、東京都+1.6万人)程度と試算される。

実質GDPと失業者数の関係
実質GDPと失業者数の関係

不可避となる雇用調整助成金の再延長

このように、大阪府と東京都のみに対して1か月程度の休業要請発出でも、緊急事態宣言に伴う雇用環境への悪影響は無視できないと言えよう。そこで気になるのが補償問題である。現時点で打ち出されている支援としては、雇用調整助成金の特例措置が5月以降に縮小されることになっている。しかし、雇用環境の悪化はGDPの悪化に2四半期遅れて顕在化する傾向があることからすれば、状況次第では再延長も必要になってくるだろう。

また、実際の失業率に2四半期先行して連動する日銀短観の雇用人員判断指数が、コロナショック以降は実際の失業率より大きく悪化していることには注意が必要だろう。

というのも、現基準の日銀短観の雇用人員判断指数(全規模全産業)は2003年12月調査までさかのぼれるが、過去の時系列データに基づけば、2四半期先の失業率との決定係数が0.935となっている。これは、雇用人員判断指数によって93.5%の確率で2四半期後の失業率を予測できるという関係を意味する。

しかし、この関係に基づけば、昨年10-12月期の失業率は3.9%(失業者数261万人)程度になるはずだが、実際は3.0%(失業者数210万人)となっている。このため、日本はコロナショックにより失業率の上昇が海外対比で抑制されていると言われるが、少なくとも企業の雇用人員判断の側面から見れば、実際の雇用環境は表面上の失業率より+0.9ポイント(失業者数+51万人)ほど悪化していることを意味する。

この理由としては、雇用調整助成金で失業を抑制していることに加えて、本当は求職活動したいのにコロナ感染の恐れで求職活動を断念している人が多数存在することなどが推察される。したがって、景気が良くない割りに失業率が低く抑えられているからと言って、楽観視できないということも日銀短観からも明らかである。 以上の分析に基づけば、仮にまん延防止の時期や期間をさらに拡大するようであれば、政府には予備費を有効に活用した柔軟で迅速な政策対応が求められるといえよう。

雇用人員判断と乖離する失業率
雇用人員判断と乖離する失業率

永濱 利廣

永濱 利廣

ながはま としひろ

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 内外経済長期予測、経済統計、マクロ経済の実証分析

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