選択的週休3日制の論点整理

~誰のため・何のための制度なのか?~

星野 卓也

要旨
  • 政府の経済財政諮問会議において、選択式週休3日制が取り上げられた。今年の骨太方針に盛り込まれる見込みで、政府は今後企業に導入を促していくことが予想される。

  • 現在取られている週休3日制は①休日を増やして労働時間を減らすが給与は変えない、②休日を増やして労働時間を減らし給与も減らす、③休日を増やすがほかの日の労働時間を増やして給与は変えない、の3パターンに大別される。これらは同じ週休3日制でも異なるものであり、ニーズのマッチする従業員層も異なっている。

  • 周辺制度のメンテナンスは求められてくるだろう。例えば、認可保育園の点数算定基準は多くの自治体において労働時間や労働日数に基づいたものとなっており、休日を増やすと点数が下がってしまい、子どもを保育園に入れられなくなる、といったことが想定される。

  • 週休3日制は手段であって目的ではない。有給休暇や既存の休暇制度を活用することなども重要。政府は週休3日制導入企業数をKPIにするといった運用は避けたほうが良いだろう。

  • 政府は社会人の学び直し推進を目指すものとして週休3日制を掲げているが、学び直しが広がらない理由は時間だけではないだろう。学び直しが、企業内での人事評価や仕事の成果に直結しない、といった課題のほうがより重いと考えられる。「給与維持型の週休3日制+副業推進」は、学びを自らの生産性改善や可処分時間、所得の増加に直結させることができる組み合わせだ。「学ぶ→豊かになる→さらに学ぶ」といった好サイクルを生みだす可能性を秘めている。今後の議論の展開に注目したい。

目次

選択式週休3日制導入議論が持ち上がる

14日の経済財政諮問会議では、議事として「人材への投資(ヒューマン・ニューディール)」が挙げられた。会議資料をみると、成長性の高い分野への人材の円滑な移動、を実現するうえで、社会人の学びなおし(リカレント教育)の重要性が述べられている。その中の施策の一つとして、働きながら学べる環境を整備する観点から、「選択的週休3日制の導入」が例示された。夏にまとめられる骨太方針にも反映する見込みだと報じられている。

現行法制でも選択的週休3日制は可能

「選択的週休3日制」は従業員が週の勤務日数を1日減らし、週休3日にすることを選択できる仕組み、が想定されている。厚生労働省の「就労条件総合調査」(2020年)によれば、休みが「完全週休2日より多い」制度を取っている企業は調査企業の8.3%だ。少数派ではあるが、すでに週休2日より休日日数を多くとっている企業もある。

現在取られている週休3日制は、大きく3つのタイプに分けられる。第一に、1日休日を増やし週の労働時間も減らす一方で、給与などの待遇面は維持するタイプである。給与を変えないので、基本的には従業員が生産性を上げることによって、週4日の労働時間で従来通り(週5日分)のアウトプットを出すことが想定されている。第二のタイプは、休日を1日増やし労働時間も減らし、それに応じて給与も減らすタイプである。労働時間が減った分、給与を80%(週4日/週5日)にする、といった具合だ。第三に、休日を1日増やす一方で、労働時間は変えないパターンだ。例えば、8時間×5日=40時間のところを10時間×4日=40時間として、休日を1日増やす代わりに別日の労働時間を増やしてトータルの労働時間は変えない。
 すでに導入している企業があることからもわかるように、現行法制は週休3日にすることを否定しているわけではない。労働基準法では、使用者側が従業員に「毎週少なくとも1回の休日、または4週間を通じて4回の休日」を与えるよう、休日日数の最低ラインを義務化しているだけである。1日あたりの所定内労働時間については8時間を限度とする旨が定められているが、これは同法における「変形労働時間制度」という仕組みを用いれば、10時間×週4日といったように合計労働時間を変えずに休日数を変えることはできる。
 したがって、今回議論の対象となっている「選択的週休3日制」は、政府が法規制を変えて企業が週休3日制をとれるようにする、という話ではない。基本的には政府側が企業側に導入を促すよう働きかけていくような形になることが想定される。最終的に導入するかどうかの判断は企業次第、ということだ。

資料2
資料2

同じ週休3日制でも、そのインプリケーションは3つのパターンで異なる

この3つのパターンの週休3日制について、従業員側の目線で、労働時間、仕事量、給与、仕事の生産性、可処分時間がどうなるのかを簡単にまとめたものが資料3である。同じ週休3日制でも、パターンによってそれぞれへの影響は異なってくる。

資料3
資料3

パターンごとに従業員側への影響が異なっているので、制度導入がメリットになる人のタイプも異なってくる。資料3では、週休3日制を希望する人を3タイプ想定し、週休3日制のタイプが希望に沿うのかを考えてみた。第一に想定したのは、育児・介護・リカレント教育など「別のことに時間を充てたい人」だ。この人たちは労働時間を減らす=可処分時間を増やすことを希望しているので、①労働時間減&給与維持、②労働時間減&給与減であればニーズが満たせる。しかし、③の別日の労働時間延長では可処分時間が変わらず、ニーズには沿わない人が多そうだ1 。第二に、高齢者など仕事のペースを落として無理なく働きたい人だ。この人たちは、仕事の量を減らしたいと思っているので、労働時間と仕事量を減らす②の給与減額型が希望に合う。第三に、空いた時間の副業などで所得を増やしたい人だ。この人たちは副業の時間を作りつつ所得を増やしたいと考えているので、①の給与維持が最もマッチする。所得を増やしたい人からすれば、本業の収入が減ってしまう②の給与減額型はニーズに沿ったものではないだろう(労働1日分を上回る副業収入を得られるなら、検討対象には挙がるかもしれない)。このように、週休3日制への従業員側のニーズは幾通りかあると考えられるが、それぞれのニーズが満たせるかどうかはどのパターンの週休3日制とするのか、によって異なってくる。
 それぞれが政策としてどのような意味合いを持つのか、という視点で考えてみると、①の給与維持型は、仕事さえ終えれば1日休んでもOKという制度なので、従業員自身に自発的な業務の生産性改善を促す効果が期待できる。さらに副業促進との組み合わせで、家計の所得増を促す政策にもなる。一方で、警備や医療機関の当直など、時間を割くことそのものが付加価値を生むタイプの仕事の場合には、1日少ない労働時間で同等の付加価値を生むということ自体が難しいという側面もある。①の給与維持型は経済全体の生産性向上の施策となりうるものだが、それに適した職種がある程度限定される点には留意する必要があるだろう。
 ②の給与減額型はワークシェアリング・ワークライフバランスの確保の性格が強い。現行制度でも育児を行う従業員の時短制度があるが、これに近い性格のものといえよう 2
 ③の別日の労働時間延長は、総労働時間・可処分時間・仕事量は変わらない。とはいえ、1日まとまった時間が取れるようになる、といったことが生活・副業等のメリットになるケースもあると考えられ、家計のワークライフバランスや所得増加に無意味というわけではないだろう。

資料4
資料4

週休3日にしたら保育園に入れない?

従業員側が週休3日にすることで、ほかに困ることはないか。ひとつ思い当たるのは、週5日のフルタイム勤務でなくなることで、共働き夫婦が子どもを認可保育園に入園させることが難しくなることである。多くの自治体では保育園の入園の際に点数制を採用しており、点数の高い子どもを優先的に入園させる仕組みとなっている。点数計算の主な基準は両親の労働時間や労働日数だ。両親がフルタイム×週5日以上勤務の場合が最も点数が高くなり、労働日数が減れば点数が下がることになるケースが多い。育児のために週休3日にしたために保育園に入れなくなってしまった、という事態が現行制度のままでは生じうる。制度のメンテナンスが必要になるだろう。
 なお、フルタイム労働者が週休3日にする、という範囲であれば、加入する社会保障制度等には大きな影響は生じないと考えられる。雇用されている人の加入する雇用保険や健康保険などは、加入要件として週当たりの労働時間の下限が定められている。加入可否のラインは制度によって「週20時間」や「週30時間」と設定されているが、「日当たり8時間勤務のフルタイム労働者が週休を2日から3日に増やす」のであれば、それによって社会保障の適用範囲から外れる、といった事態は起こらない(8時間×4日=32時間であれば週30時間を上回るので加入要件は満たしているということ)。ただし、パートタイムで週休2日で働いている人は、1日休みを増やすことで週20・週30時間を下回り、加入要件を外れるといったことが起こりうる。

週休3日制は目的ではなく手段。「給与維持型+副業」による好サイクルに期待

先にみたように、週休3日制はそのパターンによって、ニーズにマッチする従業員層が異なってくる。政府は今後企業に対して導入を促していくと考えられるが、制度導入の目的をクリアにすることが、企業にとって重要なポイントだろう。週休3日制の目的を何に据えるのかによって、あるべき制度の形は変わってくるはずである。また、資料1にみるように完全週休2日制をとれていない企業もまだ相応にあるほか、有給休暇や既存の休暇制度の取得を促すといった施策が求められる企業も少なくはないだろう。週休3日制は手段であって目的ではない。少なくとも政府が「週休3日を導入した企業の数や割合」をKPI(評価指標)にする、といった運用は避けたほうが良い。
 現状、政府は週休3日制導入の意義として、「社会人の学び直し(リカレント教育)」を前面に押し出しているように映る。総務省の「社会生活基本調査(2016年)」によれば、有業者(仕事のある人)が学習・自己啓発・訓練に充てた時間は1日平均6分に過ぎないという。時間がないことは学習しない一つの要因ではあろうが、原因はそれだけではないだろう。学び直しをしても仕事に生かす機会がなく、その結果として待遇改善にも直結しないなど、企業の人事制度などをはじめとした周辺環境における課題がより大きいように思う。単に週休3日制にするだけでは、社会人の学び直しを促す効果は薄いだろう。
 その意味で筆者は、今後の週休3日制の議論展開として「週休3日制(給与維持型)+副業容認」の組み合わせに期待を寄せている。副業は家計の収入拡大の手段であると同時に、学んだスキルを活かす場としての役割もある。「学ぶ→業務の生産性を上げる→週休3日にする→学ぶ→空いた時間で副業をする→稼ぐ→さらに学ぶ→さらに稼ぐ」といった具合で、学び直しが可処分時間の増加や副業による所得増を通じて、自らの暮らしを豊かにし、それが更に学ぶモチベーションになるという好サイクルを生み出すのが理想の姿である。度々指摘される「社会人の学び直しが企業での人事評定や自身の待遇、暮らしの改善に直結しない」といった課題を、「週休3日(給与維持)+副業」は打破することができる可能性を秘めている。今後の議論の展開に注目していきたい。


1 1日まとまった時間が取れることにはなるので、その点がメリットになる人はいるだろう。

2 育児のために1日あたりの労働時間を短くするもの、労働時間比例で給与が減額するケースが多い

以上

星野 卓也

星野 卓也

ほしの たくや

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 日本経済、財政、社会保障、労働諸制度の分析、予測

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