前年の裏要因が強い時間帯

~緩和縮小懸念を惹起してもおかしくない~

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月30,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月113程度で推移するだろう。
  • 日銀は、現在のYCCを長期にわたって維持するだろう。
  • FEDは、2022年前半に資産購入の減額を開始するだろう。
目次

金融市場

  • 前日の米国株は上昇。NYダウは+0.2%、S&P500は+0.4%、NASDAQは+1.0%で引け。VIXは16.7へと低下しコロナパンデミック発生後の最低を更新。20を下回るのは8営業日連続。社債市場はIG債(投資適格)、HY債(投機的格付)が共に概ね横ばい。
  • 米金利カーブは10年ゾーンまでベア・スティープ化。予想インフレ率(10年BEI)は2.325%(+0.9bp)へと上昇し、債券市場の実質金利は▲0.669%(+2.8bp)へと上昇。本日12日は3年債、7年債入札を控えている。
  • 為替(G10通貨)はUSD高傾向。USD/JPYは109半ばへと小幅上昇、EUR/USDは1.19近傍で一進一退。コモディティはWTI原油が59.3㌦(▲0.3㌦)へと低下し、銅も8926.5㌦(▲81.5㌦)へと低下。金は1743.3㌦(▲13.5㌦)へと低下。景気の強さを反映する「銅」と安全資産「金」の相対価格は低下。ビットコインは上昇。

経済指標

  • 米3月PPI(卸売物価指数)は前年比+4.2%へと上昇加速。前月比+1.0%と伸びが加速するなか、前年比伸び率は前年の裏要因によって加速が誇張された。コンテナ不足が象徴するように旺盛な財需要が存在する下、経済活動再開によってサービスセクターのインフレ圧力も強まってきたところにベースエフェクトが重なった形。

注目ポイント

  • 13日(火)発表の3月米CPIは金融市場の注目を集めそうだ。総合CPIは前月比+0.5%、前年比+2.5%へと上昇加速が予想されている。エネルギー価格が上昇基調を強めるなか、耐久消費財を中心に財価格の上昇持続が予想される。前年比伸び率は20年3月に落ち込んだ“裏”によって大幅に加速する見込み。コアCPIは前月比+0.2%、前年比+1.5%と比較的緩やかな上昇に留まるものの、前年の裏要因が強く発現する4月には2%近傍へと伸びを高めると予想される。
  • パウエル議長をはじめFED高官は、2021年前半に観察されるであろうインフレ率上昇について、それをテクニカルかつ一時的現象と見做し、大きく取り扱わない姿勢を明確にしている。過去数ヶ月の企業サーベイで観察されているコスト上昇、或いは今後CPIやPCE価格指数といったFEDの重点監視指標で表面化するであろうインフレ圧力は、ペントアップデマンド発現に伴う一時的事象と見做す構えだ。
  • 現実の物価上昇に金融市場がどういった反応を示すかは正直なところよくわからない。もっとも、やや長い目で見た場合、物価上昇の持続性を高めるような環境が整ってくれば、金融市場の利上げ織り込み度合いは高まってくると想定される。そうした観点から、現時点における経済活動と物価の「水準」を認識しておくことは重要だろう。
  • 「物価上昇の持続性を高めるような環境」とは、換言すれば需給ギャップの安定的拡大(需要超過)であるから、最も重要な要素は経済活動の「水準」である。その点、現時点では労働市場に大きなスラックが残存し、業況回復の著しい製造業においては生産能力に余力が残されている。人口対比の就業者数である就業率はパンデミック発生前を大幅に下回っており、設備稼働率は2020年1月の水準に届いていない。
  • 現在観察されている物価上昇圧力は確かに目を見張るペースである。一部ではインフレ懸念とも表現されているが、これらの多くは前月比に焦点を当てた尺度であることに注意が必要だろう。ISMやPMIで示されたインフレ項目の上昇は、前月との比較感を示すものであるから、たとえそれが瞬間風速で2%を大きく超えるペースを示唆したとしても、本質的なインフレ加速とは区別する必要がある。実際、コロナがなかった場合の仮想CPIと現実のCPIの水準は大きく乖離している。最近の物価上昇は、飽くまで2020年の埋め合わせであるから、平時のそれと単純比較することは適当ではない。
  • FEDは、少なくとも2021年は、アベレージ・インフレ・ターゲッティング戦略に忠実な姿勢を固持し、インフレ率上昇を大きく取り扱わないだろう。ただし、金融市場参加者が現実の物価上昇にどう反応するかは不透明。向こう数ヶ月、見た目のインフレ率加速がFEDの緩和縮小懸念を惹起する展開には注意が必要だろう。

藤代 宏一


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。