“投資詐欺広告”
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テーマ:3月短観から見た21年度業績見通し

~石油・石炭、繊維、自動車が大幅増益計画。円高気味の想定レートにも注目~

永濱 利廣

要旨
  • 3月短観における今期の収益計画によれば、売上高の半期ごとの伸び率は21年度下期に鈍化だが、経常利益については21年度下期にかけて増益幅を拡大する。情報関連財を中心に出荷在庫バランスが大幅プラスとなっており、循環的な景気回復への期待が高まっていることが、収益計画の下支え要因となっていることが推察される。

  • 売上高が最大の上方修正となったのが、20年度に大幅減収となった「対個人サービス」であり、それに続くのが「宿泊・飲食サービス」とサービス関連業種が目立つ。ワクチン普及に伴う経済正常化の恩恵が期待されるサービス関連に加えて、新型コロナをきっかけとした世界のデジタル化による半導体不足の恩恵を受ける「生産用機械」の大幅増収も期待される。

  • 経常利益計画から業績の大幅増益が期待される業種を見ると、原油価格上昇の恩恵を受ける可能性がある「石油・石炭製品」、ワクチン普及などに伴う経済正常化の恩恵を受けそうな「繊維」、米中を中心とした需要回復の恩恵を受けやすい「自動車」と続く。「鉱業・採石業・砂利採取業」が金属市況の回復などにより、昨年度の経常赤字から経常黒字計画に転じていることにも注目。

  • 大企業製造業の想定為替レートは、2021年度にドル円で105.7円/㌦、ユーロ円で122.6円/㌦だが、足元のドル円レートは110円前後。中でも円高方向に今期の為替レートを想定しているのが、むしろ円高が恩恵とはなりにくい「運輸・郵便」「宿泊・飲食サービス」と続くが、「生産用機械」をはじめとした輸出関連業種も足元より円高気味の想定。

  • 今後、コロナ感染状況やワクチンの普及動向、世界各国の政治情勢などによりリスクオフになり、各国中銀が金融緩和にさらに前向きな姿勢を示すなどして為替レートの水準が更に円高方向に進まなければ、こうした今期の為替レートを円高方向に想定している業種に属する企業を中心に今期業績が修正される可能性があることにも注目。

目次

減収減益から増収増益に

4月1~2日にかけて公表された3月短観の大企業調査は、2月25日~3月31日にかけて資本金10億円以上の大企業約1900社に対して行った調査であり、先月公表された法人企業景気予測調査に続いて、今期業績予想の先行指標として注目される。

そこで本稿では、同調査を用いて、4月下旬から本格化する四半期決算発表で今年度計画の回復が見込まれる業種を予想してみたい。

資料1は、3月短観の調査対象大企業(全産業、除く金融)が計画する半期別売上高・経常利益前年比の推移を見たものである。まず売上高を見ると、21年度は下期にかけてプラス幅が縮小するものの、上期・下期とも増収計画となっている。

また、経常利益は21年度上期で増益計画に転じており、20年度下期も前回から上方修正となっている。さらに、21年度下期に関しては前年比でさらにプラス幅が拡大する見込みになっている。このことから、企業は業績の底を昨年度と見ており、今年度は持ち直すと予想している。

つまり、産業全体で見れば、売上高の半期ごとの伸び率は21年度下期に前年比で縮小するものの、経常利益については21年度下期に増益幅拡大を計画する姿となっている。特に、昨年度後半以降は電子部品デバイスのみならず、鉱工業全体の出荷在庫バランス(出荷前年比―在庫前年比)がプラスに転じており、景気循環的に明確に上向きになっていることも、それなりに堅調な収益計画の後ろ盾になっている可能性がある。

大幅増収計画の「対個人サービス」「宿泊・飲食サービス」「生産用機械」

続いて、3月短観の売上高計画を基に、大幅増収が見込まれる業種を選定してみたい。資料3は20・21年度の業種別売上高計画の前年比をまとめたものである。

結果を見ると、21年度は「運輸・郵便」「鉱業・採石業・砂利採取業」を除く全ての業種で増収計画となる中で、最大の増収率となっているのが非製造業の「対個人サービス」で+18.3%である。それに続くのが「宿泊・飲食サービス」の同+8.9%、製造業の「生産用機械」で同+6.8%である。

したがってサービス関連産業では、今期は新型コロナに対するワクチンの普及などが進み、移動や接触を伴う経済活動が正常化に向かうことが想定されている可能性が推察される。また、生産用機械では海外経済の回復やコロナに伴うデジタル化加速などによる世界的な半導体不足などにより、半導体製造装置などの生産用機械の需要が拡大していることが推察される。従って、21年度の業績見通しにおいては、こうした業種に関連する企業について売上高計画が注目されよう。

大幅増益計画は「石油・石炭製品」「繊維」「自動車」

続いて、3月短観の経常利益計画から大幅増益が期待される業種を見通してみよう(資料4)。結果を見ると、増益率が最も大きいのは原油価格反転に伴うマージン改善や在庫評価益の拡大が予想される「石油・石炭製品」の+21.6%、新型コロナに対するワクチン普及による経済正常化を期待する「繊維」の+14.5%となる。それに続くのが、米中の自動車需要回復の恩恵を大きく受けた可能性がある「自動車」の+11.1%となる。なお、「石油・石炭製品」については、原油価格の水準が引きあがった影響が大きいことが推察されるが、移動や接触を伴う経済活動正常化により、各種製品の需要回復も見込んでいる可能性がある。

このように、今期の経常利益見通しでは、大幅増益が期待される業種として、新型コロナに対するワクチン普及による経済正常化期待の恩恵を受けた石油・石炭製品や繊維に加えて、自動車をはじめとした米中需要回復の恩恵を受けた加工組立製造関連が期待される。

なお、金属市況の回復に加えて、各種製品の需要回復を見込んでいることが予想される「鉱業・採石業・砂利採取業」が20年度の赤字から21年度は黒字計画となっていることにも注目だろう。

為替レートの変動で業績が修正される可能性も

なお、3月短観の収益計画では、企業の想定為替レートも公表されることから、業種別の想定為替レートも今後の業績見通しの修正の可能性を読み解く手がかりとして注目したい。

資料5にて実際に今年度の想定為替レートを確認すると、大企業製造業における事業計画の前提となる想定為替レートはドル円で105.7円/㌦、ユーロ円で122.6円/㌦となっている。しかし、足元のドル円レートは110円台である。

中でも、製造業で足元のドル円レートよりも特に円高で今期の為替レートを想定しているのが「鉄鋼」の104.7円/㌦、「生産用機械」の104.8円/㌦、「非鉄金属」「運輸・郵便」「宿泊・飲食サービス」の105.0円/㌦となっている。

ただ、「運輸・郵便」や「宿泊・飲食サービス」などの内需関連産業は円高でむしろ恩恵を受ける企業も含まれており、逆に輸出関連の製造業が105円/㌦台と円高気味の想定をしていることに注目すべきだろう。

以上の結果を踏まえれば、今後はコロナの感染状況やワクチンの動向、更には各国の政治動向などに伴うリスクオフを通じて、各国中銀が更なる金融緩和に前向きな姿勢を示すなどして為替レートの水準が更に円高方向に進みさえしなければ、こうした今期の為替レートを円高方向に想定している業種に属する企業を中心に今期業績が修正される可能性があることにも注目すべきだろう。

永濱 利廣


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

永濱 利廣

ながはま としひろ

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析

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