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人口減少下の観光による地域活性化

~ジャパン・ツーリズム・アワードから見た地域振興の視点~

今泉 典彦

要旨
  • 公益社団法人日本観光振興協会、一般社団法人日本旅行業協会(JATA)、日本政府観光局(JNTO)は、「ツーリズム・EXPO・ジャパン2023大阪・関西」を2023年10月26日(木)から29日(日)までインテックス大阪で開催した。
  • この「ツーリズム・EXPO・ジャパン2023大阪・関西」のなかで、「ジャパン・ツーリズム・アワード」という顕彰事業が実施されている。これは、ツーリズムの発展・拡大に貢献した、国内・海外の組織・企業・団体・個人の持続可能で優れた取組を表彰するもので、今回で7回目を数える。
  • 本稿では、国土交通大臣賞として、沿線まるごと株式会社~「過疎高齢地域での『沿線まるごとホテル』プロジェクト」~、観光庁長官賞(1)として、株式会社コラレアルチザンジャパン~「『観光客と職人の新たな付き合い方』による伝統工芸の再興」~、同賞(2)として、株式会社かまいしDMC~「震災復興とゼロからの持続可能な観光地域づくりの実践」―まち全体を屋根のない博物館にー~、同賞(3)として、株式会社トラベリエンス~「世界中の旅行者と世界中のツアーガイドをマッチングする観光ツアーマーケットプレイス「GoWithGuide.com」~を紹介する。
  • 第7回ジャパン・ツーリズム・アワードの最大の特徴は、人口減少や地域産業の衰退、震災の影響下、地域コンテンツを面として地域全体を1つのホテルや博物館等に見立てて、地域が一体となって、地域おこし・活性化に取り組み、地域の持続可能性を追求している事例が多かったことである。
  • このように、地域コンテンツを観光資源として、まち全体を活性化し、地域の持続可能性を高めることも人口減少を少しでも食い止める基盤整備のひとつであると言えよう。
目次

1.はじめに ~ツーリズム・EXPO・ジャパン2023について

公益社団法人日本観光振興協会、一般社団法人日本旅行業協会(JATA)、日本政府観光局(JNTO)は、「ツーリズム・EXPO・ジャパン2023大阪・関西」を2023年10月26日(木)から29日(日)までインテックス大阪で開催した。今回で9回目となった2023年は「未来に出会える旅の祭典」がメインテーマである。2025年大阪・関西万博に向けて活気づく大阪で、世界70か国・地域から1275の企業・団体が出展し、会期中の来場者は148,062人に上った。内外の観光業界関係者が一同に参加して、観光大臣会合などのフォーラムや各種セミナー、1275の企業・団体による展示会ブース、セラー1037名、バイヤー529名による商談会、ウェルカムレセプションなどの各種交流事業から成り立っている年1回の一大イベントである。

2.ジャパン・ツーリズム・アワード(顕彰事業)とは 

この「ツーリズム・EXPO・ジャパン2023大阪・関西」のなかで、「ジャパン・ツーリズム・アワード」という顕彰事業が実施されている。これは、ツーリズムの発展・拡大に貢献した、国内・海外の組織・企業・団体・個人の持続可能で優れた取組を表彰するもので、今回で7回目を数える。今回から国土交通省観光庁が毎年実施する「観光庁長官表彰」と統合した。官民が連携して取り組むことにより、より広い視点から優れた取組を表彰し、広く社会に知らしめることでツーリズムへの理解を進めると同時に、この取組をモデルとしてさらなるツーリズムの発展に寄与することを目的としている。

審査にあたっては、観光産業関係者のみならず様々な分野の有識者の視点を取り入れるため、本保芳明審査委員長(国連世界観光機関(UNWTO)駐日事務所代表)のもと、日本を代表する組織や団体、学識者、企業に審査に参加いただき、各取組の「革新性」「事業性」「持続可能な観光への貢献」「地域活性化への貢献」を審査ポイントとして活発な議論が行われた。筆者も第1次審査の取りまとめ責任者として携わった。本稿では、各賞に選ばれた取組のうちから、国土交通大臣賞の取組1件、観光庁長官賞3件の合計4件について、内容を紹介し、評価すべき点を論じる。なお、以下の事例紹介は応募団体の表現をそのまま活かしている点、ご留意いただきたい。

3.国土交通大臣賞の事例:

沿線まるごと株式会社

過疎高齢地域での「沿線まるごとホテル」プロジェクト

(取組の目的)

過疎高齢化により人口・交通・流通・経済が衰退していく沿線地域において、点在し眠っていた地域コンテンツを線路で線にして繋げ、まるごとホテルとして面として観光ブランディングしていくことで、東京から新たな地方創生モデルをつくり、交通等のインフラ維持を図っていくことを目的にしている。ふるさとを守り、第2のふるさととなる体験の宿泊ツーリズムを構築することで、イベント等で1万人が1回来て終わりでなく、同じ1万人でも100人が100回来訪してもらう沿線集落を目指していく。人口減少と乗車減少が続くJR青梅線からこの「沿線まるごとホテル」を開始していき、同様の過疎高齢化沿線にも展開を目指していく。(取組場所:JR青梅線)

資料1 沿線まるごとプロジェクトの特徴
資料1 沿線まるごとプロジェクトの特徴

(取組の特色・独自性)(資料1)

無人駅はホテルのフロントに、空き家はホテルの客室に、住民はホテルのキャストに、畦道はホテルの廊下に・・・と地域課題を顧客価値へ変換し、沿線地域をまるごと一つのホテルに見立てて地域全体でおもてなしをする。各駅・各集落・ヒトそれぞれの物語を体感でき、集落の一員になる「秘境ふるさとツーリズム」を提供することである。「沿線まるごとホテル」の基本構造は(資料2)のとおり。

資料2 「沿線まるごとホテル」の基本構造
資料2 「沿線まるごとホテル」の基本構造

本プロジェクトは、2021年度にSTEP1としてJR青梅線沿線での実証試験を開始し、会社を設立したもので、2024年度よりSTEP2として青梅線の多駅展開を本格実施。2026年度よりSTEP3として第2弾の他沿線での展開を行なう計画で、2040年度までに全国30の沿線での展開を目標としている。

持続可能な観光への取り組みとしては、一過性のイベント的なものではなく、ヒト起点でその土地の暮らしや知られざる歴史・文化・資源を堪能するツーリズムを住民参加型(地元高齢者住民・自治体団体・事業者等々)で構築していくことにより、段々と村人の1人になっていく中長期的な視点で観光地域づくりを行っていくとしている。

(選考のポイントと評価)

駅とその周辺に点在する地域資源を編集し、地域全体を1つのホテルに見立てた世界観が素晴らしく、無人駅をホテルのフロントに、空き家をホテルの客室に、地域住民をホテルキャストに見立てるなど、地域課題を顧客価値へと転換し魅力につなげている点を高く評価するものである。JR青梅線でのツーリズムモデルを他線に展開し、全国の過疎地域の鉄道路線維持のひとつの方策としても期待したい。過疎地域における地域活性化への貢献が最大の評価ポイントと考えられる。

4.観光庁長官賞の受賞事例

(1)株式会社コラレアルチザンジャパン

「観光客と職人の新たな付き合い方」による伝統工芸の再興

(取組の目的)

日本の伝統工芸品の売上は1975年をピークに下降の一途を辿り、最盛期の5分の1までになり従事者も3分の1に減少している。そのような状況を観光の力で再興を図れないか、テクノロジー技術が進んだ現代だからこそ、観光客と職人の新たな付き合い方を生みだせないかとの想いから、宿泊しながら職人とものづくりの悦びを体感できる分散型ホテル「職人に弟子入りできる宿・Bed and Craft」は木彫刻の町として有名な富山県南砺市井波で始まった(資料3)。またBed and Craftは地域の空き家を地域資源として捉え、1棟貸しホテルとしてリノベーションを行い、古い建物を利活用することにより地元の職人の技術継承にも寄与している。

(特色・独自性)

富山県南砺市井波は井波彫刻と呼ばれる伝統工芸が盛んで、今でも200名近い木彫り職人がいる。Bed and Craftはそのような町に点在している工房で手ほどきが受けられ、まるで職人に弟子入りしたかのような日常を体感することが出来る。それは職人達にとっても今までにない出会いを生み、新たな創作への意識改革にも繋がっている。また、マイギャラリー制度という各棟を職人のギャラリーと見立てて体感できる宿として提供している。

資料3 職人に弟子入りできる宿・Bed and Craft
資料3 職人に弟子入りできる宿・Bed and Craft

コラレアルチザンジャパンでは、地域の稼ぎを増やす為に「地域付加価値」と呼ばれる、地域にどれだけ利潤をもたらしているかという独自の基準を採用し、まち全体をホテルとしてとらえ、地域の寺社仏閣をはじめ、職人工房や飲食店等の観光関連施設と連携することにより「宿ではなく、町全体が儲かる仕組み」を構築している。また、地域住民の「おもてなし」を改革する為には、まち自体が良くならなければいけないとの想いから、まちづくり団体「一般社団法人ジソウラボ」を設立した。

(選考のポイントと評価)

宿泊しながら職人とのものづくりの悦びを体験できる分散型ホテルをスタートさせ、空き家を1棟貸しホテルとしてリノベーションし、職人に弟子入りしたかのような日常を体験できる。独自の基準である「地域付加価値」を採用し、町全体をホテルとしてとらえ、町全体が儲かる仕組みを構築している。職人を生かした多角的な観光まちづくりの画期的なモデルであり、空き家の解消や伝統工芸の担い手獲得への期待など、多様な経済社会効果が出ていることを高く評価した。事業性、持続可能な観光への貢献が評価ポイントと考えられる。

(2)株式会社かまいしDMC(注1)

震災復興とゼロからの持続可能な観光地域づくりの実践
~まち全体を屋根のない博物館に~

(取組の目的)

東日本大震災による甚大な被害を経験した岩手県・釜石は、ハードの復旧が一段落したものの、人口減少と基幹産業である製鉄業の衰退といった課題に直面している。その中で、住民が誇りや郷土愛を感じられるまちづくりが求められている。そこで、地域にある観光資源の原石を磨き上げ、エリア全体を「屋根のない博物館」と見立て、地元の宝を誰もが楽しめるような形で展示した「釜石オープン・フィールド・ミュージアム(釜石OFM)」構想に取り組んでいる(資料4)。本取組は2018年4月から始まったもので、観光素材を「人」や「生業」としており、地域の生業に携わる方々が観光に副業として携わることで、収入源を増やすほか、観光を通じて「つながり人口」を増加させ、地域活性化の好循環創出に寄与している。

(特色・独自性)

釜石は伝統的な観光地ではなかった上に、津波でまちが破壊される逆境にあった。その中で、ゼロから観光コンセプトを策定、短期間で地域内外に浸透させ、実際に地域の日常生活や仕事を紹介する体験型プログラムを整備し、来訪者を惹きつけてきた(資料5)。来訪者は、地元の漁師や経営者などと出会い、日常生活や仕事など様々な話を聞いて、その魅力を発見し、関係性を構築する。このような理念の策定と体現の一貫性は独自のものである。

資料4 「釜石オープン・フィールド・ミュージアム(釜石OFM)」構想取り組み
資料4 「釜石オープン・フィールド・ミュージアム(釜石OFM)」構想取り組み

資料5「生業」体験~漁業体験と林業体験(カーボンオフセット)
資料5「生業」体験~漁業体験と林業体験(カーボンオフセット)

釜石市では、「釜石オープン・フィールド・ミュージアム」の運営指針として、2016年より「持続可能な観光」の国際基準(GSTC‐D)(注2)を採用している。これに基づき、観光地マネジメントのほか、食材の地域調達率を上げる商品開発、来訪者へのカーボンオフセットなど、各種施策を実行している。結果、5年連続で「世界の持続可能な観光地100選」に選出され、「グリーン・デスティネーションズ・アワード」シルバー賞を日本で初めて受賞している。

(選考のポイントと評価)

東日本大震災で荒廃した釜石の復興のために、地域の文化・自然・施設・住民・生業を展示物として見立て、まち全体をオープン・フィールド・ミュージアム(屋根のない博物館)として有機的につなぎ合わせることで、教育旅行や企業研修、ワーケーションの受入を促進させている。持続可能性を徹底的に追及しつつ、ゼロから観光地を作り上げたDMO(注3)のモデルとなる取組として高く評価される。観光を副業とする新たな地域主導の観光政策として今後に大きく期待したい。

(3)株式会社トラベリエンス

界中の旅行者と世界中のツアーガイドをマッチングする観光ツアーマーケットプレイス
「GoWithGuide.com」

(取組の目的)

同社は2013年に創業し、2014年から日本在住の通訳案内士と訪日外国人旅行者をマッチングするツアーのマーケットプレイス「GoWithGuide.com」を開始し、2019年度の当サービスの売上は2億円を超えるまでに成長していた。しかし、2020年2月に、コロナウイルスの影響で訪日外国人旅行者が激減し、売上が9割以上減った。そのため、コロナ後、全世界を旅行する観光客と全世界在住のツアーガイドをマッチングする観光ツアーマーケットプレイスを目指し、海外展開を図っている。対象国が増えるに従ってサイト利用のリピート率が高くなり、売上が増加する。

(特色・独自性)

旅行客が支払い前に、ツアーガイドとWeb上でコミュニケーションがとれることで、ツアーガイドが旅行客の個人のニーズに基づいて、旅程をカスタマイズしてツアー提案ができ、オリジナルツアーが販売・購入できるプラットフォームであることが特色である。そのため、既存のOTA(注4)ではどこでも同じような商品が販売されているが、当プラットフォームでは一人ひとりの旅行客向けのオリジナルツアーを販売することができるのが独自のものである。

持続可能な観光にどのように取り組んでいるかについては、販売している主なツアーは、ウォーキングツアーであり、主に利用している交通機関が公共交通機関であることにより、販売が増えれば増えるほど、より環境にやさしいツアーの総数を増やすことができる。

(選考のポイントと評価)

2013年に創業し、日本在住の通訳案内士と旅行者をマッチングするサービスを開始したが、コロナ後は世界の観光客とツアーガイドをマッチングする体制にシフトした。多様化する個人需要に対応して全世界のツアーガイドとのマッチングにより旅行をより満足度の高いものにしており、ウォーキングや公共交通機関を利用することで環境へ配慮している点を評価した。今後のアウトバウンド需要拡大への貢献に期待したい。

5.第7回ジャパン・ツーリズム・アワードから学ぶもの

コロナ禍の影響で3年ぶりの開催となった第7回ジャパン・ツーリズム・アワードでは、内外の企業・団体等から140件もの優れた取組が寄せられた。筆者も第1次審査を行ったアワード部会長として全件の審査を実施したが、応募取組には、「ユニバーサルツーリズム」や「エコツーリズム」など、持続可能な観光の推進に寄与する社会性の高い取組や、ポストコロナを見据えた観光DXの積極的な活用、担い手不足解消に向けて地域住民を巻き込む関係人口創出に向けた取組などが多く見られた。全国各地でポストコロナを迎えて新たな取組が実施されており、観光産業の力強さを実感したところである。

本稿で紹介した事例を振り返ると、「駅と周辺の地域コンテンツを面にして地域全体を1つのホテルと見立てた世界観(沿線まるごと株式会社)」、「町全体をホテルに見立てて(株式会社コラレアルチザンジャパン)」「地域の文化・自然・施設・住民・生業を展示物として見立て、まち全体をオープン・フィールド・ミュージアム(屋根のない博物館)として有機的につなぎ合わせる(株式会社かまいしDMC)」などといったコンセプトがみられる。つまり、人口減少や地域産業の衰退、震災の影響下、地域コンテンツを面として地域全体を1つのホテルや博物館等に見立てて、地域が一体となって、地域おこし・活性化に取り組み、地域の持続可能性を追求している事例が多かったのが最大の特徴である。これから地方部を中心に急速に進む人口減少下での地域活性化の参考事例として大いに有効であろう。

6.おわりに

増田寛也東京大学大学院客員教授(当時)を座長とする日本創生会議が2014年に発表した「ストップ少子化 地方元気戦略」において、2040年までに消滅する可能性がある都市(注5)は、全市区町村1799のうちの約5割、896自治体とされた。一方で、2023年に国立社会保障・人口問題研究所が公表した「地域別将来人口推計」では、約3割の市区町村で2040年推計人口が10年前(2013年)の人口推計値を上回った(日本経済新聞、2024年1月20日)。育児支援や住環境・教育体制など人口増を見据えた基盤整備の違いなどから市区町村で明暗が分かれている現状だ。基盤整備は育児支援や教育体制だけではない。ジャパン・ツーリズム・アワードの入賞事例のような地域コンテンツを観光資源として、まち全体を活性化し、地域の持続可能性を高めることも人口減少を少しでも食い止める基盤整備のひとつであると言えよう。

以上

【注釈】

1)DMCとはDestination Management Companyの略。旅行客にとっての目的地(デスティネーション)を顧客視点で満足実現に向けてマネジメントを行う、地域に特化した会社のこと。

2)GSTC‐DとはGlobal Sustainable Tourism Committeeが認証する、観光に関わるすべての地域が目指す必須の基準で、持続可能なマネジメント、社会経済的影響、文化的影響、環境への影響の主要4分野からなる。

3)DMOとはDestination Management Organizationの略。観光地域づくり法人。

4)OTAとは国内のオンライン旅行取引事業者。

5)日本創生会議において「消滅可能都市」と称され、2010年から2040年にかけて、若年女性人口(20~39歳)が50%以上減少する市区町村と定義された。

【参考文献】

  • 日本創生会議「ストップ少子化 地方元気戦略」(2014)

  • 国立社会保障・人口問題研究所「地域別将来人口推計」(2023)

今泉 典彦


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