助け合いを促すヘルプマーク

~より効果を発揮するためには~

水野 映子

目次

1.ヘルプマークとは?

外出先で見知らぬ人が困っていたら手助けをするか―このことについて論じたこれまでのレポート(注1)では、各種調査の結果などから、手助けする気持ちはあっても実際には手助けしない・できない人が多いことを示した。またその一因としては、相手が手助けを必要としているかどうか、どのような手助けを必要としているのかわからないということをあげた。確かに、障害・病気などの心身の状況や手助けの必要性が、外見では判断しにくい人もいる。

そのような状況を受けて作成されたのが「ヘルプマーク」(図表1)だ。カバンなどにぶら下げられているストラップ付きのヘルプマークや、ヘルプマークの普及・啓発のためのポスター・ステッカーなどを見たことがある人もいるだろう。

図表1 ヘルプマーク
図表1 ヘルプマーク

ヘルプマークとは、「外見からは分からなくても援助や配慮を必要としている方々が、周囲の方に配慮を必要としていることを知らせることで、援助を得やすくなるよう、作成したマーク」(注2)である。自治体によっては、必要な支援内容などを書き込み裏面に貼付するためのシールが付属している。

対象者としては、「義足や人工関節を使用している方、内部障害や難病の方、妊娠初期の方など」(注3)が例示されているが、知的・精神・発達障害のある人などが使う場合もあり、援助や配慮が必要であれば誰でも利用できる。ヘルプマークを身につけている人を見かけた際には、電車・バスの座席を譲る、困っているようであれば声をかける、災害時の避難を支援する、などの行動をとることが呼びかけられている。

ヘルプマークは2012年に東京都が作成し、配布や優先席へのステッカー標示などを開始した(注4)。その後、他の地域でも徐々に導入されている。東京都の調査によると、2021年10月31日現在、全都道府県の自治体でヘルプマークが配布されるに至った(注5)。また、自治体以外では、企業などの事業者でもヘルプマークの普及・啓発などに関する取り組みが行われている(注6)。

なお2017年には、JIS(日本産業規格)にもヘルプマークが追加されている(注7)。

2.認知率は過半数 ~高齢層・小都市で低い~

では、このヘルプマークは一般の生活者にどの程度知られているのだろうか。

内閣府が2017年および2022年に実施した世論調査には、ヘルプマークを含むさまざまなマークを知っているかどうかに関する設問がある。それぞれの調査によると、ヘルプマークの認知率(知っていると答えた人の割合)は、2017年では9.5%(図表省略)、2022年では52.3%(図表2)であった。両調査は調査方法が異なるため単純には比較できないが、5年間でかなり知られるようになったことがうかがえる。

2022年の調査結果を年代別にみると、上の年代ほど認知率が低い傾向がある。18~29歳では認知率が4分の3を超えているのに対し、70歳以上では3割台にとどまっている。支援を必要とすることが比較的多いであろう高齢層に知られていないことがわかる。

都市規模別にみると、大都市、特に東京都区部での認知率が高い。その理由としては、ヘルプマーク発祥の地が東京都であることに加え、大都市に住む人のほうが鉄道・バスなどの公共交通機関の利用頻度が高く、ヘルプマークの利用者やポスター・ステッカー類を目にする機会が多いことなどが考えられる。

図表2 一般生活者のヘルプマークの認知率
図表2 一般生活者のヘルプマークの認知率

3.周囲の認知・理解が不可欠

次に、ヘルプマークを使う側として想定されている障害者の意識に焦点をあてる。

民間の研究所が2021年に障害者を対象に実施した調査(注8)によると、ヘルプマークを知っている人の割合は80%と高かった(図表省略、以下同)。2017年に同研究所が実施した調査ではその割合が47%であったことをふまえると、4年間で障害者の間にも急速に認知度が高まったといえる。

ただし、2021年の調査でヘルプマークを現在利用していると答えた人は26%、ヘルプマークが自分の想定通り役立っていると思うと答えた人は25%であり、さほど多くない。また、ヘルプマークを今後利用したいと答えた人は49%であり、利用したくないと答えた人とほぼ同割合となっている。障害のある人がヘルプマークを必ずしも活用・評価しているわけではないことがわかる。

では、ヘルプマークが活用・評価されている理由・されていない理由はそれぞれ何だろうか。ヘルプマークがどのような点で役立っているかをたずねた結果では、「公共交通機関の利用時などに周囲から配慮してもらう」が52%と過半数を占めていた(図表3①)。また、どのような点でヘルプマークを利用したいと考えているかをたずねた結果でも、「公共交通機関の利用時などに周囲から配慮してもらう」が81%で最も高かった。ヘルプマークを身につけていると公共交通機関の座席を譲ってもらえるなどの配慮を受けられる点が評価されていると思われる。また、「緊急時・災害時に周囲からサポートを受ける」(69%)の割合もかなり高い。平常時だけでなく、非常時にサポートを受けられることへの期待もあるといえる。

一方、ヘルプマークを利用していない理由としては、「利用する場所や機会がないから」(36%)の割合が最も高い(図表3②)。次に、「利用時の周囲の反応が気になるから」(30%)、「認知不足により役に立たないと思うから」(29%)という周囲の理解・認知にかかわる項目があがっている。また割合としては高くないが、「嫌がらせを受けたなどの噂を聞いたから」(14%)という回答もある。周囲の人の認知・理解の不足がヘルプマークの活用を妨げている場合もあると考えられる。

以上でみたように、ヘルプマークは近年、広く普及し認知度も高まった。ヘルプマークを利用する側からは、平常時や非常時にサポートを受けられることへの期待もみられる。ただし、都市規模の小さい地域に住む人や、サポートを必要とする人が多いであろう年配の人の認知度は比較的低い。また、周囲の人の認知・理解が不足していることにより、障害者などには十分活用されていない面もある。ヘルプマークが平常時・非常時の助け合いをより促す手段になるためには、さらに広い地域・年齢層の人々にその存在と意味が知られ、理解されることが必要だろう。


【注釈】

  1. 直近では以下。
    水野映子「日本は世界で最も助け合わない国? ~手助けが必要な人はいるのだが~」2023年11月

  2. 出典は以下。
    東京都福祉局ウェブサイト「ヘルプマーク」
    (https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/shougai/shougai_shisaku/helpmark.html)

  3. 注2と同じ。

  4. 注2と同じ。

  5. 出典は以下。
    東京都 ヘルプマーク特設サイト「ヘルプマークとは」
    (https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/helpmarkforcompany/about.html)

  6. 以下のサイトに、企業などの取り組み状況が掲載されている。
    東京都 ヘルプマーク特設サイト「様々な取組」
    (https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/helpmarkforcompany/event/index.html)

  7. 日本産業規格(旧 日本工業規格)JIS Z8210(案内用図記号)の改正による。以下の報道発表資料を参照。
    経済産業省「日本工業規格(JIS)を制定・改正しました(平成29年7月分)~案内用図記号などのJISを制定・改正~」2017年7月20日
    (https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10950796/www.meti.go.jp/press/2017/07/20170720002/20170720002.html)

  8. 調査の実施主体は(株)ゼネラルパートナーズ 障がい者総合研究所、実施時期は2021年10月、方法はインターネット調査、回答者は同研究所のモニターに登録している障害者164人。
    『役立っている』は「役立っている」「どちらかというと役立っている」の合計、『利用したい』は「利用したい」「どちらかというと利用したい」の合計。出典は以下。
    同研究所「ヘルプマークの認知度・利用状況に関する調査(第二回)」2021年11月
    (https://note.com/gp__info/n/n23a292923682)

水野 映子


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。