ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

Web3が拓く新たな地方創生のかたち(1)

~『トラストレス』なしくみの中で、つながりをつくる~

稲垣 円

目次

1.加速するWeb3技術を活用した地方創生

筆者は、レポート「NFT×地方創生~その可能性と留意点~」(2023年1月)において、NFT(Non Fungible Token:代替不可能なトークン)を活用した地方創生の動向について述べた。NFTをはじめとしたWeb3技術を活用した取組みは、ふるさと納税の返礼品、デジタル住民票、観光誘致、農業、漁業等の多様な領域へと広がりを見せている。これらに共通するのは、NFTを発行することやメタバース空間をつくることが目的ではなく、こうした技術を活用することで、人びとが自発的に、かつ活発にやり取りする“生きたコミュニティ”をつくること、そして、当該地域やその地域の産物等への思い入れが強まり、リアル/バーチャル空間に関わらず実際に訪れるようになり、そうした経験を経て、さらに当該地域への思い入れが強まる・・・という循環がつくられることである。

では、実際そうした輪に参加することで、何が体験できるのだろうか。足を踏み入れた人びとは自発的に行動し、地域(あるいは、産物等)を支援することにつながるのだろうか。そして、対象となる地域にはどのような効果があるのだろうか。 本稿と次稿では、筆者が実際にNFTを購入して体験した事例を紹介しながら、Web3技術を活用した地方創生のあり方について考察する(注1)。

2.トラスト(信用)を担保する主体が存在しない仕組み

Web3とは、ブロックチェーン(分散台帳)を基盤にした、分散型のオンライン上のエコシステムの総称である。従来の中央機関の「信用」を担保に管理・運営されていた中央集権的なシステムを必要とせず、ブロックチェーンそのものが信用を担保し、参加者がネットワークを所有・管理し、自由につながり交流・取引する「トラストレス(trustless)」なしくみによって成り立つことが大きな特徴だ。この仕組みの上でトークン(暗号資産や仮想通貨、NFT)が行き交う。ブロックチェーン上で流通したトークンは、取引・送付記録が記録されるため、所有の来歴を確認することができる。

過去のレポートで述べたように、特にNFTは「ご当地もの」「その地域でしかない/体験できない」といった地域がもつ唯一無二の価値を所有することができる。そして、NFT取得後はDiscord等(注2)のチャットや音声通話が可能なメッセージアプリケーションに参加し、NFT保有者、企画・運営者そして、地域関係者の間でのやり取りが繰り広げられる。その機能は、コロナ禍で多くの企業で導入が進んだチャットアプリと類似している。企業のような組織が利用するアプリの場合、企業内のプロジェクトや課ごとにスレッドが立ち上がり、その中で社員同士のやり取りが進む。しかし、導入時やよく使う機能を利用するには追加コストがかかり、オープンなコミュニティ向けに利用するにはハードルが高い。他方、Discordは、もともとゲーム使用者向けのツールとして普及してきた背景があり、導入や基本的な機能を無料で利用できるため、初期費用を抑えながらスピーディにプロジェクトを立ち上げることができる。さらに、許可さえあれば他のプロジェクトのグループにも参加することができるため、利用者の流動性が高い。Web3の特徴であるフラットかつ透明性の高い組織形態は、その分変化のスピードも速いゆえに、プロジェクト運営側には、参加者間のコミュニケーションを促しながら事業を推進する力が必要になる。

3.夕張メロンNFTプロジェクト

今回筆者が手にしたのは、夕張メロンの支援を通じて産地(夕張市)や生産者とつながることができる「夕張メロンNFT」だ(図表1)。このプロジェクトは、NFT発行とプラットフォームを運営する民間の企業と夕張市農業協同組合が共同で取り組む。

夕張メロンは、北海道夕張市を産地とする夕張市農業協同組合の商標登録商品で、夕張市だけで生産が許可されている。生産者から選ばれた検査員の品質検査に合格したものだけが「夕張メロン」として出荷することができる。こうした唯一の価値を持つ産品と非代替性トークンであるNFTとをセットにして、一つひとつ絵柄が異なるデジタルアートが施された「夕張メロンNFT」として販売するアイデアが生まれた。

夕張メロンNFTを購入すると、いくつかの特典が提供される。1つは産品(夕張メロン)を受け取ることができる権利を得ること、そして、夕張メロン生産者も参加する限定オンラインコミュニティに参加できることだ。先に紹介したアプリケーションサービス(Discord)をコミュニケーションツールとして、生産者とNFT保有者がやり取りしながら、夕張メロンが苗から実を付け、独特の網の目を有して熟する過程を見守る。さらに、個々人のSNS等を通じてNFT保有者がPR主体となって発信する「デジタルアンバサダー」となり、プロジェクト広報の役割を果たしていく。

夕張メロンNFTは、888個が売り出され(仮想通貨ETHと日本円で購入可能)、2023年1月に実施した事前登録者向けプレセールでは、用意した105個が即完売した。その後、一般向けには夕張メロンの出荷が終わる5月下旬まで販売された。

図表1
図表1

4.贈り方の選択肢を増やす、地域産業に寄与する

夕張メロンといえば、夏の贈り物「お中元」の定番として国内外に毎年出荷され、その規模は毎年22億円を超える。しかし、顧客の多くは50~60代以上である。また、近年は夕張メロン生産者の高齢化が進み、熟練の労働力も減少しており、生産量を維持することが難しくなっている。現在は比較的大きな市場であっても、今後の見通しが明るいわけではない。夕張市としては販路の拡大(方法や消費者の層)は喫緊の課題であった。

他方、日本国内のNFT認知や購入者は、20~30代を中心とした若い世代が中心である。この層は「夕張メロン」という商品名を聞いたことがあっても、実際に見たり、食べたり、まして贈り物にしたことがある人は多くないだろう。しかし、仮に夕張メロン(ないし夕張市)に関心がなくても、「NFTを購入すると地域の特産品が届く」というNFT(デジタルアート)+αのユニークさ、そして産品は自宅用としても、あるいは他者へ贈ることもできる(NFTを贈与する、または転売する)仕組みの新しさから購入を促すことができる。また、NFTを購入すること自体が地域産業に寄与するという、大義があることもわかりやすい。この点に関していえば、夕張メロンNFTの発売は1月から始まったが、夕張メロンの出荷は通常6月下旬~7月下旬であり、NFT発売時にはまだ商品はできていない。つまり、消費者はでき上がった商品に支払うのではなく予約購入として支払っており、農家はすでに売上額が決まった状態で生産に取り掛かることができる。これにより、農家は適切な価格で売れるかどうかといった不確実性や不安を抱えることなく、生産に集中できる。加えて、ファンコミュニティやオンラインのサークルなどのある集まりに参加するのは、通常NFT購入者一人だけだが、このプロジェクトで複数のNFTを購入して友人知人等に配布すれば、受け取り手もコミュニティに参加できるようになる。そのため、NFT購入者自身がファン(仲間)を増やす主体になることもできる(ただし、受け取った側が積極的にコミュニティへ参加する意思がある場合に限定される)。

5.常に改善・改良し続け、それが許容されるコミュニティ

NFT保有者が参加するDiscord上のコミュニティでは、生産者がNFT保有者からの質問に答えたり、定期的にメロンの生育状況を報告したりする。作り手にとってはたわいもない日常の出来事だが、多くのNFT保有者はメロンの生育過程を知らない。Discord上のコミュニティでは、こうした生産者の日常を共有し、やり取りすることが当たり前のように行われている。

図表2
図表2

NFT保有者の中には、既に複数NFTを保有し、いくつかのプロジェクトへ参加していたり、運営を経験していたりする者もいる。そうした経験者たちは、自身の知見を活かしてコミュニティで積極的にコメントしたり、場を活性化させるための新たなアイデアを提案したりする(注3)。運営側もこうした提案にスピーディに対応し、仕組みを修正したり、新しい取り組みへと発展させたりすることもある。

同じプロジェクトのNFT保有者というだけの集まりだが、プロジェクトの趣旨や仕組みを理解・共感することで、自身にとって(あるいは、地域や産品のために)「価値ある取り組み」だと捉え、匿名・素性のわからない者同士であっても、よりよいコミュニティを作ろうと互いに協力し合う空間が少しずつ生まれている。

次稿では、本プロジェクトの目玉でもある、NFT保有者と生産者のリアルな交流会(収穫祭)の様子を紹介し、デジタル上での交流とリアルの交流を併用することの意味や効果、今後のNFTを活用した地方創生事業の課題について考えたい。


【注釈】

  1. 筆者が本事例を取り上げる理由を述べる。NFTを活用した地方創生の取り組みは、本稿で紹介した「夕張メロンNFT」以外にも複数存在しており、それぞれNFT保有者が交流するコミュニティが形成されている。しかし、すでに最初の発売から時間が経っていたり、参加者数が多いプロジェクトでは、コミュニティの構造も複雑になっていたりする。その点「夕張メロンNFT」は、筆者がNFTの発売当初から参加することができたため、Discord上でのNFT保有者と生産者、企画運営者とのやりとりや、それによって関係が作られていく様子を確認することができた。

  2. Discord(ディスコード https://discord.com/)は、アメリカで開発された無料チャットアプリ。テキスト、ボイス、ビデオに対応したコミュニケーションツールである。オンラインコミュニティを形成するのに便利なアプリとして、全世界で利用されている。2015年にリリースされて以降、ゲーム使用者向けのツールとして普及してきたが、昨今はビジネス向けや大学のコミュニティとしても利用されるなど、使途が多様化している。有料プランも用意されている。

  3. NFT購入者であっても、購入しただけでコミュニティに参加しない人、あるいはコミュニティに登録していても、たまに訪れるだけという人もいる。参加は必須ではなく、あくまで任意。

【参考文献】

  • 稲垣円「NFT×地方創生~その可能性と留意点~」第一生命経済研究所、2023年1月

  • 伊藤穰一「テクノロジーが予測する未来Web3、メタバース、NFTで世界はこうなる」SB新書、2022年

  • 國光宏尚「メタバースとWeb3」エムディエヌコーポレーション、2022年

  • MeTown株式会社<https://metown-inc.studio.site/>

  • 北海道JA夕張市 夕張メロン<https://agri.ja-group.jp/ipagri/caseip/casejaip/1314/>

稲垣 円


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

稲垣 円

いながき みつ

ライフデザイン研究部 客員研究員
専⾨分野: コミュニティ、住民自治、ソーシャルキャピタル、地域医療

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