「人生100年時代」に必要な、耳の健康への関心

~難聴への気づきと対応を~

水野 映子

目次

1.高齢期には聴き取りとともにコミュニケーションが困難に

今月(2023年7月)初め、厚生労働省から「国民生活基礎調査」の結果が発表された。この調査は毎年実施されているが、今回(2022年)の調査では、見えにくい・聴き取りにくいなどの「日常生活における機能制限」に関する質問項目が新たに設けられた。

図表1には、①~⑤それぞれの項目に苦労があると答えた人の割合を、年齢階級別に示す。これをみると、制限が生じやすい年齢は機能によって異なることがわかる。


図表1 日常生活での苦労(年齢階級別)
図表1 日常生活での苦労(年齢階級別)


たとえば「眼鏡を使用しても見えにくい」という苦労がある人の割合は、40代で急激に増える。いわゆる老眼が現れる年齢に関係していると思われる。

一方、「歩く・階段を上るのが難しい」「思い出す・集中するのが難しい」「補聴器を使用しても聴き取りにくい」という苦労がある人の割合は、40代くらいから徐々に増え、70代くらいから増加傾向が加速している。

また、「コミュニケーションが難しい」という苦労がある人の割合も、60代以上では年齢が上がるほど高くなっている。ただし、20代後半をピークとする山もある。

この結果で興味深いのは、「補聴器を使用しても聴き取りにくい」と「コミュニケーションが難しい」の曲線が、65歳以上ではほぼ重なっていることである。この結果だけで難聴とコミュニケーションの難しさの間の関連を裏付けることはできないが、特に高齢期においては聴力がコミュニケーションに影響していることがうかがえる。

2.難聴は認知症の原因にも

この調査で「補聴器を使用しても聴き取りにくい」と答えた人の割合は、どの年齢でも「眼鏡を使用しても見えにくい」「歩く・階段を上るのが難しい」「思い出す・集中するのが難しい」と答えた人の割合より低い。ただし注意が必要なのは、聴き取りにくいことに本人や周囲の人が気づいていない可能性もあることだ。

実際、「補聴器を使用しても聴き取りにくい」苦労があるかという質問項目での「不詳」の割合は、他の4項目より高く、65歳以上では1割を超えている(図表2)。高齢層を中心に難聴に気づいていない人がいるとも推測される。


図表2 日常生活での苦労(65歳以上)
図表2 日常生活での苦労(65歳以上)


また、たとえ難聴に気づいたとしても、生命の維持や日常生活に大きな支障がなければ、耳鼻咽喉科を受診したり補聴器の使用を検討したりせず、何もしないで放置してしまう人もいる。さらには、補聴器を入手しても、適切に使用できていないために、聴き取りがあまり改善されていない人もいる。

だが、難聴であることはコミュニケーションに影響を及ぼすほか、認知症の原因になることも指摘されている。たとえば、2020年にはランセット国際委員会が「予防可能な40%の12の要因の中で、難聴は認知症の最も大きな危険因子である」と報告している(注1)。

生活者は、コミュニケーション豊かな「人生100年時代」を生きるためにも、認知症を予防するためにも、まずは耳の健康に関心を持つこと、そしてもし難聴に気づいたら必要に応じて補聴器の活用を検討することなどが大切だろう。それとあわせて、補聴器を適切に使っても聴き取りが難しい人を取り残さないよう、音声以外の方法、たとえば文字などでも情報入手やコミュニケーションができる社会にすることも求められる。

【注釈】

  1. 引用元、原典はそれぞれ以下。
    日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「難聴によって認知症のリスクが高くなる!?」掲載日:2018年4月2日、改訂日:2022年8月24日
    (https://www.jibika.or.jp/owned/hwel/news/001/)
    Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission. Lancet. August 8, 2020; Vol 396 :p.413-446.
    (https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)30367-6/fulltext)

水野 映子


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