高齢者・障害者の旅行に役立つ情報提供

~アフターコロナのユニバーサルツーリズム推進に向けて~

水野 映子

目次

1.ユニバーサルツーリズム復活の兆し

2020年初めから3年以上にわたったコロナ禍は、日本国内の観光に深刻な影響を与えた。だが、昨年10月から入国制限が大幅に緩和されたことにより、外国人旅行者は急増しており、先月(2023年3月)には2019年同月比の65.8%まで回復した(注1)。加えて、まもなく迎えるゴールデンウィークには、日本人の国内旅行者も増えると予想される。また連休明けの5月8日には、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に変更される。このことなどによって、夏休みの旅行の動きも活発になるだろう。

コロナ禍の前は、東京2020オリンピック・パラリンピックの開催を控えていたこともあり、年齢や障害の有無に関係なく誰もが楽しめる観光、いわゆる「ユニバーサルツーリズム」を推進する動きが加速していた。感染拡大によって高齢者や障害者の旅行も大幅に制限されたが、これからはまたそのニーズが高まっていくと考えられる。

高齢者や障害者などの円滑な旅行を推進するには、観光施設・交通機関などの設備やサービスのバリアフリー化が不可欠だ。だが、いくら良い施設やサービスがあっても、高齢者・障害者本人やその家族などが、旅行の計画を立てたり実際に旅行をしたりする際に、それらを知らなければ活用することはできない。そのため、それらの人々が旅行をするうえで必要な情報を提供するための取り組みも進められてきた。本稿では、高齢者・障害者の旅行に役立つ情報提供に関する、コロナ禍の前からこれまでの取り組みを紹介するとともに今後を展望する。

2.「バリアフリー旅行相談窓口」の推進

日本の全国各地には、障害者・高齢者に向けて旅行のための施設やサービスに関する情報を提供したり、相談を受けたりする機関がある。観光庁はそのような機関を「バリアフリー旅行相談窓口」(注2)と呼び、新規設置や機能強化を進めてきた。2021年3月までに把握されたバリアフリー旅行相談窓口は、全国57か所にのぼる(図表1)。

コロナ禍前の2019年に観光庁がバリアフリー旅行相談窓口に対して実施した調査(注3)によると、窓口に寄せられた問い合わせ・相談の内容は、宿泊施設や交通機関、観光コース、旅行先での福祉用具のレンタルや入浴・移動支援など、多岐に及んでいる。また、約半数の窓口が、日本人だけではなく外国人からの問い合わせがあったと答えている。窓口を運営する団体は、NPO法人や一般・公益社団法人など(観光案内所を含む)であり、市区町村・都道府県などの行政と連携し運営している団体も多いと報告されている。

3.「観光施設における心のバリアフリー認定制度」の開始

一方、感染拡大後の2021年には、観光庁の「観光施設における心のバリアフリー認定制度」も始まった。バリアフリー対応や情報発信に積極的に取り組む姿勢のある観光施設を対象とした制度であり、認定された施設には「認定マーク」が交付される。2023年3月2日現在、515件の施設が認定されており(注4)、その名称・所在地も公表されている。各施設・都道府県の内訳は図表1の通りである。当初の対象施設は宿泊施設・飲食店・観光案内所だったが、今月(2023年4月)からは博物館も対象に加わった。

図表1
図表1

この認定制度の認定基準は図表2の通りである。これを見てもわかるように、観光施設の接客サービスや情報提供などのソフト面が主な認定基準となっている。とりわけ③は、情報を必要とする人が見つけやすいよう、申請者(観光施設)ではない第三者が管理するサイトでの情報発信を条件にしている点が特徴的である。

図表2
図表2

4.「旅をあきらめない」アフターコロナへ

障害・病気のある人や介護を必要とする人は、もとより旅行をあきらめがちであったが、コロナ禍でさらにあきらめざるを得ない状況になった。だが、旅行は心身に良い影響を与え、人生の「幸せ」「well-being」を向上させる可能性もある。旅行が難しいと感じている高齢者・障害者やその家族などの周囲の人々は、本稿で紹介したバリアフリー旅行相談窓口や心のバリアフリー認定施設をはじめとする情報を積極的に活用し、旅行を検討してみてはどうだろうか。

ただし、図表1をみてもわかるように、バリアフリー旅行相談窓口や心のバリアフリー認定施設の数は、都道府県によって偏りがある。また、同じ都道府県の中で特定の地域に偏っている場合もある。高齢者・障害者などが行きたいところに自由に安心して行けるようになるには、相談窓口や情報サイトなどでより広い地域の情報が提供される必要がある。また、それらの存在自体が多くの人々に知られることも重要である。

高齢者・障害者などの旅行環境を整えその情報を提供することは、旅行者だけでなくそこに住む人の外出しやすさの向上や、その地域の活性化、魅力の発信にもつながる。誰もが旅行を楽しめる「ユニバーサルツーリズム」を実現するための環境づくりと情報提供への取り組みが、より多くの地域でおこなわれることを望む。

【注釈】
  1. 日本政府観光局「訪日外客数(2023年3月推計値)」2023年4月19日

  2. 観光庁は、以下の報告書において、「本事業における『バリアフリー旅行相談窓口』とは、高齢者、障害者が面的に旅行情報を入手することができるよう、宿泊施設や博物館等観光施設、バス、タクシー等交通機関のバリアフリー情報についてホームページ等で網羅的に発信しており、問合せについて積極的に対応ができる体制が構築されている観光案内所を言う」としている。 観光庁「バリアフリー旅行相談窓口に係る促進事業 報告書」2020年3月

  3. 出典は注2と同じ。調査時期は2019年10~11月、調査対象はその時点で把握されていたバリアフリー旅行相談窓口36か所、回収数は27か所。

  4. 観光庁「『観光施設における心のバリアフリー認定制度』認定施設数500施設を突破!」2023年3月2日(https://www.mlit.go.jp/kankocho/page06_000299.html)

水野 映子


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

水野 映子

みずの えいこ

ライフデザイン研究部 主任研究員
専⾨分野: ユニバーサルデザイン

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