企業の障害者雇用は今 ~雇用率引き上げを背景に~

水野 映子

目次

1.障害者の雇用率と雇用の拡大 ~2.7%への引き上げが決定~

民間企業や国・地方自治体は、障害者雇用促進法の「障害者雇用率制度」にもとづき、従業員の一定割合(法定雇用率)以上の障害者を雇用することが義務付けられている。民間企業の法定雇用率は、2012年度までは1.8%だったが、2013年度からは2.0%、2018年度からは経過的措置として2.2%、2021年3月からは2.3%に引き上げられた。去る2023年1月18日、厚生労働省は、法定雇用率を今後さらに段階的(2024年度からは2.5%、2026年度からは2.7%)に引き上げることを決めた(注1)。

この雇用義務を履行している事業主と履行していない事業主との間に生じる経済的負担の調整を図るとともに、障害者を雇用する事業主に対して助成・援助を行うため、「障害者雇用納付金制度」が設けられている。具体的には、常用労働者数が100人を超える事業主において、雇用率未達成の事業主は、不足する障害者数に応じて1人につき月額5万円の「障害者雇用納付金」を収めなければならない。一方、その納付金を財源として、雇用率を超えて障害者を雇用している事業主には、超えた障害者数に応じて1人につき月額2万7千円の「障害者雇用調整金」が支給される(注2)。なお、厚生労働省の勧告にもかかわらず障害者の雇用状況に改善がみられない民間企業については、企業名が公表される。

これらの制度などを背景に、障害者雇用は拡大してきた。図表1に示す通り、民間企業で雇用されている障害者の数は増え続け、2022年度には61万4千人となった。また、全従業員数に占める障害者の数の割合(実雇用率)も、現在の法定雇用率の2.3%には及ばないものの、過去最高の2.25%となった。

雇用されている障害者数を障害種別にみると、身体障害者(35万8千人)が最も多く、全体の6割近くを占めている。ただし近年では、身体障害者の数が横ばいで推移する一方で、知的障害者と精神障害者の数が増えている。中でも、精神障害者の伸びは著しく、5年前(2017年)の5万人から倍以上の11万人になっている。

図表1
図表1

2.「働く障害者像」の理解が課題

では、障害者を雇用するにあたっては、どのようなことが課題になっているのだろうか。図表2には、厚生労働省が民営事業所に対し、身体・知的・精神障害者雇用それぞれの課題について尋ねた結果を示す。

これをみると、どの障害についても、第1位は「会社内に適当な仕事があるか」、第2位は「障害者を雇用するイメージやノウハウがない」となった。障害者がどのような仕事をどのようにおこなうのか、という情報が少なく、想像しにくいことが一因と思われる。

第3位以下は障害種別によって異なり、身体障害者については「職場の安全面の配慮が適切にできるか」(40.9%)、「設備・施設・機器の改善をどうしたらよいか」(28.3%)という項目が、比較的上位にあがった。設備・施設などのハード面での課題も大きいことがうかがえる。

一方、精神障害者と知的障害者については、「採用時に適性・能力を十分把握できるか」「従業員が障害特性について理解することができるか」が概ね同率でそれぞれ3・4位となった。前述のように、身体障害者に比べて精神障害者や知的障害者は、雇用されている数が少ない。加えていえば、特に精神障害は外見でわかりにくい上、誤解や偏見を持たれやすい障害でもある。そのため、採用担当者や障害者とともに働く従業員が、その能力や特性などを正しく把握・理解できるか、不安を感じている企業が多いと考えられる。

図表2
図表2

厚生労働省やその関連機関などは、障害者本人や雇用する事業者に向けて、さまざまな支援や情報提供をおこなっている。それらの情報の中には、多様な特性のある障害者が働く上での課題や改善策、企業・障害者の事例などを具体的に説明した資料もある(注3)。障害者を雇用する立場や障害者とともに働く立場にある人々には、こうした資料や各種の相談窓口(注4)なども活用しながら情報を収集し、まずは働く障害者像をイメージしてみてほしい。その上で、単に障害者の雇用率を上げるという観点ではなく、障害者を含む多様な人材が力を発揮できるためにはどうしたらよいのかというダイバーシティの観点から、障害者雇用のあり方を考えることが重要であろう。

【注釈】

  1. 厚生労働省「第123回労働政策審議会障害者雇用分科会(資料)」2023年1月
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_30341.html
  2. 障害者雇用調整金の他、納付金を財源として支給されるものとしては、在宅就業障害者特例調整金、在宅就業障害者特例報奨金、特例給付金、各種助成金もある。
  3. 例えば、厚生労働省所管の独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構のウェブページには、マニュアル・事例集などが多く掲載されている。
    https://www.jeed.go.jp/disability/data/index.html
  4. 例えば、上記法人の「中央障害者雇用情報センター」や各都道府県にある「地域障害者職業センター」では、さまざまな障害者雇用に関する相談に無料で対応している。
    https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/q2k4vk000003kmkz.html

水野 映子


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