ユニバーサル社会への扉(11) :ウィズコロナのコミュニケーションを見つめ直す

~今こそ「誰一人取り残さない」視点を~

水野 映子

目次

1. マスク越し・仕切り越しのコミュニケーションはより困難に

新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染拡大以降、人と接する際にはマスクを着用することや、相手との距離(ソーシャルディスタンス)を保つことなどが必要とされてきた。昨年(2020年)9月に当研究所が実施した調査では、それらの「新しい生活様式」によって、生活者は対面でのコミュニケーションにどのような不便さを感じているか、またその不便さを解消するためにどのような工夫をしているかを明らかにした(注1)。

これらの不便さや工夫の変化を探るため、この調査から1年後にあたる2021年9月に新たに実施した調査では、同じ質問項目を設けた。図表1に示す通り、マスク着用時の会話の不便さ、すなわち「マスクをしている人の声が聞こえにくい」「マスクをしている自分の声が相手に伝わりにくい」「マスクで表情や口元が隠れるために会話しにくい」という不便さを感じることがあると答えた人の割合は、それぞれ前回の調査より5ポイント前後増え、75.1%・74.9%・65.4%となった。また、「会話の相手との距離が遠いために会話しにくい」「透明なビニールやアクリル板などの仕切りがあるために会話しにくい」と感じることがある人の割合は、それぞれ10ポイント前後も増加して約64%となった。感染拡大後、マスク越しや仕切り越し、離れた距離で会話するようになって久しいが、その不便さを感じる人は減るどころか、むしろ増えたことがわかる。

では、そのような不便さを軽減するための工夫はおこなわれるようになったのだろうか。今回の調査で、「声が聞こえにくい状況の時、ジェスチャーや指さし、うなずきなどの動作を積極的におこなうこと」や、マスクをして話している時に「発音に気を配ること」「表情に気を配ること」があると答えた人の割合は、それぞれ5ポイント以上増加して55.2%・48.6%・47.3%となったものの、不便を感じている人の割合に比べると少ない。コロナ禍が長引く中、コミュニケーションを円滑にするためにこれらの工夫をする人も増えたとはいえ、半数前後の人はいまだおこなっていない状況にある。

図表
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2. コミュニケーションが難しい人に対する「想像力」の重要性

1で述べたように、新型コロナの感染拡大下では、多くの一般生活者がマスク着用時などにコミュニケーションの不便さを感じているが、より深刻な問題を抱えているのは聴覚に障害のある人々である。以前の拙稿(注1)では、マスクをしている会話の相手の口の動きや表情が見えないこと、声が聞こえにくいことなどにより、聴覚に障害のある人々のコミュニケーションが感染拡大前以上に困難になったという問題を取り上げた。また、図表1で示したようなジェスチャー・指さしの併用や表情・発音の配慮、あるいは文字やイラストの活用などの工夫は、聴覚障害者のコミュニケーションの円滑化に有効とされてきたことについても述べた。だがそれから約1年が過ぎても、会話時のジェスチャーや表情・発音に配慮する一般生活者がさほど増えていないことをふまえると、聴覚に障害のある人のコミュニケーションの不便さも大きくは軽減されていないと推測される。

ただし、前述の調査で「耳の聞こえない人や聞こえにくい人のコミュニケーションの不便さを想像すること」があるかどうかについても尋ねたところ、過半数(53.6%)の人はあると答えた(図表2)。また、想像することがある人はない人に比べると、ジェスチャー等をおこなったり、マスクでの会話時の表情や発音に気を配ったりしている割合がかなり高い(図表3)。聴覚に障害のある人などの不便さを想像することが、コミュニケーション時の工夫につながる面はあるのかもしれない。

図表
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3. コミュニケーションから「誰一人取り残さない」社会に

日本における新型コロナの感染者数はこの数か月で大幅に減ったが、マスクの着用やアクリル板などの仕切りの使用、ソーシャルディスタンスの確保が日常的に求められ、コミュニケーションの不便さが強いられる生活はまだしばらく続くと思われる。また、いずれ新型コロナの感染拡大が終息しても、他の感染症やアレルギーの予防・症状軽減のためのマスク使用時などに、コミュニケーションの難しさが生じる可能性はある。加えていえば、例えば聴覚障害者や外国人のように、マスクなどが使われていない状況下でもコミュニケーションに困難を感じる人々もいる。つまり、コミュニケーションの問題の解消策を考える必要性は、今後もなくならない。

前回の調査結果を紹介した拙稿(注1)では、ウィズコロナの生活において多くの人がコミュニケーションの不便さを経験したことを機に、「一人ひとりが自分だけでなく他の人の不便さ・不自由さにも目を向け、それを解消する方法を考えて行動に移せば、障害の有無・年齢などにかかわらず誰もが暮らしやすい社会=ユニバーサル社会が近づく」と述べた。その上で「皆にとってより良いコミュニケーション方法がウィズコロナの時代に生み出され、アフターコロナの時代に正の遺産(レガシー)として受け継がれていくことを願っている」と結んだ。今もその思いは変わらない。だが現状をみると、そうした工夫が十分されるようになったとは言いがたい。

新型コロナの感染拡大が始まってからまもなく2年となる。今こそ、感染拡大によって自身や他の人に生じたコミュニケーションの不便さ、さらには感染拡大前から存在していた不便さにも改めて思いを巡らせながら、それを改善する方法を考えて実践し、皆がコミュニケーションしやすいユニバーサル社会、「誰一人取り残さない」アフターコロナの社会を目指すべきではないだろうか。


水野 映子

水野 映子

みずの えいこ

ライフデザイン研究部 上席主任研究員
専⾨分野: ユニバーサルデザイン

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