内外経済ウォッチ『日本~“過去最高”が溢れる経済統計の読み方~』(2024年9月号)

星野 卓也

目次

増える「過去最高」のニュース

最近、「過去最高」というワードを聞くことが増えた。仕事柄、経済に関するニュースに触れる機会が多く、その中での感覚だ。ざっと挙げると、上場企業業績が過去最高、名目GDPが過去最高、税収が72兆円で過去最高、2024年の最低賃金は1054円で過去最高・・・などなど。

ポジティブな文脈で語られる過去最高もあれば、ネガティブに語られる過去最高もある。高齢化で社会保障費が過去最高、政府の予算額が過去最高。電気代も過去最高のようだ。

物価の上がる世界での経済統計の読み方

それぞれの数字が過去最高を記録した理由は様々だが、共通因子の一つは物価上昇だ。長年物価の上がらない状態を経験してきたために見落とされがちだが、物価の上がる経済では上に挙げたような「円」を単位とする数字(名目値)は上がっていくのが自然である。日本銀行の戦前基準の企業物価指数を尺度にすると、1901年の1円の価値は2023年の1868円に相当する(資料1)。今と昔の「1円」は価値が違うからそのままの数字を比較しても意味がない、という点は超長期では直観的に理解できるが、数年スパンでは重視されにくい。「過去最高」はシンボリックな話題ではあるが、極端に楽観的/悲観的になる必要性は乏しいことも多い。

資料1 何円が1901(明治34)年の1円と等価値?
資料1 何円が1901(明治34)年の1円と等価値?

また、分析ではしばしば物価上昇を加味する(実質化)ために、円ベースの数字を消費者物価指数や名目GDP、賃金で割る、といった手段が用いられる。それぞれ生活者の物価に対して、国の経済規模に対して、現役世代の賃金に対しての数字、という違いがあり、ニュアンスは微妙に異なる。また、6月に27か月ぶりにようやくプラス転換した実質賃金は、生活実感に合わせるために「持家の帰属家賃」という項目を除いた物価指数が実質化に用いられている。一方、これを含む指数での実質化が世界的に一般的だとする内閣府は、この基準での数値は厚労省公表値ほど悪化していないとしている。(資料2)。同じ消費者物価ですらも「実質化」の方法は異なったり、それによって示唆が変わったりもする。

資料2 2種類の実質賃金(前年比)
資料2 2種類の実質賃金(前年比)

物価上昇が続く中において、その数字が名目値なのか?実質値なのか?実質化はどう行われているのか?等々、定義や意味するところを丁寧に読み解く必要は増していると思われる。これは経済動向や経済政策を論じる際の土台であり、実のある議論のために欠かせないものだ。

星野 卓也


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星野 卓也

ほしの たくや

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 日本経済、財政、社会保障、労働諸制度の分析、予測

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