注目のキーワード『COCOAから学べること』/編集後記(2023年1月号)

桝田 卓洋

目次

新型コロナの接触確認アプリ「COCOA」の運営が終了しました。その評価は他に委ねますが、COCOAに対しては、コロナ禍の緊急対応としてスピードを最優先に開発した時限アプリであり、多くのDX案件とは時間軸や優先順位が違う事情を十分に踏まえる必要があると思います。ここでは特に企業のDXでも阻害要因になりそうなことをCOCOAの取組みから抽出してみたいと思います。

まず注目したいのは“手処理業務の存在”です。レガシーシステムを抱える企業になるほどプロセス全体を一気にデジタル完結させるようなDXは難しいはずですが、COCOAにも似た構図がありました。例えばCOCOAへの陽性者情報の登録には患者情報等を登録するシステム「HER-SYS」が発行する処理番号が必要となります。この要件によって、COCOAはPCR陽性~保健所等への報告~HER-SYS入力といった、膨大な手書き/電話・FAX/手入力作業の報告プロセスと直結しました。そしてCOCOAが真に求められる感染拡大期になるほど川上工程が遅滞して効果が損なわれる状況が顕在化し、結局第7波での医療現場の負荷増大によってHER-SYSへの全件登録をやめたことが直接の要因となって今回の終了が決まりました。

2点目は“ユーザーに対する同意取得の仕方”です。COCOAでは「アプリのダウンロード」と、前述の「本人による陽性時の処理番号の登録」をユーザーに求めます。2回のオプトインの設定は個人の意思を尊重する丁寧な対応である分、陽性者の捕捉が弱まります。また他にも陽性者自身で処理番号を把握・入力する煩雑さがありました。そのことが目詰まりになったのか、最終的な陽性者登録数は約369万件(日本の陽性者全体の16%)と、ダウンロード数の約4,123万件に比しても低い水準に留まりました。

そして最後は“重要なエビデンスデータの把握頻度”です。アジャイルな開発・運用にとっても、PDCAの回転を速めてさらに高い目標設定や領域拡大をするためには極力タイムリーであるべきです。ちなみにCOCOAの核心となる“陽性者との接触通知の発信回数”は、プライバシー保護を優先したために今まで把握・検証されておらず、今年11月の最終アップデートになって初めて機能が搭載されています。

以上、いくつかの視点を例示しました。ご自身の周りのDX取組みを進めるヒントになれば幸いです。

(総合調査部 フェロー 桝田 卓洋)

編集後記

今回は新年号です。昨年は第一生命経済研レポートをご愛顧いただき、誠にありがとうございました。皆様からいただくご意見を参考に、より一層お役に立てるよう努力していきたいと思います。

と言いながらもこれを書いているのは12月の頭。まだ街から師走の慌ただしさは感じられない。しかし1年前、2年前のコロナ禍での年末に比べると日常が戻りつつあると実感する。弊社近くで丸の内イルミネーションが開催されているが近隣の仕事帰りの方々だけではなく、様々な年代の多くの方々が連れ立って散策する姿が目立つ。

2022年はロシアによるウクライナ侵攻に驚き、怒り、振り回され、考えさせられた年だった。当初は比較的短期間で停戦できるという見方もあったが、世界はより複雑になっていてこうした紛争を上手く制御できる仕組みがないことが浮き彫りになった。エネルギー、食糧、経済と全てで“安全保障”というワードを付けて議論される時代にいるということを認識しておく必要があるんだろうと思います。

こういう仕事をしていると、そんな時代感覚は持ちながらも2023年はどんな年になるかいろいろ想像してみるのが年末年始の楽しみでもある。米欧はインフレ対応で金融引き締めは継続、コロナ対応で支出した財政の“貯金”がまだ残るので厳しい景気の落ち込みはないと考えられるが減速はやむなし。一方日本は遅れた分コロナ禍からの回復もあり相対的にはましな状況か。米の金利の天井が見えれば日本に対する見方も変わり見直し買いもあり得る。加えて日銀の政策変更の思惑も高まり易い時期…つまり円高?

いやいや世界は複雑だ。2023年何が起きるか分からないが、何が起きてもパニックにならないように頭の体操を続けることが生き残る秘訣だと思っています。(H.S)

桝田 卓洋


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。