注目のキーワード『人材と人財』

重原 正明

3月は門出の季節です。多くの人が進学・就職・異動など、人生に区切りをつけ、新しい世界への準備に忙しくなる季節です。

企業の多くも新たな人を迎え入れる準備に追われているでしょうが、前は「人材」と書いたのに対し、最近では「人財」と書く企業が増えているようです。これは従業員を会社の大事な財産とする考え方によるものとの説明もありますが、社会の変化も反映されているように思います。

人材、と書くと木材などと同じような素材で、可能性は大きいものの、その可能性を引き出すための育成や経験といった働きかけが必要な印象を受けます。これに対して人財は「財産」で、直接金銭価値に換算できるもの、従業員としてはそのまま使える即戦力、という意味合いも感じられます。

即戦力が求められるのは、社会の変化が急で、企業が従業員教育を行うことが難しくなったことが背景にありましょう。いま必要な知恵や技術を持った人を育てるには、大組織で一斉研修を行うより、個々人が自身のキャリアプランに沿って重要と思われることを身につけるほうが効率的、となっているのでしょうか。

かくして多くの企業が「人材」ではなく「人財」を求めるようになりつつあります。しかし人間は生まれたときは純粋な人材、可能性の塊でしかありません。人材を人財に育てる役割をどこが持つか。これはなかなか難しい問題です。大学等の教育機関に求めることもできますが、大学には何かを学ぶためのバックグラウンドとなる教養を身につけさせるという役割もあります。例えば論理的な考え方は、過去の人類の知の蓄積の上に立って考えるための道具、言い換えると思考を節約する道具であり、小手先のトリセツを覚えるよりずっと重要なことです。そのような教養の教育とともに「材を財にする」ことも求められつつある大学は昔より難しい役割を引き受けていると言えましょう。学部修士一貫制という話が出てくるのも、無理もないかもしれません。

人の育ち方は様々で、早咲きもあれば遅咲きもあります。自分なりの道を見つけるしかないですが、自分がどんな「人財」になるかを意識することは、案外大切かもしれません。

(総合調査部 政策調査グループ 研究理事 重原正明)

重原 正明


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