時評『2023年「少子化」改善の年になることを願う』

宮内 敏光

子供が生まれなければ、次の世代は育成されず、社会の様々な機能を保つことができない。「少子化」は日本社会の存続にかかわる最大の課題である。

様々な対策を講じるも「少子化」は改善されず、一昨年2021年の日本人の出生数は国勢調査でデータがある1899年以降最小の約81万人と前年より3.5%も減少した。この出生数への減少は政府の推計より10年も早い。

この81万人は第一次ベビーブーム期(約75年前)の3割、第二次ベビーブーム期(約50年前)の4割であり、まさに危機的な状況にある。日本社会の発展を崩す「少子化」は加速している状況と言えよう。

日本は「縮小均衡の30年」を経験する中、子供を持ちたいという人を支え、安心して出産し、健やかに育つ環境が形成されにくい国になっているのかもしれない。

しかしながら、「少子化」は改善されないものの「高齢化」は進んでいる。

「高齢化」は負の側面で捉えられることが多いが、健康で長く人生を送れることは古来より人類の夢であり「長寿化」という表現が好ましいかもしれない。

「2022年版世界保健統計」によると男女合わせての平均寿命が全世界で最も高い国は日本であり、84.3歳と2位のスイスを約1歳上回っている。日本人の平均寿命、健康寿命は有史以来の最高記録を更新し続けている。

「少子化」では改善策が見いだせていないが「長生き健康大国」として進化を遂げ、新しい生き方を実践し、長寿のトップランナーとして、世界を牽引し続けていることは事実である。

さて、日本には「賀寿」という長寿の祝いが奈良時代には定着していた。当時は40歳から始めて10歳ごとに祝うものであった。「初老」は40歳「中老」は50歳を示しているが、日本の男性平均寿命が50歳を上回ったのは1947年、わずか約75年前のことである。

60歳の「還暦」は干支が出生後60年で一回りすることから赤ん坊に還るということを意味している。「古希」は70歳であり、8世紀の唐の詩人、杜甫による「70年生きる人は古くから稀である」が由来である。「傘寿」80歳、「卒寿」90歳であり、90歳で卒業するはずだった人生が100年「百寿」を考える人生へと進化しつつある。

人生100年という言葉が使われたのは2017年9月に設置された「人生100年時代構想会議」であるが、近い将来、医学の驚異的な進歩等により「珍寿」110歳そして「大還暦」(還暦を2回迎える)120歳人生が到来するかもしれない。

人類の最高年齢はフランス人のジャンヌ・カルマンさんの122年164日である。120歳「大還暦」あたりが人間の生命の限界と考えられており、「限界寿命」とも言われている。

「天寿を全うする」という言葉があるが「天寿」は250歳を表している。数十年後、科学、医学等の発達により、限界寿命が天寿の250歳、平均寿命も還暦の3倍の180歳となり、生きる価値観が根底から変わっている世界が訪れているかもしれない。

いつまで健康で、いつまで生きられるか、分からない中で私たちは充実した人生を送りたいと考える。その実現のため第一生命経済研究所では「つながり」「お金」「健康」という3つの人生資産を自律的にデザインしていくことの重要性を提言している。

私たちができるだけ長くこの3つの人生資産を確保し、イキイキと健康で長生きできれば、心理的安心感が増し、「縮小均衡」から「拡大均衡」に気持ちが変わる大きな流れになるのではないだろうか。

この変化が今以上に子供を持ちたいという人を支え、安心して出産し、健やかに育つ環境が形成される社会になる契機になることを望みたい。

世界で最先端を走る「長寿化」という個人の幸せ追求が「少子化」という社会課題の解決につながる日本の新しい発展を年始に期待したい。

宮内 敏光


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