時評『世界人口デーに思う~効果が見込める対策を次々と講じてゆくことが必要~』

原 正英

2022年11月に世界人口が80億人を突破した。1900年16億人だったので、その後122年で64億人増加して5倍となった計算だ。とくに第二次世界大戦後から急増しており、1950年25億人から55億人も増加したのだ。

人口急増の背景として、医療の発達などにより、平均寿命が伸び、乳幼児などの死亡率が低下していることなどが挙げられている。この間、とくに中国とインドでの増加が顕著であった。中国は1949年に建国されてから人口増加が奨励され人口急増となった。ただし、食糧問題などを背景に1979年から一人っ子政策が導入され、昨年、人口減少に転じた。将来は、超高齢社会が到来するとされている。一方インドは、独立して4年後の1951年に人口増加の問題が認識され、家族計画の取り組みが行われたものの、出産が厳格に制限されない運営であったことから、人口増加の歯止めが効かず、今年4月に中国を抜いて人口世界一となった。しばらく増加が続く見込みである。人口を制御することの難易度の高さが良くわかる。

人類の種の保存や繁栄などの観点から人口増加が望ましいとされる側面はあるものの、爆発的または行き過ぎた人口増加は、食糧不足や資源枯渇、環境破壊などの問題をもたらすことが50年以上前から認識されている。前提として、人類は様々な消費活動を地球資源の範囲内に収める必要があり、場合によっては経済活動を根本から諦める必要がある。さらに様々な立場があるため、成長と縮小のどちらかを選択するという極端な解決策は実現性に乏しい。だからこそ、温暖化対策など、一定の効果が見込める対策を次々と講じてゆくことが必要なのだ。

将来の人口動向に目を向けると、アジアの増加はピークアウトし、ヨーロッパは減少するが、アフリカは増加が見込まれている。2050年には世界人口は97億人、うちアフリカの人口は24億人、4人に1人がアフリカ人となることが見込まれている。日本では、コンビニや飲食店でアジア諸国出身の労働者をよく見かけるようになっているが、そう遠くない将来に、アフリカ出身の労働者をよく見かけるようになるのかもしれない。

日本国内では少子化対策が議論されているが、同時に世界の人口増加問題についても意識をして対策を講じることが求められている。政府の取り組みとしては、G7の枠組みを活用する方法もある。G7の影響力は年々低下傾向にあるが、今年5月に開催された広島サミットで、第二次世界大戦の主な参戦国を含むG7加盟国の首脳が平和記念公園で一堂に会し、献花や記帳をする姿が映し出された映像は力強いメッセージとなった。さらに同じ地に、グローバルサウスの主要国を含むG20加盟国やアフリカ連合やASEANの議長国、それに戦渦にあるウクライナ大統領が集ったことで、メッセージ力がさらに強まった。G7の会合が役割を果たした瞬間であったと感じた。

民間もやれることは多くある。今年、日本国内で、30年ぶりの水準となる賃上げが実現されたが、その際に、政府の掛け声に呼応して、マスコミやシンクタンクなどの情報発信者が空気感を作りだして、企業もそれに応えて次々に賃上げを宣言した。立場の異なるもの同士が接点を持ち、状況を共有したうえで、それぞれが発信することで、方向づけられることが示された。

そんなことを思い出しながら、当研究所においても、コロナ禍で停止していたグループ内の海外拠点との協働の取り組みを再開した。本誌においても「海外からみた気候変動の実相」を特集として掲載しているので、ご参照いただきたい。

7月11日は世界人口デーだ。世界人口50億人突破を機に、国連が制定したものだ。当時のデクエヤル国連事務総長は「(50億番目の赤ちゃんと認定された)マテイちゃんと同じ世代の人々が平和に暮らせるように」と祝福の言葉を贈ったとされている。今年でマテイちゃんは36歳、世の中を支える中核世代である。共に考えながら、できることから始めたい。

原 正英


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。