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内外経済ウォッチ『欧州~冬場のガス不足への警戒が高まる~』(2022年9月号)

田中 理

目次

ロシアが欧州向けのガス供給を縮小

ロシアによるウクライナ侵攻と人道被害の拡大を受け、欧州連合(EU)はロシア向けの経済制裁を段階的に強化するとともに、エネルギー資源の脱ロシア依存を加速している。資源関連の貿易決済を難しくする国際銀行間金融通信協会(SWIFT)からロシアの大手行を締め出し、ロシア産石炭の全面禁輸を開始したことに加え、海上輸送によるロシアの原油および石油製品の輸入を禁止した。ただ、代替調達先の確保が難しいロシア産ガスの全面禁輸については加盟国の間で慎重意見が多い。

ロシアはガス供給の継続を制裁緩和に向けた政治カードに利用しようとしている。6月中旬には修理した部品納入の遅れを理由に、ロシアとドイツを結ぶガス・パイプライン「ノルドストリーム」のガス供給量を通常の約4割に絞った。7月上中旬には10日間の定期点検で同パイプライン経由のガス供給を完全に停止した。点検期間終了後にガス供給が再開されないリスクは回避されたが、7月下旬には別の部品修理が必要になったとして、供給量を通常の約2割の水準に絞り込んでいる。欧州各国は冬場の需要期に向けてガス貯蔵の積み増しを急ぐが、このままガス供給が絞り込まれるとガス不足に陥る恐れがある。EUは7月下旬、ロシアのガス供給停止に備え、来年春までに加盟国のガス消費を15%削減することに合意した。

図表1
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冬場のガス不足で配給制の導入も

欧州諸国はロシアに代わるガス調達先として、米国などから液化天然ガス(LNG)の輸入を拡大しているが、割高なスポット市場での調達を余儀なくされている。ドイツなどでは当面のガス不足に対処するため、脱炭素と逆行する石炭火力の利用拡大で急場をしのいでいる。各国は暖房の設定温度の引き下げや深夜の広告照明の禁止など、ガス利用の節約を呼び掛けている。一部の国はガスの入札制度の導入準備を進めており、企業にガス需要削減を促している。

ガス価格の高騰は消費者や企業の節約意識を高め、ガス需要の抑制要因となるが、これにも限界がある。ロシアのガス供給停止などで本格的なガス不足に直面する場合、ドイツなど一部の欧州諸国では、一般家庭や病院など向けのガス供給を優先し、ガス利用の多い産業向けの供給を絞る配給制の開始が検討されている。その場合、経済活動に大幅なブレーキが掛かることが避けられない。ガス供給が縮小・停止すれば、需給逼迫からガス価格や電力価格の一段の高騰をもたらす。物価高騰による家計購買力や企業収益の圧迫が続くなか、既に家計心理や企業心理が大幅に悪化している。今後、冬場に向けてガス不足が現実のものとなれば、欧州は景気後退と一段の物価高騰に見舞われよう。欧州に厳しい冬が訪れようとしている。

図表2
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田中 理


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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