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注目のキーワード『産後パパ育休』/編集後記(2022年8月号)

摩尼 貴晴

目次

2021年の育児・介護休業法の改正を受けて、今年10月1日から「出生時育児休業(産後パパ育休)制度」が創設されることになりました。同法の前身である育児休業法は、1992年4月に施行され、今年で満30年目を迎えました。2020年の男性の育児休業取得率は12.65%と前年の7.48%から大きく上昇したものの、女性の81.6%とは依然大きな差があり、政府目標である2025年30%にはまだ遠く及びません。この6月に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」では、「男性の育児休業について、本年秋に施行する『産後パパ育休』の周知と検証等を行うとともに、取得日数・取得率の男女差の縮小に向けて、取得促進に取り組む。」とされています。本稿では、男性の育児休業取得の促進策として期待される「産後パパ育休」について取り上げます。

「産後パパ育休」とは、育児休業とは別に、子どもの出生後8週間以内に最長4週間の育児休業を2回に分割して取得できる制度を言います。本制度創設と同時に廃止される予定の「パパ休暇」においても、男性は子どもの出生後8週間以内に育児休業を取得した場合には、2回目の育児休業を取得することができるとされていますが、「産後パパ育休」では、女性の産後休業期間と重なる、出生後8週間の育児休業をより手厚くしたものとなっています。具体的には、「パパ休暇」は子の出生後8週間以内に育児休業を取得すると、8週間経過後にもう一回育児休業を取得できることに対して、「産後パパ育休」は子の出生後8週間以内に2回育児休業を取得でき、もちろん、8週間経過後に別途育児休業を取得することが可能です。

6歳未満の子どもを持つ日本の男性の家事・育児関連時間は、1日当たり1時間程度と国際的にみて低水準です。一方で、男性の家事・育児時間が長いほど、女性の就業継続割合が高く、また第2子以降の出生割合も高い傾向にあることから、「産後パパ育休」の創設により、女性の仕事と育児の両立や少子化の歯止めの効果も期待されています。

同法の改正により、4月からは本人または配偶者の妊娠・出産を申し出た労働者に対して個別に育児休業制度の周知やその取得意向の確認の措置を義務付け、来年4月からは1,000人を超える事業主に対し男性の育児休業取得状況の公表が義務付けされる予定であるなど、国による男性の育児休業取得に向けた環境整備が進められています。ただし、厚生労働省の調査によると、男性正社員が育児休業を取得しなかった理由として「職場が育児休業制度を取得しづらい雰囲気だったから、または会社や上司、職場の育児休業取得への理解がなかったから」という回答が上位(27.3%)にあります。これは女性の10.8%と比べ格段に多く、男性の育児休業取得に対する職場の理解が進んでない状況が浮かび上がります。どんなに国の環境整備が進もうとも、最後は職場の理解なくしては、絵に描いた餅になりかねません。「育児・家事は男性も主体的に行うもの」「男性も女性も育児休業を取得するのが当たり前」。「産後パパ育休」の創設をきっかけに、そうした社会の実現に向けて、私たち自身の意識変革が求められているのではないでしょうか。 

 (総合調査部・政策調査グループ長 摩尼 貴晴)

編集後記

2022年6月、FRBは異例の75bpの利上げ、ECBは11年ぶりとなる7月、9月の利上げを予告、スイスは15年ぶりの利上げをサプライズで発表、と多くの国がインフレと断固として戦う姿勢を見せた。2021年にコロナ禍からの経済回復でサプライチェーンの混乱もありインフレが高まる中でも“一時的”としてインフレよりも景気に軸足を置いていた対応からは180度の転換だ。

最近の各中銀トップの発言にはこのインフレを何とかしないと大変なことになるというような焦りの色が見える。6月に開催されたECBの年次フォーラムでFRBパウエル議長は「利上げが経済を過度に減速させるリスクはあるものの、消費者のインフレ期待をあおる持続的な高インフレの方がより大きなリスク」と発言し、リセッションに陥るリスクはあるものの今はインフレを抑えることの方が優先されると判断しているようだ。ECBラガルド総裁、BOEベイリー総裁らも今は高インフレを定着させないために動くことが重要と発言している。

インフレは一時的と考えていた中銀が何故ここまで心変わりしたのか。当局者の発言を見るとCovid19のパンデミックとロシアによるウクライナ侵攻が世界経済に不可逆的な変化をもたらしたと考えているような感じがする。中国の台頭、環境問題といったこれまでの課題への対応にも大きな壁ができたことで低成長低インフレへの対応という金融政策のレジームが変わらざるを得ないと考える者が出てきているような気がする。依然市場にはパウエルプットの存在を期待している向きがあるがそうした時代は終わったということかもしれない。

賃金上昇を伴うインフレからは日本は独り蚊帳の外。ちなみに6月のECBフォーラムには日銀総裁は出席していない。

(H.S)

摩尼 貴晴


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